第32話:スパウン(邪神の落とし子)
無事テレスタリア一行を町まで護衛したたきび。異世界にきて初めての文明社会に興奮するが、入口にいたのは「いかにも」なテレスタリアの兄、ハルティアだった。テレスタリア一行は?そして、たきびの町での生活はどうなっていくのか?
「審議時間ギリギリとなってしまい、誠に申し訳ございません。早速向かわせて頂ければと存じます」
「ああ、その件に関してだが、実は午前中に変更になってな。違う審議官に来て貰って結審しているのだ」
「――っ!?」
テレスタリアとドーザの目が、見開かれる。
「一体どういうことですか!?今回の審議官は私が行うと父上からも通告がいっているはずでは!?」
あまりの事態に、テレスタリアが激しく動揺を露わにした。
「それについても、後ほど話そう」
ハルティアと言われている男が、重々しい足取りで馬車の方へと歩いてくる。
俺はぶつかる直前にすっと身を引いて脇へ避けた。
「我が妹を襲った不逞の盗賊共はこいつらか。我が愛しき妹を襲うなど言語道断!即刻処刑せよ!監視!連れて行け!」
「お待ちください!!お兄様!この者共から事情を聞き……」
「その必要はない!伯爵令嬢と知りながらの蛮行!万死に値する!連れて行け!」
「お兄様!待って……」
「愛しのテレスタリア。賊やら魔物やらの襲撃で、さぞ怖かったであろう。我が家でまずはゆっくりと休むが良い」
ハルティアはテレスタリアの美しい金髪に触れ、その耳元で冷ややかに呟いた。
「これ以上、私の顔に泥を塗るな」
「……っ!」
「さあ、行こう!美味しい料理も用意しているぞ」
「……はい……」
言葉を失ったテレスタリアの顔からスウっと生気が消えた。
そして、促されるまま馬車に乗り込んで町の中へと消えていった。
ドーザ隊長は苦虫を潰したような険しい顔を浮かべつつ、残った騎士たちに町中の護衛を指示している。
騎士達がその場所を去ると、急にキョロキョロと辺りを見回し始めた。
あ、俺を探してるな。
俺は門から少し離れた物陰でスキルを解除し、小さな小石を足元に軽く投げて合図を送る。
「そちらにいたか、たきび殿。すまぬ……余計な手間を取らせた」
「なんでドーザさんが謝るんですか?」
「……一部始終を?」
「はい、見ていました。後ほど詳しく教えていただけます?」
「……承知した」
ドーザの渋い顔に深い陰りが落ちる。
「じゃあ、俺は一旦並び直して町に入りますね」
「!!……いや、このままで私が手配するぞ!」
「いやいや、それは流石にまずいでしょう。ちゃんと正規の手続きで入りますよ」
「いや、たきび殿!待っ…」
ドーザさんの制止の声を軽く手を振って振り切り、俺は何事もなかったかのように門へ続く入城待機列の最後尾へと並び直した。
町に入るイベントの初体験だからな!これは譲れない!
脳内でアカシャに話しかける。
なあ、アカシャ、あのハルティアって奴、真っ黒じゃん。
『そうですね。自分から「魔物」の襲撃について言及していましたからね』
だよな。野盗の襲撃ならまだしも、途中で魔物に襲われたなんて、現場に立ち会っていないあいつが知るはずないのにさ。
『野盗はテレスタリアさまを抹殺するため。魔物はその野盗の口封じと保険、といったところでしょうか』
俺もそう思う。
しかし、あんな「悪役テンプレ」みたいな白々しい大げさな芝居をナマで見せられるとは思わなかったわ。
思わず吹き出しそうになったよ。
そんな雑談をアカシャと交わしているうちに、あっという間に俺の順番が巡ってきた。
「ちょっと待て」
普通に門を潜ろうとしたら、強面の門番に呼び止められた。
「これを触れ」
差し出されたのは、大きな飴色の鉱石のような玉だ。
なんだこれ?
