第21話:猛攻撃
先制攻撃でグリフォンの度肝を抜くも、なかなか有効だに繋がらず、グリフォンの怒りだけを増長させる。本気を出してきたグリフォンの猛攻が、永灯を襲う!
その巨体をふわりと空中に浮かべたグリフォンの顔や背中の周囲で、空気が不自然に歪み始める。
『グリフォンの顔および背中付近に計8箇所の空間歪みを確認。……エアーショットが来ます』
「8発同時?!嘘だろ!? 」
魔法って1発打てば大抵クールダウン的なものがあると思っていた。
ゲーム感覚が抜けてない!見積もりが甘かった!!
「クソッ、アカシャ! 飛んでくる弾道の演算を頼む!」
『了解しました。…回避は不可能です、防御の準備を!』
「わかってる!」
俺は目の前、予測された射線上に、マッド・ゴーレムを素早く出現させた。
ただのマッド・ゴーレムじゃない。
スキル『ゴーレムマスター』の出力を限界まで引き上げ、さらに派生スキル『ゴーレム強化』によるバフを最高値まで上乗せした、俺の現時点における最大硬度の盾だ。
地球の物理学において、最も頑強な建造物の一つである原子力発電所の原子炉格納容器。
そのコンクリートに求められる設計基準は最高で80MPaと言われている。
今、俺が目の前に展開した極限圧縮仕様のマッド・ゴーレムは、まさにその領域だ。
今の俺の精神力とコントロールの限界からして、同時に維持できるのは、丁度8体が限界だった。
キリキリと脳の奥が焼けるような痛みに襲われるが、そんな感傷に浸っている暇はない。
「防げえええっ!」
次の瞬間、グリフォンの周囲の空気が爆ぜた。
大気を超高圧で弾丸状に圧縮したエアーショットが、凄まじい衝撃波を伴って一斉に襲いかかる。
ズガガガガガンッ!!!
激しい衝撃音とともに、周囲の土や風圧が爆風となって吹き荒れる。
だが、8体のマッド・ゴーレムたちはその場に踏みとどまり、グリフォンの放った暴風の弾丸を完璧に阻止してみせた。
「……エアショットをバラけさせた分、威力が落ちたか。なら!」
グリフォンがその金色の双眸を細める。
さらに奴の周囲の空気が、今度はさらに密度を増してうねり始めた。
『警告、大気の高密度収束を検知。風の第二階梯魔法「エアジャベリン」が来ます!』
「第二階梯魔法も複数……? 冗談じゃねえぞ、あいつの魔力量はどうなってやがる!」
と同時に、俺は以前から気になっていた疑問をアカシャにぶつけた。
「なあ、アカシャ。なんでお前には魔法の種別や発動タイミングが正確にわかるんだ? もしかして、魔法陣とか魔力の流れが視覚的に見えてるのか?」
『それ、今聞くことですか!?』
アカシャは驚きとも呆れとも取れるトーンで
『見えています。術者の魔力構築パターン、および空間の魔力振動を知覚・解析してます。おそらくマスターは魔力(MP)が「0」であるため、視覚的に見えないと推測されます。』
「……なるほどな。魔力がない不便さが身に染みるぜ。だが、お前が見えてるなら問題ない!」
俺はアカシャが算出した攻撃ルートにマッド・ゴーレムを再設置した。
「来やがれ!」
グリフォンが翼を羽ばたかせると、キィィィンと耳を劈くような高周波の音が響いた。
静電気を帯び、目に見えるほどに白濁した空気の塊が、鋭利な槍の形を成して一直線に突き刺さってくる。
ドスゥッ!!!
鈍い音が響き、俺は目を疑った。
原発の建屋並みの硬度を誇るはずのマッド・ゴーレムの胸部が、いとも容易く、深く穿たれたのだ。
グリフォンは勝負の行方を確信したように卑しく笑うと、間髪入れずに第二波、第三波のエアジャベリンを乱射し始めた。
ドガガガガガガガガガン!!!
それはまるで、数十機の主力戦車を目の前に並べられ、連続で徹甲弾の砲撃を浴び続けているような絶望的な光景だった。
超高密度に圧縮された風の槍が、マッド・ゴーレムの体に次々と刺さり、その度に破片が飛び散り、崩壊していく。
このままでは持たない!――そう直感した、次の瞬間だった。
『後ろです、マスター!!!』
アカシャのつんざくような警告。
考えるより先に、スキル『インターセプト(自動防御)』が不意の死角からの攻撃に反応した。
ガキィィィン!!!
