第26話:町へ
自分が掲げたロードマップを実現するために動き出す永灯。拠点作りと自身のレベルアップのため、日々行動していた。
はたして拠点づくりは上手くいくのか?
グリフォンの急襲によって拠点の中央に穿たれた巨大な大穴。
まずはこれを何とか塞ぐ必要があるのだが……
困ったことに、大岩の周囲には山も崖も見当たらない。
あるのは見渡す限りの深いジャングルだけだ。
「うーん…穴を埋める土も岩も足りないとなると……いっそ池にして水瓶にするか」
『マスター、良い判断です。畑の水やり用として蓄水池を作成するのが最も合理的かと』
思考を口に出すとアカシャがすぐに同意してくれた。
幸いにもこの地域は雨が多く、穴の底にはすでに薄っすらと水が溜まり始めていた。
「ただ、このままだと雨が降り続けた時に溢れちゃうな。オーバーフロー用の川を作らないと」
そう提案しつつ、ふと素朴な疑問が浮かんだ。
思い返せば、この周辺には川や沼といった生き物に必要な水源が一切見当たらないんだよな。
「なぁアカシャ。この辺って川もないのに、生き物達はどうやって喉を潤してるんだ? 雨だけで足りてるとも思えないんだけど」
『解析します。』
アカシャは一瞬沈黙し、すぐに脳内で説明してくれた。
『この地域には「アクアラシス」と呼ばれる固有の植物が自生しているようです。幹内部に大量の水分を蓄える性質があり、外皮を傷つけることで清涼な水が噴出します。現地生物はこれを天然の水源として利用している様です』
「そんな便利すぎる木があったのか……全然わからなかったな」
『毒草採取ばかりに興味があるマスターには、見つけるのは難しいかもしれません。』
「興味があるんじゃなくて、それしか無かったから採取してたの!」
アカシャの鋭いツッコミに小ダメージを受けつつ、作業を開始する。
池予定の穴の側面をマッド・ゴーレム化させつつ掘り進め、オーバーフロー用の水路を伸ばしていく。
土掘り作業にゴーレムのスキルを活用できるのは本当に便利だ。
マッド・ゴーレムは一旦インベントリの中に格納する。
生物認定されていないので、問題なくそのまま入るのだ。
しかも、格納時の状態で固定されるため、ゴーレムマスターの能力を解除しても崩れることなくそのまま残る。
おかげで、現在大量のマッド・ゴーレムがその姿のまま保管されている。
インベントリって、改めて考えると本当に便利な機能だよな。
「しかし……これどこまで掘ればいいんだろ。途中で既存の川にでもぶつかれば一番楽なんだけどな」
『現時点で半径3km以内に既存の河川は検知されていません。作業の継続を推奨します』
「うぐっ……分かってたけど厳しい現実を突きつけないで……」
大岩周辺5kmにもそんなものは無い事は確認済みだし。
苦笑いしつつ、水路の掘削と並行して、水素爆発で更地になってしまった拠点境界線の防壁作りにも着手した。
並列思考、様々だな。
「そっちの現場監督はアカシャね」
『かしこまりました』
防壁の素材には、切り倒したアイアンオークの丸太を使用する。
アイアンオークの恐ろしい硬度を考えると、切断できるのは俺の所持する万能ナイフか、高圧水レーザーのみだ。
「よし、高圧水レーザーゴーレム3体、出撃させてくれ! 環境破壊にならない程度に適当に間引きながらお願い」
『了解しました』
切り出した丸太はそのままアイアンオーク・ゴーレムに加工し、二足歩行で拠点まで自力で運ばせた。
「アカシャ、木の皮を綺麗に剥いで加工したりできるか?」
『皮剥ぎや接合加工には精密な技術を要します。作業効率が著しく低下するため、丸太のまま打ち込む簡易的な手法を推奨します』
「了解。下手に加工するより、丸太のまま隙間なく地面に打ち込むのが一番頑丈そうだしな。なにしろアイアンオークだし!」
俺の中のアイアンオークの信頼感はかなり高いのだ!