『【贖罪の琥珀】ですね。手を置くと、その人物が過去に犯した罪の重さに反応して発光する魔道具です』
おいおい、罪ってだいぶ曖昧だな!何基準なんだよ。
『ちなみにストーキングも立派な罪になりますよ』
だから!俺はやってないって!
『……』
え?ちょっと待って?冤罪でやったことになってる……とかないよね!?
「おい!早く手を置け!」
くそっ!アカシャが余計なこと言うから無駄に緊張してきたじゃないか。
大丈夫、俺は清廉潔白だ!
『そういえば、人の家を無断で物色したこともありましたね』
あ…でもあれは遺品をさ!
「ぐずぐずするな!」
ぐいっと無理やり手を引っ張られ、飴色の石に触れさせられた。
待って!心の準備が!嫌ぁあぁぁ!
……しかし、石は一切光を放たない。
「……罪なし。ったく、手間かけさせやがって!行け!」
「……」
心臓が止まるかと思ったぞ……アカシャ!!
『……ぷっ』
なんて奴だ!今度絶対復讐してやる!
と怒りに震えていると――
「おい、そこのお前」
別の門番に再び呼び止められた。
今度はなんだよ…
「はい?なんでしょう?」
「ちょっとこっちに来い」
俺は一般の通行ラインとは違う、脇の狭い専用ルートへ連れて行かれた。
「ここを通れ」
なんだここ?
指示された通路の先を見ると、町の中で待機していたドーザが片手で顔を覆い、「やっちまった……」という表情で天を仰いでいる。
アカシャ、このルート、ヤバいルートかな?
『決して好ましいルートではないですね』
俺が促されるまま通路へと足を踏み入れた瞬間――
ブー!ビィー!!
不快な警報音が通路全体に鳴り響いた。
俺がビクッと肩を跳ね上がらせると、門番が嫌らしい笑みを浮かべた。
「やっぱりな!」
「?」
「お前、ゴーレム使いだな?」
「!」
なんでわかったんだ?!
『右側の壁に魔力を測定するマジックアイテムが埋め込まれているようです。ある一定以下の魔力しか保持していないものに反応する仕組みですね』
それでどうやってゴーレム使いって特定するんだよ?
『統計的に【ゴーレムマスター】を発現する者は、生まれつき保有魔力量が極端に少ない者に限られるためです。因みに現在マスターの魔力値は「0」ですので、完璧に反応します』
なるほどな……
俺は自分で選んだから、アカシャの進化前には魔力があったってことか。
「へへっ!お前からは最初からそんな落ちこぼれの匂いが漂ってたんだよ!賭けは俺の勝ちだな!」
もう一人の門番が舌打ちしながら銅貨を投げ渡している。
「おい、スパウン。手を出せ」
「スパウン?」
「お前の事だよ!早くしろよ!」
右腕を強引かつ乱暴に掴まれた。
何すんだこいつ!?
イラッとして腕を力任せに引き抜こうとした、その時――
『マスター!ダメです!引き抜かないでください!門番が死亡します!』
はあ!?なんで腕を引くだけで門番が死ぬんだよ!
『マスターの現在のレベルは94です。秘められた筋力運動エネルギーの概算値は常人とは比べ物にならない域に達しています!マスターが勢いよく腕を引っ張った場合、作用・反作用および慣性の法則に従い、腕を掴んでいる門番の質量(約80kg)は秒速数十メートルの速度で引きずられ、投げ飛ばされます。その結果、背後の石壁に激突し、全身の骨格粉砕および内臓破裂による即死は免れません!』
物理的なエビデンスが重すぎるわ!
『事実です。ですので、絶対に動かさないで下さい!』
俺は慌てて、腕を自分の力で固定した。
「何だよ。ガチガチだな。緊張してるのか?」
下手に動かしたらお前が死ぬからだよ!