金属同士が激突するような甲高い音が響き、俺の後方で、ボトボトと何かが地面に落ちる音がした。
落ちたのは――グリフォンの、鋼のように鋭い羽だった。
あいつ!正面からエアジャベリンの猛砲撃を浴びせ、俺の意識を引きつけながら、同時に自らの羽を射出して背後から攻撃してきたのか!
インターセプトがなければ、今の一撃で俺はダーツの的のようになっていたぞ。
「あぶねえ……ッ!」
冷や汗が背中を伝う。
だが、安堵した瞬間、落ちた羽の表面から、怪しく、不気味な紫色の煙がゆらりと立ち上るのが見えた。
嫌な予感が脳裏をよぎる。
「しまっ――」
その瞬間、紫色の煙と羽をエア・ゴーレムが体内に包み込む。
『有機毒素を検知。羽の成分に「ピットヴァイパーソーム」の毒素が合成されています。即座にアーマードでエア・ゴーレム内に隔離しました。』
アカシャの冷静なナビゲーションが響く。
「助かった!さすが!」
エア・ゴーレムの体の中が紫の煙で充満していく。
「 念には念をって事か。えぐい真似をしやがって……!」
あまりに合理的で冷酷な戦闘スタイルに寒気が走る。
だが、奴は俺に一息つかせる気など微塵もないようだった。
今度はグリフォンの周囲で、ゴォォォォと地響きのような風切り音が鳴り響く。
数は4本。
だが、その一本一本が、周囲の巨木を容易くへし折るほどの巨大な竜巻となって、鎌首をもたげるようにうねりを上げていた。
『風の第三階梯魔法「トルネードスライサー」です。極めて広範囲かつ多方向からの攻撃を伴うため、ゴーレム単体による個別防御では対応しきれません!』
「くそ!めちゃくちゃしやがる!」
回避は不可能。
防壁を一枚置くだけでは、四方八方から侵入してくる風の刃にズタズタにされる。
ならば、選ぶべき選択肢はただ一つ。
「 重ねる!!」
俺は瞬時に自分の周囲に、幾重ものゴーレムを構築した。
外側には大型の土ゴーレム。その中に一回り小さな土ゴーレム、さらにその内側に、俺自身を包み込む強固な「アーマード(鎧化)」を何重にもマトリョーシカのように重ねがけする。
さらに、上昇気流によって俺自身が空中に吹き飛ばされないよう、地中深くに即席の巨大なマッド・ゴーレムを作り出し、足首を握らせ固定した。
ガガガガガガガガガガガガッ!!!!
次の瞬間、世界が凄まじい衝撃と破壊音に包まれた。
外側の様子は全く見えない。
完全に光を遮断された土の殻の中で、俺は感覚共有による「ソナー(音響定位)」を頼りに、脳内に3D投影された外部の状況を見つめていた。
ゴリゴリと、強固なゴーレムの鎧が外側から猛烈な勢いで削り取られ、体積を減らしていく。
完全に防戦一方だ。
耐え抜けば勝ちなどという生易しい状況ではない。
このままジリ貧で防壁を使い果たせば、確実に削り殺される。
何かしらの手段で反撃に転じなければ、待っているのは死だ。
「ぐっ、あ、あたまが……」
くそ!断続的な精神的負荷か?脳の奥が割れるように痛い!目もチカチカしてきた!
限界は、とうに超えつつあった。
その時だ。
『警告! マスター、エアジャベリンが再装填されています。防壁が削られた隙間を狙い、直接あなたを串刺しにする算段です!』
アカシャの、今までにないほど緊急性の高い叫び声。
「しまっ――!」
防壁の残骸をすり抜け、超高密度の風の槍が、俺の胸元めがけて一直線に放たれる。
その刹那。
俺と、迫り来る風の槍との間に、突如として巨大な影が割り込んだ。
ズドォォォォンッ!!!