しかし、前世でも思ってたけど、木材加工とか建築とか、凄い技術力だよな。
そんな事を思いつつ、防壁の建設を進め、残ったリソースで畑の整地も行う。
「あれ? 水源となる池を中心に放射状に畑を広げれば……見栄えも良くてデッドスペースも減らせるんじゃね!?」
我ながらナイスアイデアだ。
『肯定します。丸い水源に対しては、格子状よりも放射状(扇状)に区画を配置する方が円周に沿った無駄な隙間が生じず、土地の利用効率が最も高くなります。放射状での造成を推奨します』
「お、一発採用! よし、それじゃ放射状に無駄なく作っていくか!」
アカシャのお墨付きも得られたので、円形の発想を活かして効率重視の放射状区画で整地することにした。
俺はオーバーフロー用の川作り、スタレーニの畑作りと採取、そしてレベルアップのための魔物刈りを続けた。
美味しいバイオレットホーン・ラビット、いつも何故か俺を煽ってくるサラマンダー・エイブ、荒くれもののニードルアルマ・グリズリー、いつも戦闘でヒヤヒヤさせるピットヴァイパーソーム。
いつものメンツに加え、最近新たにシャドウ・サーベル(レベル135)、ガスバグ・スパイダー(レベル112)という魔物に遭遇。
「今まで見なかったやつだ。もしかしたらグリフォンを倒した事で少し生態系が変わった?」
『個々の縄張りなどで、ただ単に遭遇しなかったという事も考えられますが、可能性としては十分あります。』
シャドウ・サーベルは前世でいう黒豹みたいなやつで、攻撃全てに真空刃みたいなものが乗る凶悪な相手。
ガスバグ・スパイダーは蜘蛛ならではの戦闘能力の高さに加え、迂闊に火を使うと体内のガスに引火して爆発したり、自爆する超厄介なやつだった。
アカシャとの連携と対応でなんとか切り抜けたが、やはりこの森は気が抜けない。
戦闘を交えつつのオーバーフロー用の川作りは、一ヶ月以上続けたものの、結局5km掘り進めたところで俺の精神力がギブアップ。
ここを放水地点とすることにした。
「……ここから先が沼地になったらごめんなさい」
『生態系への影響は軽微であると推測されます。問題ありません』
「アカシャがそう言うなら大丈夫か!」
俺は一つの作業が完了した事に安堵した。
――次の日
念願の注水を行う事にした。
簡単ではあるが、この場を守ってくれている大岩に感謝も含めて、注水式を行うことにした。
俺は大岩に向かって静かに手を合わせ、礼をする。
ゴーレム達も同じようにお辞儀をした。
水はもちろん、ウォーター・ゴーレムで賄う。
「よし、ついでに検証として限界サイズのウォーター・ゴーレムを作ってみるか」
俺が使っているゴーレムマスターへのリソースを全て解除。
久しぶりにこの森から全てのゴーレムが消えた。
「やるぞ!」
俺はすべての力を注ぎ込んで空気中から水の分子を集めウォーター・ゴーレムをつくり始めた。
結果、限界値は高さ約30m、質量にしておよそ500tであることが判明した。
「サイズと重さに明確な上限が存在することを確認できました。貴重なデータです」
リソースを全て使ってウォーター・ゴーレムの作成・維持を行い、地面でOrzの形になっている俺を尻目に、アカシャは晴れやかな声を脳内に響かせた。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思った…」
理想の機動戦士を作るには、まだまだ時間が掛かりそうだ…
休憩を何度か挟んで精神力を回復させつつ、最大サイズのウォーター・ゴーレムを約5体注ぎ込むことで、巨大な池はなみなみと清らかな水で満たされた。
「よし!注水完了!」
オーバーフロー用の水路も正しく機能しており、これで異常気象でも起きない限り、拠点の水が枯渇することはないだろう。
スタレーニの栽培の方は、あのクソ鳥――グリフォンの灰が上質な肥料となったのか、すこぶる順調だった。
毎日美味しいスタレーニを安定して食べる事ができるようになり、非常に満足している。
そして、畑を拡張し続け、防壁や立派な門が着々と形を整えていくうちに――
――あのグリフォンとの死闘から、三ヶ月の月日が流れていた。
堅牢な防壁に守られた敷地内には、今や瑞々しい緑を湛えた巨大なスタレーニ農園が完成している。
「当初の予定では2ヶ月で完成、出発するはずだったんだけどな……」
『マスターのレベルアップ速度が想定よりも遅延したことが原因です。グリフォンの戦闘力は当時のマスターにとって極めて異例の規格外でした』
「一回の戦闘でスキルがレベルアップするとか。あの鳥の強さは本当に異常だったって事だよな。ああいう輩とは二度と戦いたくないな!」
『喧嘩を売ったのはマスターですが?』
「…さてと!」
俺の心をえぐるようなアカシャのツッコミを何事も無かったように交わしつつ、顔をニヤつかせた。
なぜなら、地道な苦労がやっと昨日報われ、ゴーレムマスターのスキルがレベルアップしたのだ!
「新スキル【マルチマテリアル】と【エーテルドライブ】を使ってゴーレムを再実装する!」
これにより、拠点におけるゴーレムの全自動運用が一気に現実のものとなる。
「準備は、すべて整ったな!やるぞ!」
俺はアカシャの力も借り、新たなゴーレムのイメージを膨らませつつスキルを発動させた。
地面や空気から必要な素材を集め、新たにゴーレムを作成していく。
出来上がったのは、農作業専門のマッド・ゴーレムが10体。
さらに腕部に高圧縮水レーザーを搭載した、狩猟&採取用のアイアンオーク・ゴーレム5体。
もちろん、諸々の補助スキルが組み込まれている。
「夢にまで見たフルオートゴーレム農園の完成だー!」
俺は嬉しさのあまり、その場で小踊りした。
『……マスター、なんですかその変な踊りは。あまりはしゃぎ過ぎると転倒しますよ』
脳内のアカシャの声は呆れているようでもあり、どこかすこし微笑ましく見守ってくれているようでもあった。
「ねえアカシャ、今日はビール飲んでいいよね? ねっ!?」
『特別に許可します』
俺は小さく「よっしゃ」と呟き、心の中で勝利のガッツポーズをかました。
そして――次の日。
俺はこの拠点を離れ、半年間過ごした森を抜けて町へと向かう。
空の神殿を目指すために。
「今までありがとうな、大岩さん」
大岩に向かって深く頭を下げ、感謝を捧げる。
凶悪なこの森で俺が今日まで生きてこられたのは、間違いなくこの大岩があったから。
大岩の圧倒的存在感のおかげでこの森の中を、迷わず生き抜く事ができたのだ。
俺の中では既に信仰の対象にまでなっている。
『マスター、そろそろ行きましょうか』
「ああ、そうだな。大岩さん、ゴーレムと畑の事、よろしくお願いします」
重厚な門を開けると、見送りのために並んだゴーレムたちへ大きく手を振り、俺は新たな一歩を踏み出した。
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次回、第27話:【恐怖再び】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