「うわっ!なんだこいつの右腕、火傷の痕か?それとも呪いか何かか?気持ち悪ィな!」
俺の手の甲にあるケロイド状の肌を見て、門番が嘲笑する。
『……ゴーレムを展開して木っ端微塵にします』
待て待て待て!俺が耐えたのになんでアカシャがキレてんだよ!
「ほらよっ!」
ガシャンと金属のスタンプが押し当てられ、右手背に青いインクのような紋様が刻印された。
「なんですか、これ?」
「お前がスパウンだって証明の印だよ!この町にいる間は特殊な薬品を使わねぇ限り絶対に消えないからな!」
『皮膚表面に【魔術刻印】が固定化されましたね。特定の波長の魔力を微弱に放射し続ける仕様です』
へぇ〜、ハイテクな不当差別印だな
印を凝視していると、
「突っ立ってんじゃねぇよ、失せろ!」
ドスッと背中を粗暴に足蹴にされた。
『門番2名の顔形状識別データ登録完了。ゴーレムによる攻撃で最も苦しむ攻撃角度、力量を再計算』
なにその物騒すぎる記録!?問題起こさないでよ?
何はともあれ、俺は無事に(?)町の中へと足を踏み入れた。
「おお……!!」
目の前には石畳の道路が広がり、色とりどりの衣装を着た人々が往来し、活気が溢れていた。
人族だけでなく、獣耳の生えた亜人種やドワーフらしき姿もチラホラ見える。
「すげぇ〜!……実際に見ると、やっぱり異世界に来たんだなって感じがするわ!」
キョロキョロと物珍しそうに見回していると、背後からドーザさんが申し訳なさそうな顔で駆け寄ってきた。
「たきび殿……」
「ドーザさん!町凄いですね!」
ドーザは溜息をつく。
「その印を押されてしまったか…」
「ああ、これですか。いつもこうなんですか?」
「いや……今日はゴーレム使いの検問がある事はわかっていたのだが…」
「…あ!だからあんなに止めてくれたのですか!なんかすいません…」
「その印を刻まれると、店に入れてもらえなかったり、品物を不当に高く売りつけられたりすることがあるから、注意するといい」
「露骨な差別ですねぇ。まあ別にいいです。俺はこのスキルをめちゃくちゃ気に入ってますし。逆に堂々と見せびらかしてやりますよ」
「はは……程々にしておいてくだされ」
ドーザさんが苦笑いを浮かべる。
「たきび殿、約束通り、今回の件を含め色々とお話しする時間を取りたいのだが……今夜、こちらの店に来ていただけるだろうか?」
ドーザさんは懐から小さな紙切れを取り出し、手渡してくれた。
そこには町の地図と、一軒の酒場の名前が書かれている。
「わかりました。夜に行きますね」
「感謝する。では、太陽が沈んだ頃にまた」
「はい」
ドーザさんは何か急ぎの用事があるのか、頭を下げると大股で人混みの奥へと消えていった。
「よし!まずは拠点となる宿屋でも探しますか!」
俺は一人、賑やかな町の中を歩き回ることにした。
言葉も文字も【特典】のおかげでバッチリ読めるので何の問題もない。
俺は意気揚々と、初の異世界町探索を開始した――
控えめにいって、町探索自体はめちゃくちゃ楽しかった。
見たこともないフルーツや不思議な香辛料の匂い、威勢のいい屋台の掛け声。
俺は気になったものを片っ端からアカシャに解説してもらいながら、ぶらぶらと散策を楽しんだ。
だが、買い物をしようとすると露骨な障害が立ちはだかる。
手の甲の印を見た途端、ほとんどの店主は一変して嫌悪感を露わにし、
「あいよ!……あ?なんだお前、スパウンかよ!うちは売り切れだ!失せな!」
と追い払われたり、
「買いたいなら銀貨3枚だね(通常は銅貨5枚)」
と、相場の数倍以上の金額を提示されたりした。
お腹も空いてきたし、背に腹は代えられないので提示されたボッタクリ価格を支払おうとしても、忌々しそうに硬貨をひったくられ、渋い顔をされる始末。
