第29話:どうやったら助かりますか
なんと、永灯が言っていた事が目の前で起きている事に困惑するアカシャ。その状況にほくそ笑む永灯。
果たして永灯の知っている「人助けのテンプレ」は、本当に実現するのか?
『私は一体、何を見せられているのでしょうか……?』
くっ、くっ、くっ!アカシャからそんな言葉を聞ける日が来るとはなぁ。
脳内に直接響く相棒の困惑気味な声に、俺は思わず口元を緩めた。
目の前の出来事が、俺が語っていた内容そのままになっていることに、アカシャはかなりの衝撃を受けているらしい。
街道らしき道を発見して歩くこと、およそ丸一日。
15人ほどの見るからにガラの悪い盗賊たちが、豪奢な馬車を襲撃している現場に遭遇したのだ。
もちろん馬車側も無抵抗ではなく、6人の護衛騎士が剣を抜いて応戦体制に入っているが、数でも押し込まれており明らかに分が悪そうだった。
『……こんな何もない草原の街道において、マスターが言っていた「人助けのテンプレ」がそのまま実現するなど……天文学的な確率……この未来も導き出すには…』
まだブツブツ言ってんの?相当ショックだったんだな。
「アカシャさん、そろそろ目の前の出来事に対応したいんだけどいいかな?」
『失礼いたしました。あまりに統計確率から逸脱した事象が目の前で繰り広げられておりましたので…』
「早速だけど相手の情報をくれる?」
俺は『気配隠蔽』と『認識阻害』を発動して駆け寄っていった。
『了解いたしました。あの盗賊たちの中で最も脅威となり得るのは、中央で指揮を執っている髭面の男です。個体のレベルは18』
レベル18か。人としては強い方なのか?
『下の上、といったところでしょうか』
なるほど……。いわゆる猿山の番長レベルか。
『ですので、マスターが直接打撃を加えた場合、加害部位が破裂して即死する可能性が極めて高いです』
「えっ!?」
あまりの物騒な忠告に、俺は思わず素の声を上げて足を止めてしまった。
その拍子に、発動していたはずの『気配隠蔽』と『認識阻害』がふっと途切れてしまう。
次の瞬間――現場にいた全員の視線が、一斉にこちらへ注がれた。
「なんだテメェ!?いつからそこにいやがった!?」
盗賊の下っ端らしき男たちが、ギラつく刃物をこちらに向けて怒鳴り散らしてくる。
「こいつ、護衛の仲間か!?」
「知るかよ!一緒に切り刻んじまえ!ヒャッハー!」
なんだあのテンプレ通りの叫び声は。何か変なものでもキメてんのか?
何にせよ、問答無用で襲いかかってくるって事は、悪党確定です。
「今です!」
俺は大声で叫んだ。
「今だと?そんなわけ――」
油断した盗賊のスキを突き、護衛騎士の一人が目の前の輩を鮮やかに斬り伏せた。
俺のとっさの声かけに、反応してくれたらしい。
「野郎ども、構わん!まとめてやっちまえ!」
盗賊のリーダー男が怒号を上げ、現場は一気に乱戦状態へとなだれ込む。
『マスター。直接の対人戦闘は避け、ゴーレムによる戦闘を推奨します』
「あ、そうなの?」
俺はインベントリから、あらかじめ作成しておいた全高3メートル級のマッド・ゴーレムを召喚した。
「あいつ、錬金術師か!?」
「手強そうだぞ!先にあの野郎をやっちまえ!」
迫りくるゴーレムを見て、盗賊のうち3人がターゲットを俺に変えて突っ込んでくる。
1人をゴーレムに任せ、俺は2人に対応しようと身構えた。
初めての対人戦か。心が高揚する。
――その瞬間、俺の意図とは無関係に2体のゴーレムがすっと前に出て、あっけなく2人の盗賊を叩き伏せた。
吹き飛んだ二人は地面を転がり、そのまま気絶する。
「ちょっとアカシャ!割り込まないでくれる!?初めての対人戦を経験しようと思ったのに!」
『先程忠告したばかりですよね。加減の利かない状態での生身の戦闘は極めて危険です。相手が』
「なにそれ、俺から盗賊を守ったってこと!?」
『対人戦の直接戦闘は、適切な力加減を習得されるまで禁止とさせていただきます』
俺ってそんなヤバいやつ扱いなの?
渋々ながら、俺はマッド・ゴーレムをさらに2体追加召喚し、計5体で戦線を押し戻しにかかった。
「ゴーレムが5体だと……!?おいおい、ヤバいだろ!」
「マジで高ランクの錬金術師かよ!?」
重厚な足音を立てて迫る土の巨像を前に、盗賊たちが青ざめて後ずさりする。
「テメーら!そんな土くれ人形にビビってんじゃねえ!図体がでかいだけで、動きは大して速かねえんだよ!やれぇ!」
リーダーの男が怒鳴りつけ、喝を入れる。
その言葉に煽られた2人の男が、おたけびを上げながら勢いよくゴーレムへ突っ込んでいった。
ドスッ!ドスッ!
