第31話:ベルシア
部隊長ドーザにテレスタリアの護衛を依頼されるたきび。しかし、野盗との遭遇の頻度も異常で、どういう状況かドーザに聞いても一向に教えてくれる様子が無い。果たして、たきびはテレスタリアを無事ベルシアに送り届ける事はできるのだろうか。
「たきび殿」
「はい。」
「……本当に隣にいるのか?」
「……このやり取り、今日だけで何回目ですか?」
「すまぬ。ほんとにいるのが信じられなくてな」
馬車の殿でドーザ隊長と並んで歩いているのだが、姿を見せるわけにはいかないので、【気配隠蔽】と【認識阻害】を発動させている。
それがあまりにも完璧すぎるらしく、ドーザ隊長が俺が本当に居るか心配して、小声で頻繁に確認してきているのだ。
「ここまで完璧な隠遁術ははじめて見た……」
「褒め言葉として受け取っておきますよ」
「本当に貴殿には驚かされてばかりだ……」
ドーザ隊長にテレスタリアの護衛を頼まれてから、半日が経っていた。
なのに、既に2回も野盗に襲われているのだ。
何もない叢と少しの林に囲まれた道なのに、エンカウント率がエグい。
しかし、闘っている最中に必ず野盗の具合が悪くなっていくので、騎士達も危なげなく対応できている。
もちろん、俺が野盗の顔面にタクティカル・シェルを被せ、カーボニック・ゴーレム(二酸化炭素)を使っているからなんだけど。
そんな事が続くので「毒ガスでも出ているのでは?」と騎士たちが不安になっていたが、ドーザ隊長がうまく丸め込んでいる。
ドーザ隊長だけは、俺のゴーレムの仕様を知っていた。
はじめて説明した時、ドーザ隊長はなにやら「不憫な子」を見るような同情にも近い目をしていたが、実際にやってみせると顔を青ざめさせていた。
そんなゴーレム、聞いたこともないし、おかしいと。
しかし、目の前では俺の言った事が現実になっているため、納得いかない様子だが、認めざるを得ない事になっているようだ。
「それにしても、野盗多すぎませんか?」
「……」
極秘なのか、俺への配慮なのか、その辺りの事を聞いても教えてくれない。
列の後ろをみると、およそ30人以上の野盗がぞろぞろと手と足に紐を繋がれて歩いている。
どんだけテレスタリアの事狙ってるんだよ。
『マスター、前方500mに10人』
またかよ!面倒くさいな!
すぐさまカーボニック・ゴーレム作戦を実行。
馬車が着く頃には、勝手に具合が悪くなった野盗がヘロヘロの状態で襲ってくる定番の流れだ。
「……たきび殿」
「いますよ」
「あ、いや、そうではなくてだな。貴殿は本当にゴーレム使いなのか?」
「それも何度も言っているじゃないですか」
「いや、やはり信じられなくてな……」
「自分以外でゴーレムマスターのスキルを使っている人を見た事がないのでわからないですが、そんなに弱いのですか?」
「……うむ。少なくとも私が今まで会ったゴーレム使いは──」
話を聞くと、10人程会った事があるらしいが、全員奴隷落ちしていたそうだ。
その中でもコロシアムで見世物戦士として出場させられていた者たちが作ったゴーレムは、ゴーレムとも言えない中途半端な土人形で、10分持たずして自滅して倒れていったそうだ。
それ、身に覚えあるわ。
ゴーレムマスターがレベル2になって【並列思考】や【思考加速】が手に入らないとまあまあ厳しいからな。
「でも、どうして、ゴーレム使いはそこまで毛嫌いされているのですか?」
「貴殿はご存知ないのか?」
なぜそんな事を知らないのだろうと、訝しげな顔をされた。
「はい。私は両親からもそのような話は聞いておらず、亡くなってからは、一人で生きていたため、学が無くて……」
これはアカシャと話し合い、出自をこの世界に合わせたものだ。
嘘ではないグレーな言い回し。
しかし、この世界ではこんなアバウトな状況も日常茶飯事にあるようで──。
「なるほど。苦労されたのですな……ご両親もたきび殿を守るためにあえて教えなかったのかもしれませんな」
おお、アカシャの言った通り、同情された!