俺はようやく買えたボア(巨大イノシシ)の肉串焼きを頬張りながら、中央広場の噴水の縁に腰掛けた。
「んぐ……うまっ!なんだこれ!?ジューシーでめちゃくちゃ美味いな!今度森で狩ってみるか」
しかし、俺の手の甲に刻まれた青い印に気づいた通行人たちは、あからさまに不快そうな顔を向けたり、コソコソと耳打ちし合ったりして離れていく。
マジで露骨に嫌われてるなぁ。
「おい!そこのお前!」
串焼きを食べ終えた頃、数人の子供たちが俺を指をさして声をかけてきた。
「俺?」
「そうだよ!なんでお前みたいな奴がそこに座ってんだよ!?」
「え?だって、みんな座って休んでるだろ?」
「お前みたいなスパウンが座っていい場所じゃねぇんだよ!汚ねぇな、どっか行けよ!」
「そうだ!そうだ!消えろよ!」
周りの子供たちも調子に乗って便乗してくる。
『……躾がなっていませんね。ゴーレムを…』
だからちょっと待てって!わざとこの印を隠さずに見せて座ってんだからさ
『わざと……ですか?』
そう。町の人たちの素の反応が見たくてね。いわゆる市場調査だよ。
どの程度差別が根深いのかを知っておかないと、今後の立ち回りに影響するだろ?
「はいはい、わかったよ」
俺はため息をつきながら立ち上がり、その場を去ろうとした。
「うわっ、あいつが座った場所、もう呪われて座れないんじゃない?」
「うわー!タッチしたら呪われるぞー!」
面白半分にはしゃぎ回る子供たち。
『……ナイトロ・ゴーレムを…』
やめなさいって!
その後も町のあちこちを歩き回ってみたが、俺に対して好意的な視線を向けてくれる人間は誰一人としていなかった。
子供からしてあれだと、小さい頃からしっかり差別を植え付ける学習が確立されてるって事か。
「この調子だと、宿屋の確保もかなり厳しいな……」
俺は散策がてら、いくつか宿屋の看板をチェックしていた。
「まあ、とりあえず突撃してみるか」
「すみません、空いてますか?」と何軒か尋ねて回ったが、案の定、手の甲の印を見た瞬間に塩を撒かれんばかりの勢いで門前払いされた。
「予想はしてたけどねぇ……ハハハ」
このスキルしか持ってない人は相当生きづらいだろうな。
俺は町の全貌を把握するため、少し小高い場所にある見張り塔のような展望施設へと登り、町並みを見下ろした。
「とりあえず……空の神殿とか教会を探してみるか」
ここから見渡すと、宗教施設らしき建物は……結構あるな!!
『ここは交易の要所となる大きめの町ですので、かなりの数の神殿や教会が存在するようですね』
「なるほどね。確かに町よりは「街」って感じだもんな。日没の待ち合わせまで暇だし、ひとつずつ見て回るか」
俺は塔を降り、再び歩き始めた。
――そして、西の空が茜色に染まり始めた頃。
俺は町の外れ、静かな住宅街の奥にぽつんと佇む、こじんまりとしてはいるが、手入れの行き届いた頑丈なつくりの教会の前に立っていた。
その教会の重厚な木製扉には、見覚えのありすぎる顔――ワラン様の姿が繊細な浮き彫りで彫刻されていた。
『【空の教会】ですね』
「よし……まずは旧知の神様へ、ご挨拶といきましょうか」
俺はコンコン、と静かに教会のドアをノックした――。
ご一読いただきありがとうございます!
システム屋のおじさんが、異世界の仕様をハックしていく物語が始まります。
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次回、第33話は【空の教会】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。お楽しみに!