鈍い音が響き、鋼の剣がマッド・ゴーレムの胴体に深々と突き刺さる。
「ハッ、本当だ!こいつら見た目倒しで全然大したことねえぞ!」
男がニヤリと下品な笑みを浮かべ、剣を引き抜いて追い打ちをかけようとした――次の瞬間。
ドカンッ!
ゴーレムの太い腕が丸太のような軌道で薙ぎ払われ、男たちは木の葉のように吹き飛ばされた。
「なっ!?」
リーダー格の男が目を見開く。
いくら土製とはいえ、死線をくぐり抜けてきた俺のマッド・ゴーレムちゃんたちがそんなヤワなはずがないだろ。
まあ、俺が強くしてるんだけど。
ちなみに、アカシャからは「ゴーレムの出力強化は2倍までに抑えてください」と強く念を押されている。
本当なら最大強化して無双してみたかったのだが…安全基準が厳しすぎる。
そこからは、まさに一方的な展開となった。
5体のゴーレムが、次々と襲いかかる盗賊たちをあっという間に叩き伏せ、気絶させていく。
「舐めてんじゃねえぞっ!」
ついに追い詰められたリーダー格の髭男が、目の前のゴーレムに立ちはだかった。
「『肉体強化』!『筋力ブースト』!」
男が叫ぶと同時に、その全身の筋肉が脈打ち、一回り巨大化する。
おお、スキルの発動か!この世界で人がスキルを使うところを初めて見たぞ!
「これでも喰らいやがれぇ!」
振り上げられた大斧が、唸りを上げてゴーレムの肩口へ叩きつけられた。
ガツンと重い衝撃音が響き、土の身体が深く削れて崩れ落ちる。1体のゴーレムが崩壊して土へと還った。
「見ろ!所詮は土人形だ!押し通せるぞ!」
男がゲハハハと下品に笑う。
むむ……出力を2倍に制限しているとはいえ、ゴーレムが壊されるのを見るのは気分がいいものじゃないな。
俺は1体のゴーレムに、こっそり『ゴーレム強化』を4倍まで引き上げた。
「何匹来ようが同じだぁっ!」
リーダー男は先ほどと同じように、力任せに大斧を振り下ろす。
ズスッ!
だが今度は、斧がゴーレムの表面をわずかに削っただけで止まった。
密度と硬度を増した土の身体に阻まれたのだ。
「何だと!?」
うろたえる男の顔面へ、ゴーレムの巨大な拳が吸い込まれていく。
ボンッ!
凄まじい風切り音とともに炸裂したゴーレムパンチを受け、男の巨体が20メートル近く後ろへと吹き飛んだ。
「ガハッ……!こ、この……」
「おお、あの威力を喰らってまだ立ち上がるか」
タフな男だったが、そこまでだった。
男は膝から崩れ落ち、白目を剥いてその場に倒れ伏した。
「よし、勝ったぞ!」
『お疲れ様でした。周辺の敵性反応、すべて沈黙しました』
俺はゴーレムたちを操作し、転がっている盗賊たちを一箇所に集めさせた。
すぐさま護衛の騎士たちが駆け寄り、手際よく縄で手足を拘束していく。
やがて、護衛騎士のリーダーと思われる人物がこちらへ歩み寄ってきた。
甲冑の兜を跳ね上げると、中にあったのは蓄えられた髭がよく似合うナイスミドルな男の顔だった。
まさに「部隊長」といった風格だ。
俺の叫び声に真っ先に反応して隙を作ってくれたのも、この人だったはずだ。
ただ……お礼を言いに来た割には、腰の剣から完全に手を離しておらず、こちらを鋭く観察している。
まだ警戒を解いていないらしい。うん。まさに騎士の鏡。
「甲冑越しからで失礼する。見事な戦闘とご助力、心より感謝する」
「いいえ、たまたま通りかかっただけですから。皆さん、お怪我はありませんでしたか?」
「貴殿のおかげで、幸いにも大事に至った者はいないようだ」
「それは良かった」
俺は愛想笑いを浮かべつつ、世間話を装って尋ねてみた。
「この辺りは、よく盗賊が出る場所なんですか?」
「!……いや、たまに出没するという噂程度はあったが……」
「なるほど。私はここを通るのが初めてだったもので」
返答の歯切れが悪いな。ふむ、これはもしかして貴族のお家騒動か何かに巻き込まれているパターンか?
『マスター、勝手に脳内で例のテンプレ妄想を膨らませないでください』
分かってないなぁアカシャ。人助けのテンプレにはそういうルートもあるんだよ!