「子供の頃から聞かされる話ではあるのですが──」
ドーザ隊長が話し始めようとしたその時。
『マスター。2時の方角から魔物です』
魔物?久々だな。
『草むらの中に隠れて移動しているようです。魔物はコボルト。数にして8体程です』
おお!コボルト!レベルは?
『レベル8〜11』
「ドーザさん、右斜め前方から魔物です。数は8体。コボルトです」
「!」
とっさに指示を出しながら、馬車に駆け寄る。
「馬車を止め護衛陣形!右斜め前よりコボルト。襲撃に備えよ!」
騎士達が瞬時に行動を起こす。
無駄のない命令。素晴らしい。
さて、俺もはじめてのコボルトがどんなものか、初対面といこうか。
『身体能力が高く、男は餌、女は繁殖用に攫います』
ゴブリンみたいじゃん……。
『ちなみに、この世界のゴブリンは温和で人との交流もあります』
マジで!?それは驚きだわ!
馬車に駆け寄ったドーザ隊長はすかさず主人に状況を伝えた。
「お嬢様。魔物の襲撃です。各個撃破致します」
「わかりました」
「ま、魔物……」
ノリアが不安そうな声を上げる。
「大丈夫ですよ、ノリア」
「はい……」
おいおい、普通はあんたがお嬢様に心配掛けないようにするんだろう。しっかりしてくれ。
俺は念の為にドーザ隊長と同じく馬車の周りに移動していた。
草むらがザザっと一部折れ曲がりながらこっちに向かってくる。
身を隠しながらの移動だけど、スピードが早い。
四足歩行の態勢か。
「来るぞ!」
草むらから飛び出してきたコボルト3体は一直線に馬車に。
残りは、なんと野盗の方に回り込んだ。
「馬車が最優先だ!ツーマンセル!」
隊長と兵士5名が戦闘に入った。
初めて見るコボルトはTHE狼男という感じだ。
背は160cm程だが筋肉も発達し、手ごわそうな雰囲気がある。
かわいかったらどうしようと思ったけど…うん、手加減はいらなそうだ。
「うわああ!助けてくれぇ!」
手足を縛られている野盗達はパニックになっている。
いい気味だと思いつつも、餌として持っていかせるわけにはいかないため、残り5体のコボルトの顔にナイトロ・ゴーレムを張り付かせ、顔ごとシェルで覆い、ナイトロ・ゴーレムをリリース。
必勝パターンだ。
純度100%の窒素で覆うことで肺の中の酸素を一気に分圧差で奪い、無酸素脳震盪を起こさせて即座に意識を途絶えさせる。
よだれを垂らしながら野盗共に近づき飛びかかろうとした瞬間、バタバタと倒れていった。
馬車の方に目をやると、戦闘は続いているものの、負ける雰囲気はなさそうだ。
「ひぃ!」
馬車の中からいちいち声が聞こえるが、これは間違いなくノリア女史のものだな。
もうちょっとしっかりしてもらいたいものだ。
数刻ののち、戦闘は終わった。
コボルト8体は見事撃退されたが、野盗共が「この辺りは絶対毒が充満している!早く移動してくれ!」と騎士に懇願していた。
『存在自体が毒認定されてますね。さすが毒草マニアのマスター』
ちょっと何言ってるかわからないです。
アカシャのいじりを軽く受け流し、また殿に戻り、馬車と共に進んでいった。
──夜になり、野営をする事になった。
本来なら夜には着いていたはずだが、度重なる襲撃とテレスタリアの疲労を考え、一泊せざるを得なくなってしまったのだ。
「明日の正午までは着くといいのですが……」
テレスタリアがポツリと呟く。
俺はちゃっかりテレスタリアの横に座っているが、誰も気づかない。
ドーザ隊長も側で護衛にあたっているが、俺がどこにいるのか気になるようでチラチラ周りを見ている。
足元におりますよ、ドーザさん。
『ストーキングとはいい趣味をお持ちで』
ほんと、どこでそんな言葉とツッコミ覚えるのアカシャ。
そんな子に育てた覚えはありません!
