第17話:畑作り、アゲイン
アカシャとの生活が始まり1週間、永灯は自分の言葉に反応が返ってくる楽しみを満喫していた。
そんな折、アカシャから「畑を作れる」と聞かされ、諦めていたスタレーニの栽培を行おうと準備をはじめる。
はたして畑作りはうまくのか?
解析鑑定のスキルが『アカシャ』に進化してから、1週間ほどが経った。
俺はといえば、今だに用もないのにアカシャに話しかけている。
「なぁアカシャ、今日の俺の髪型、昨日よりちょっとイケメン度上がってない?」
「マスターの毛髪量および配置に統計的な変化は見られません。イケメン度上昇率−50%」
「減ってる!辛辣!」
こんな冷たい答えが返ってこようが、こんな森で2ヶ月以上も孤独だったんだ。
話し相手がいるだけで天国だ。
ん?そういえば
「アカシャには進化する前の記憶とかってあるの?」
「いえ、個体としての記憶はありません。ただし、進化前に使用された時のログは完全に残されています」
「そうなんだ。」
…まさか、ゴーレムマスターの初めての起動記録とかないだろうな!?
「おほん!あのさ、アカシャ、俺が初めてゴーレムマスターを使った時の…」
『世界を創りし大地を紡ぐ理よ! 万物の神が織りなす衣を脱ぎ捨て、我が覇道の盾となれ! 今ここに顕現せよ、ロック・ゴーレム!』
「うわああああああ!」
俺は恥ずか死んだ。
そんな雑談をしながら、テントの前の広場を歩く。
ふとアカシャが
「マスター、なぜこの辺り一帯の土はこれほどフカフカしているのですか?」
「あ、これね。スキル検証を行うためにこの範囲の土を使って、一気に2,800体ものゴーレムを作ったんだ。大穴が空いた部分を元に戻したら、耕されたみたいになったんだよね。」
「なるほど」
「その後にスタレーニの畑も作ったんだけど、見事に失敗しちゃってさ」
「…今なら畑を作れると思いますが、どうしますか?」
「えっ、本当に!?」
「はい。」
思わぬ提案に、俺は飛び上がって喜んだ。
さっそくアカシャの指示を受けながら、畑作りを再開するためのマッド・ゴーレムを3体生み出した。
「これより私が命令の構築と、リアルタイムの挙動調整を行います」
「おお、頼むよ。」
ゴーレムへの命令のプログラミングは、すべてアカシャが裏で組んでくれる。
俺の精神的負担を考慮しつつ、状況に合わせてリアルタイムで動きを最適化してくれるので、めちゃくちゃ楽だ。
ちなみに、今朝俺にコーヒーを入れてくれたバリスタ風のゴーレムも、アカシャのおかげで誕生したものだ。
うん、やっぱりあの時、魔力を捨ててでもアカシャをアップグレードさせて大正解だったな!
俺は心底、自分の選択に満足していた。
ゴーレムたちは無駄のない動きで、あっという間に綺麗な畝を作り上げていく。
綺麗な畝の並ぶ畑が完成した。
「よし、それじゃあ、スタレーニの葉を使って株分けだ!」
意気揚々とインベントリを開いたが、すぐに手が止まった。
「あ、あれ……? スタレーニが無い。もしかして、朝食のサラダで最後だった?」
「はい。マスターのインベントリ内のスタレーニ残数は0です」
「マジかぁ……。じゃあ、スタレーニを探しに行くとするかぁ」
俺は気合を入れ直し、探索用のゴーレムを作り出そうとした。
最近はゴーレムの造形作成もアカシャに手伝ってもらえるようになったため、マッド・ゴーレムでかなり格好良いものが作れるのだ。
「よし、今日は西洋の甲冑みたいな、リビングアーマーチックなゴーレムにしてっと……」
「マスター、ご本人で行くことを強く推奨します」
アカシャの突然のストップに、思わずピクっと手を止める。
確かに、アカシャにアップグレードしてからというもの、身の回りのことはすべてゴーレムにやらせてばかり。
俺自身が外に出て動くことは、ほぼ無くなっていた。
アップグレードによって解放された恩恵の一つに、アカシャとゴーレムマスターの『スキル共有』がある。
早い話、アカシャ自体がゴーレムマスターの力を行使できるのだ。
最終的な権限は俺にあるので、俺の許可を求めないと発動はできない仕様らしいが、そのおかげで『自律制御』のスキルを存分に生かした自動化生活が実現していた。
その分、俺の精神力もそこそこ持っていかれるけれど、レベルも上がっているし苦じゃない。
そんなわけだから、今の俺は、全ての作業をゴーレム――いや、アカシャに丸投げした引きこもり生活を送っている。
そもそも、俺が異世界で目指した理想のぐうたら生活が、今まさに手に入っていると言っても過言ではないのに!