騎士は俺の様子を観察しながら、慎重に言葉を紡ぐ。
「……その若さで、あれほどの数のゴーレムを同時に、かつ精密に操作されるとは。貴殿はどこか高名な工房の錬金術師とお見受けするが?」
「いえ、私は錬金術師ではなくて『ゴーレム使い』ですよ」
「え?」
「え?」
騎士の動きがピタリと止まった。
「……はっはっは!またまたご冗談を。これほどの戦闘力を発揮されるあなたが、あのゴーレムマスターのスキルを使うという事はありえないでしょう」
「はっはっは!いや、本当なんですって」
「……」
あれ?急に場の雰囲気が冷え込んできたぞ……?
その時、豪華な馬車の中から可憐な女性の声が響いた。
「……盗賊たちは、退散いたしましたの?」
「失礼」
騎士は一礼すると、おもむろに馬車の方へと駆け寄り、扉の脇で膝をついて何やらヒソヒソと話し始めた。
「ちょっと盗み聞きでもしてみようかな」
『良い趣味とは言えませんね』
「そうだな。やめとくか」
アカシャとそんな軽口を叩き合っていた直後――馬車の中から甲高い大声が聞こえてきた。
「いけません、お嬢様!」
「ですが、助けて頂いたのにお礼も申し上げないなど、我がロンブリッツ家の名に泥を塗ることになりますわ!」
「しかし!あのような『汚れた者』に助けられたなどと知られれば、それこそロンブリッツ家の威信に関わります!ゴーレム使いなどと……!」
「ですが……!」
「……排除……あるいは……口止めを……」
なにやら不穏なやり取りが漏れ聞こえてくる。
「なあアカシャ……今、『汚れた者』とか『排除』とか聞こえたんだけど」
『はい、はっきりと。マスターに対する明らかな蔑視と不利益の意図が含まれています』
おもむろに馬車の扉がわずかに開き、騎士へ向けて小さな革袋が手渡された。
騎士は一礼すると、再びこちらへ向かって歩いてくる。
その表情は先ほどまでの感謝の面持ちではなく、硬く冷ややかなものに変わっていた。
「……失礼した。此度の襲撃に対しご助力いただいた件につき、我が主よりお礼をお渡しするよう命じられた。受け取ってほしい」
差し出された革袋からは、ズシリとした重みが感じられる。
これはあれだな。金貨が詰まっているやつだ。
「いえいえ、私は通りすがりに少し手を貸しただけですので、そのような大金は受け取れませんよ」
もちろん、ここは一旦遠慮してみせるのが大人のエチケットというやつだ。
『嘘ですね。テンプレ通りのやり取りを楽しもうとしているだけです』
横槍を入れるんじゃないよ、アカシャくん
しかし、騎士の態度は頑なだった。
「……受け取ってもらわねば困るのだ」
…俺のためというより、まるで「これを受け取って早く消えろ」と言いたげな圧力があるな。
ナイスミドルの目つきにも、どこか鋭い威圧感が宿っていた。
「……分かりました。そこまで仰るなら、有り難く頂戴いたします」
「感謝する」
俺が手を出して革袋を受け取った――その瞬間。
シュバッ!
鋭い風切り音とともに、騎士の剣が俺の首元をめがけて一閃された。
「っと……!?」
俺はとっさに身を翻し、首を大きく後ろへ引き、刃をかわした。
刃先が鼻先数ミリをかすめて過ぎ去る。
地面にドサリと革袋が落ちた。
「……」
騎士は無言のまま、油断なく剣を構え直すと、ジリジリと間合いを詰めてくる。
『どうやら、マスターの存在そのものが彼らにとって不都合なようですね。ゴーレム使いに助けられたという事実を揉み消すための口封じでしょう』
やっぱりそんな感じか……ゴーレム使いがそんなに忌み嫌われてるとはね。ここで俺が反撃したらどうなる?
『恐らく、今回の襲撃の裏で糸を引いていた主犯格として、完全にならず者に仕立て上げられるでしょう』
ここで逃げても同じかな?
『可能性はきわめて高いです。指名手配される恐れがあります』
はぁ……面倒なことになったなぁ。圧倒的な力の差を見せつけて黙らせてみる?
『あまり良い結果につながるとは思えません。相手は貴族の権力を持っています』
貴族ってメンツを潰されると、ありえないしつこさで報復してくるイメージがあるからな。
見ると、周りの護衛騎士たちも剣を抜き、俺を取り囲むように間合いを詰めてきていた。
仕方ない、ここは一か八かだ。
俺は大きく息を吸い込むと、腹の底から大声を張り上げた。
「俺はどうやったら助かりますかぁーーーーーー!!??」
ご一読いただきありがとうございます。
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次回、第30話:【たきび】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