「大丈夫でございますよ、お嬢様。きっと間に合います」
「ありがとう、ノリア」
どうやらかなり大切な用事のようだな。
俺は草むらの方に移動し、わざとガサガサと音を立てた。一定の間隔で。
にわかに緊張が走るが、ドーザ隊長が剣の柄に手を当て、
「様子を見てきます」
と移動する。
そう、これは俺達の合図。
何か話したい事があった場合は俺が草むらで合図する手筈になっていた。
「何かあったか?たきび殿」
「いや、この周囲に敵や魔物はいないので、先に休ませてもらおうかと思って」
「そうか。今日もご助力感謝する」
「……ドーザさん。そろそろどうなっているのか教えてくれてもいいんじゃないか?」
「……」
「もしかして俺の事を含めて配慮してくれているのかもしれないが、敵がはっきりしない事にはこっちも対策が打ちづらくてさ」
「……明日、街に着いたらで構わないだろうか」
「OK。じゃあ、おやすみなさい」
「 おーけ?ああ、ゆっくり休んでくれ」
ドーザ隊長はテレスタリアの元に戻っていった。
俺は少し離れた所に行き、わからないようテントを設営して就寝した。
──次の日。
支度を済ませると早朝から移動を開始した。
テントの撤収がインベントリで一発でできる快適さは、もう手放す事はできないな!
地球の友達にも教えてやりたいぜ。
「たきび殿、このまま行けば昼前にはベルシアに着けるだろう」
「そうですか!はじめての町なのでちょっとウキウキします」
「……」
「どうかしたのですか?」
「たきび殿、町の中ではゴーレム使いという事は隠して行動する事をお薦めする」
「……前にも言っていましたね」
「その事に関しても町に着いたらお話しよう」
「わかりました」
昨日とはうって変わり、襲撃も無く、順調に進んでいった。
そして、目の前に大きな壁が見えてきた。
「あれが、ベルシアだ」
ドーザ隊長が呟いた。
おお!!異世界に来て初の町だ!!これは感動するな!
魔物などの襲撃から町を守るためだろうか、かなり高くて堅牢そうな外壁が続いている。
このルート以外もあるようで、たくさんの馬車や荷車が、入口っぽい、防衛門部分を目指して動いているのがチラホラ見えるようになった。
俺は興奮を抑えられなかった。
『お上りさんになっていますよ』
お上りさんじゃん!だからはしゃいでもいいのだ。
「たきび殿、私は先に町の検問に報告に行ってくる。ここまで来れば何もないと思うが、引き続き警戒を頼みたい」
「了解」
まさに騎士の鏡だな。
そう言うとドーザ隊長は走り出し、馬車の窓から何かを手渡されると、そのまま防衛門まで走っていった。
アカシャ、ベルシアって大きいの?
『ベルシアは、トーラメルキア帝国第三の都市と言われています。奈落の森に近い町の一つで、ここで一獲千金を狙う冒険者などの屈強な人物も多く、商業機能も充実した町といえます』
おお!じゃあもしかして例の物も?
『ある可能性は高いです』
よし!俺は小さくガッツポーズした。
まあ、とりあえず町に入ったら宿と空の神殿探しだな。
色々考えているうちに、防衛門もだんだん近づいてきた。
ドーザ隊長の姿も見える。
ん?ドーザ隊長の脇に誰か立ってるな。
ようやくテレスタリアの馬車が防衛門の前につくと、テレスタリアが馬車から下り、うやうやしくその人に挨拶をした。
「ハルティアお兄様、ご機嫌麗しゅう」
「よく来たな!我が愛しの妹、テレスタリア!」
両手を広げて歓迎する妙に演技がかった男に、俺は親近感と違和感の両方を覚えた。
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次回、第32話:【スパウン(邪神の落とし子)】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