「なん、だと!?」
「マスターの健康維持のため、そして万が一、何らかの要因でスキルが使用不能になる状況に陥った際でも、生存できるようにマスター自身の身体能力と戦闘技術を向上させるためです」
うあ、ド正論。
「ひどい…あなた無しでは生活できない身体にしておいて、そんな事いうの!?」
俺がわざとふざけて口を尖らせながらいい返すと、アカシャは淡々とした声で恐ろしいことを告げてきた。
「これ以上拒否される場合、私が命令を組み込んだバリスタ・ゴーレムに対し、毎朝マスターのコーヒーをただの焦げた豆汁にするよう設定を変更します」
「喜んで行かせて頂きます!」
美味しいコーヒーの権利を奪われるのだけは勘弁だ!
俺は勢いよく席を立ち、ビシッと敬礼を決めてテントを飛び出した。
スタレーニが採取できるポイントまでは、大岩の、ある面を背に下に行った方角、徒歩で1時間ほどかかる。
大岩から半径5kmの範囲であれば今の所魔物は対処できるので、一人で歩いていても特に問題なく進むことができた。
「お、これ使えそうだな」
歩いている道中、目についた謎の草を適当に採取していく。
ちなみに採取する際は念の為、マッド・ゴーレムで行うので、直接毒草には触れる心配はない。これ大事。
もっとも、採取した草を歩きながらアカシャに鑑定してもらうと――。
「マスター、おめでとうございます。今回採取した草も、漏れなく毒草です」
「だと思ったよ。この森、まともな植物少なすぎない?」
「ちなみに、現在インベントリにある毒草の量を計算すると、適切に抽出すれば、大国を3回滅ぼせます」
「あ、そう、なんだ…」
「いくら暇だからって、採り過ぎです。」
「うーん、そんな危険物がそこら中に自生しているこの森って、一体どうなってんだ……」
自分がいる森が恐ろしい魔境であることを再認識する。
ちなみに俺のインベントリの容量は、今や61,000m3にまで膨れ上がっているらしい。
どうやら俺のレベル分だけ、空間が乗算で広がっているようだ。
これなら国を3回滅ぼす毒草だろうが何だろうが、いくらでも収納できてしまう。
うん、珍しいからって採るのもうよそう…。
そんな事を考えているうちに、目的の場所近くにきた。
地面にはミニゴーレムがその方向に顔を向けている。
「あそこを曲がれば、もうすぐ目的地かな」
そう呟いた瞬間、俺の『危険察知』が反応した。
間髪入れず、頭の中にアカシャのアナウンスが響く。
「マスターから見て3時の方向、距離約80m。過去の戦闘データから、バイオレットホーン・ラビットと推測されます」
「了解」
俺は即座に『気配隠蔽』と『認識阻害』を同時発動した。
「……近いな」
80mという距離は、今の自分にとっては数字通りの遠い距離には感じられない。
レベルアップによる身体能力の向上のおかげで、今の俺は100mを全力で走ればわずか3〜4秒で移動できてしまう。
「アカシャ、連携の確認をしておくか」
「承知しました。いつでもいけます」
足音を消し、ウサギから30mほどの位置まで回り込んだところで、俺はあえて『気配隠蔽』と『認識阻害』を同時に解除した。
以前の俺だったら、即死を確定する自殺行為だ。
突然、何もない空間から目の前に人間が現れたのだから、ウサギは当然激しく驚いた様子を見せた。
すぐさま額の角をモリモリと生やし、レールガンを放とうと臨戦態勢で身構える。
その瞬間、俺は『思考加速』を限界まで引き上げた。
引き伸ばされた一瞬の時間の中で、ウサギの真横に、瞬時にマッド・ゴーレムを生成する。
今度は一瞬でゴーレムが横に現れた事に動揺し、俺から目を離す。
横にジャンプしながらゴーレムに向けて空中からレールガンを発射し、俺の作ったゴーレムをまるで豆腐のように一撃で破壊した。
そのまま着地し、角を急速再生させて俺に向けて発射した――
俺はレールガンがゆっくりと飛んでくる軌道を把握しながら、首を右に傾ける。
レールガンが俺の左頬を通り抜けた瞬間。
――ドサッ
ウサギは紫色の目玉をクルリとひっくり返して、そのまま地面へ倒れ落ちた。
しばらくすると、俺の身体がスっと軽くなる。
レベルアップの瞬間だ。
この感覚のおかげで、日々の戦闘の疲労やある程度の傷はその場で回復してくれる。
「ふぅ……フォロー、サンクス」
「どういたしまして、マスター」
アカシャと短い言葉を交わす。
実は、ウサギの脇にゴーレムを出して注意を引いた瞬間、アカシャがウサギのジャンプの軌道と着地地点を完璧に演算していた。
俺はその予測位置に、あらかじめナイトロ・ゴーレムを設置。
ウサギの着地と同時にゴーレムの結合を解除したのだ。
もちろん、周囲の酸素を一瞬で奪われ、超高濃度の窒素を思いっきり吸い込んだウサギが、脳への酸素供給を断たれて気絶・死亡するまでの時間も、アカシャはすべて計算済みだった。