大気が激しく震え、凄まじい金属音が響き渡る。
驚愕すべきことに、最高強度にバフをかけたマッド・ゴーレムすら容易く貫くエアジャベリンが、その巨大な影に直撃した瞬間、不自然なほど綺麗に火花を散らして弾き返され霧散した。
そこに立っていたのは、全高およそ5メートルの人型。
黒に近い茶色の丸太のを組み合わせた、圧倒的な質量を感じさせる、いびつな巨躯のゴーレムだった。
『「アイアンオーク・ゴーレム」、アクティベート完了しました』
アカシャの凛とした声が響く。
「アイアンオーク……? そうか!グリフォンの攻撃でなぎ倒された、あのアイアンオークの木をゴーレム化したのか!」
アイアンオークの木。
通常でも鋼鉄に匹敵する、極めて高い密度と強度を持つ、この森の木。
強度がハナからコンクリートの比ではないそれを、丸ごとゴーレムとして利用したのである。
「最高だ、アカシャ!」
『お褒めいただき光栄です、マスター。ですが、まだ終わりではありません!』
「ああ、わかってる! もう一体、起動させる!」
俺は精神力を振り絞り、転がっていたアイアンオークの巨木をゴーレムマスターの力で再構成し、2体目のアイアンオーク・ゴーレムを出現させた。
アイアンオークの硬度は、元の段階で鋼鉄クラス。
これに『ゴーレム強化』を重ねがけすれば、文字通り「動く鋼鉄の要塞」となる。
「この2体に、さらにバフを――っ!?」
瞬間、脳に強烈な電流が走ったような激痛が襲い、俺は膝から崩れ落ちた。
ゼェ、ゼェ、と荒い息が漏れる。
だめだ。
今の俺のレベルと精神力では、鋼鉄クラスの強度を持つこの超重量級ゴーレム2体を、最大出力のバフをかけた状態で同時に完全駆動させるのは不可能だ。
1体に……いや、2体は欲しい。
「だったらそれぞれ50%のレベルバフをかけてやる」
バフの倍率は下がったが、それでもベースとなる素体の強度が桁違いだ。
今までとは比較にならないほどの突破力を持つ「戦力」が、ここに2体揃った。
「いけ!叩き潰せ!」
俺の命令と同時に、2体の鋼鉄の巨躯が、大気を震わせながらグリフォンへと猛進する。
「チッ、くだらん人形遊びのスキルしか使えんくせに、往生際の悪い虫ケラが……!」
さすがのグリフォンも、鉄の塊が突っ込んでくるかのような威圧感に、不快そうに舌打ちを漏らした。
そして、奴の周囲、今度は地上付近に、4つの不気味な空気の歪みが発生する。
『マスター! 危険です! これまでにない魔力の超高密度凝縮を確認!』
アカシャが、今までにないほどの緊張を孕んだ声を張り上げた。
『風の第六階梯魔法、「シルフィード」が発動しています。……しかも、同時に4つ!』
「第六階梯……!? ってあのテンペストと同じクラスのやつか!?それを4つ同時だと!?」
戦慄が走る。
突っ込ませた2体のアイアンオーク・ゴーレムの前に、空間の歪みから、音もなく何かが這い出てきた。
それは、半透明の空気で構成された、全長3メートルほどの人型――
大きな盾と、鋭利な槍を手にした、ギリシャ彫刻のように美しい女性型の戦士たちだった。
「なんだよ……あれ……」
『あれは風の上位精霊シルフィードです。精霊自身が自律思考を持ち、個体一つ一つが一騎当千の戦闘能力を持つ、決戦兵器と言っていい存在です。』
「精霊召喚……。あいつもとうとう、なりふり構っていられなくなったってわけか」
『はい。ですが、精霊召喚、それも第六階梯の複数維持には、想像を絶する魔力の消費が続くはずです。グリフォンの魔力供給も、長くは持たないと推測されます』
よく見ると、空中を浮遊するグリフォンの肩が、わずかに上下に揺れ、息が荒くなっている。
奴のプライドからすれば、俺のような「羽虫」を相手に、二度の第六階梯魔法の使用、しかもシルフィードを4体も引きずり出されたこと自体が、屈辱以外の何物でもないのだろう。
燃え盛るような怒りの波動が、空気を伝って肌を刺す。
「正念場だ。こっちも畳みかけるぞ……!」
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次回、第22話は【勝利の確信】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