…はずだ。はずなのに。
「わざと違う演算結果教えただろ?」
少し怒りを含ませながらアカシャに尋ねた。
そう。あのレールガンが使われる前に倒せた演算のはずだったからだ。
「こういう事も起こる可能性は0ではありませんので。ですが何なく躱すとは、流石マスターですね。」
「はぁ?頭撃ち抜かれてたらどうするんだよ」
「対応策は、100パターン程考えてありましたので」
あーやだやだ。この子はどれだけ俺を強くしたいんだか。
「はぁ…」
俺は大きなため息をついた。
「誰かさんのせいで、戦闘に不安が残るな〜。」
「やはり、ゴーレムの防御壁を自身に纏う『アーマード』を掛け合わせた戦闘スタイルを構築した方がよろしいのでは?」
「それ、ずっと提案してくるよな。でもあれ、身に付けるゴーレムの防御力とか質量制御とかが難しいんだよ……」
「経験あるのみです、マスター」
「へいへい……。おっしゃる通りで」
そんな軽口を叩き合いながら、インベントリに倒したバイオレットホーン・ラビットを放り込み、俺はさらに先へと進んだ。
そして1時間程の探索でスタレーニを6つ程収穫し、帰路についた。
テントに帰り着く頃には、空が少し赤みがかってきて、すっかり夕方近くになっていた。
本日の収穫としては、スタレーニ6つのほかに、バイオレットホーン・ラビット2体、そして、ニードルアルマ・グリズリー1体だ。
このニードルアルマ・グリズリーは、レベル150を誇る、この界隈の正真正銘の化け物である。
以前、このグリズリー同士の縄張り争いらしき戦いを遠くから見たことがあったが、それはもう壮絶なものだった。
あの鋼のように硬い巨木も枯れ木みたいにバキバキとなぎ倒しながら大乱闘を繰り広げる、まさに怪獣決戦。
その時は、激闘の末に弱りきった個体を、俺がナイトロ・ゴーレムさんで漁夫の利を得る形でなんとか倒したという経緯があった。
だが今回は、五体満足な1頭のグリズリーに対し、いつものナイトロ・ゴーレム作戦を仕掛けて、見事に無傷で仕留めることに成功したのだ。
「いやぁ、こいつに搦め手じゃなくて正面から勝てるようになるのは、まだまだ先の話だろうな……」
「生き残るための戦闘において、勝ち方など手段に過ぎません。勝てば何でもよろしいかと」
「それはそうなんだけどさ……男の子としては、こう、気分的な問題っていうのがあるじゃない?」
「それなら、早く私無しでも強くなってくださいね、マスター」
「へ〜い……」
相変わらずアカシャ先生はスパルタだ。
早速、新しく作った畑にスタレーニの葉を埋めにかかる。
スタレーニは葉を埋める事で、その葉から株分けが出来るのは知っていた。
しかし、アカシャから待ったがかかった。
どうやら、普通にやるだけだと成功率は極端に低くなるらしい。
確かに、以前は全滅したし。
「成功率を上げるには、魔物の骨を細かく砕いたものを地面に混ぜると、土壌の魔力濃度が最適化されて良い影響を与えます」
「なるほど、骨粉が肥料になるわけか。ゲームでもそんな仕様あったな。じゃあ、丁度いいや」
というわけで、今日の晩ご飯はウサギに決定。
新しく狩ったウサギを料理用ゴーレムに美味しく調理してもらい、その際に出た骨を全部集めた。
そしてゴーレムの怪力を使って細かく粉砕し、畝の土へと満遍なくまいていく。
すべての骨粉をまき終えた頃にはすっかり暗くなっていたので、実際の植え付け作業は明日に回すことにした。
翌朝。
俺は昨日収穫してきた瑞々しいスタレーニの葉を丁寧にちぎり、『魔物の骨粉たっぷり入り畝』へと、等間隔に埋めていった。
記念すべき初めての作付けは、俺自身でやりたかったからだ。
「ふぅ。よし、これで植え付けは完了!」
心地よい疲労感。
「人が何故、年を取ると畑仕事をしたくなるのか分かる気がする」
「何わけの分からない事を言っているのですか、マスター」
「なぁアカシャ、これってどれくらいで芽が出てくるかな?」
「解析によれば、早ければ3日程で芽が出て、そこから1週間程で収穫できる状態にまで成長するかと」
「約10日であの大きさになるの!?。異世界のレタスってめちゃくちゃ成長が早いのね…」
「骨粉とこの地の高濃度な土壌の魔力を吸収するためです。通常はもっと時間がかかります。」
そんな会話を交わしつつも、どうか無事に、青々とした元気な芽が出てきますように、と畑に向かって小さく手を合わせた。
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次回、第18話は【最大の脅威】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




