第16話:思惑通りにはいかない、絶対に!
永灯が奈落の森で探索を続けている頃、世界では一大イベントが行われていた。そして、神々が座する空間、アルチェリンガでも神々がそのイベントを見守っていた。
そして、永灯が起こした行動が、アルチェリンガにも届き、他の神々も巻き込む事態に?!
ミリン、ワランの両神の思惑は、どうなるのか?
永灯が奈落の森で探索をしている頃、この世界は今、一大イベント天啓の儀【ジュクールパ】が行われていた。
アルチェリンガの巨大な円卓の中央に置かれている大きなミルー・ヌガラルをみて、ミリンは満足そうな顔を浮かべている。
「今年のジュクールパは、豊作ね!」
ジュクールパとは、1年に1度、10歳になる子が自分の魔力量やスキル、職業を知ったり得たりする非常に重要なイベントだ。
強力な魔力、属性、スキルなどが顕現すれば、今までの生活が一変する可能性がある。
その逆もあるのだが…
国にとっても「今年はどれくらい良い戦力が生まれたか」を知る重要な機会なため、無料乗り合い馬車など遠方から来る者に対して支援を惜しまない。
そのため、毎年ほぼ100%の子どもが儀に参加している。
期間は1週間だ。
逆に故意に受けない、あるいは受けさせないものは国家反逆罪となるケースもあり、最悪は家族全員死刑などになる場合がある。
天啓の儀【ジュクールパ】は自分が信仰する神の神殿か、魔の神殿で行われる。
各神殿には、その神殿の主神の傍らに必ず魔神ミリンの像がいる。
契約の執行神とも言われているため、神との契約には必ず魔神ミリンの承認が無いと完結しないと経典に記されているからだ。
しかし、実は各神で契約はできるし、加護も与えられる。
だが、ヨルング・ティナ・プルカ(神々の千年戦争)以降、ジュクールパの時は監視役としてミリンがその役を担う事になった。
なぜならヨルング・ティナ・プルカが起こった原因の一つが、自分の序列を上げるための信者の囲い込みと加護の融通だったからだ。
信仰心はそのまま神の力となり、それが世界に変革を起こす可能性が大きい。
故に、二度とあのような争いが起こらないよう、監視と合議が行われるようになったのだ。
円卓には、この世界を作った10柱もいる。
もちろん、ワランも。
10柱はそれぞれ世界の役割を担っている。
魔神ミリン・パンガ 契約魔法、魔力、秩序。
火神ヨルカ・スルート 火魔法、鍛冶、料理。
水神ナラー・ウォルタ 水魔法、生活、生命。
土神カウドラン・ノッケン 土魔法、農業、錬金。
風神ウルラ・シル 風魔法、狩猟、斥候。
光神カルー・イラト 光魔法、聖、騎士。
闇神ムルヤ・マノ 闇魔法、影、斥候。
戦神ガルドア・ワーグ 無属性魔法、戦争、力。
空神ワラン・バイアミ 空間魔法、商売、芸術。
冥神クイン・カンサ 死霊魔法、魂、審理。
ジュクールパの時は、各神の神殿に来た子ども達に対し、ミリンが才能の鑑定を行い、役職を与えるのが通例だ。
そのため、たとえ信仰する神殿で儀を受けても、本人の才能次第で違う職業や魔法適正が顕現する時もある。
もし神との相性が良い場合、その者に加護を与えてもいいかどうか、自分を除く9柱による賛否が行われ、そこで半数以上がOKを出せば、正式に加護が与えられる。
神の加護は強力なため、それを授かった者は地上でも大いに優遇される事が多い。
「今年は特に魔力が強い子が多くて、嬉しくなってしまいますわね!」
多くの神が頷くなか、ワランはじっと世界のジュクールパの様子を見つめていた。
「ワラン殿、今年もあまり空間魔法を使えるものが少ないようですわね」
ミリンが少し寂しそうに問いかける。
「……」
「大丈夫ですわ。きっとワラン殿を信仰する優秀な子が現れますから」
とても妖艶な笑みを浮かべて、ミリンはワランに声を掛けた。
「……ありがとうございます」
信者数によって神の力と序列が決まる。
信者が多いのはやはり戦闘で活躍できる神だ。
地上では火、水、土、風、光、闇の信者が多く、戦神、空神が続く。
戦神ガルドアは戦闘で活躍できそうで人気がありそうだが、争いを好む荒くれ者が信者になりやすいため、イメージが悪く、信者が逆に少ない。
空神ワランは戦いの神でないためと、そもそも空間魔法と相性がいい人が少なく、
冥神クインにいたっては、その異質さからほとんど信者がいないのだ。
そして、10柱の中で信者が圧倒的に多いのが魔神で、序列1位はミリン。
魔法が優遇されるこの世界では言わずと知れた結果だろう。
ワランは序列にすると9位になる。
なぜか隣にいる冥神クインに肩を叩かれ、励まされる。
クインは常に深いローブで姿が見えない上に、誰も声を聞いた事が無い、不思議な神である。
各国のジュクールパは順調に進み、3日目に差し掛かっていた。
そして、それは起こった。
奈落の森で、今まで感じた事の無い大きな魔力反応があり、一瞬で消えたのだ。
炎神ヨルカが声を上げる。
「あんな大きな魔力反応、久々じゃないか?」
皆が頷く。
光神カルが眉をひそめた。
「あれほどの魔力を持つもの、誰の眷属か?」
「私です」
ワランが答える。その顔は苦痛に歪んでいる。
土神カウドランが尋ねる。
「あれほどの魔力のもの、今までのジュクールパでもいなかったよな?いつ見つけ出したのだ?」
ワランは皆に永灯の事と、その経緯を説明した。
水神ナラが納得したように呟く。
「なるほど。ヨルング・ティナ・プルカの被害者、という事でこちらに転生させたアルチャだったと」
風神ウルラも言葉を重ねる。
「なるほどな。それであれば転生も問題ないか…。で、その時に加護を与えたんだな」
戦神ガルドアが、ワランの肩をがっしりと抱いた。
「それなのにムルジュ・カルタに送ったのかよ!優神だと思ってたが、俺より鬼だな!気に入ったぜ!」
「私は!」
語気を強めてワランはガルドアに何か言おうとする。
が、そこに闇神ムルーヤの声が被さってきた。
「しかし、あの消え方は……」
魔力が激しく弾け飛ぶのは、この世界では『死』を意味する。
そう、先ほどの感覚は間違いなくそれだったのだ。
ワランは拳を握りしめ、
「…すいません、今日は……」
と言うと席を立つ。
ミリンがすぐに悲しげな表情を作って周囲を見回した。
「眷属がいなくなる哀痛切なる想い、深く拝察いたします。皆様、ワラン様の退席の許可、いかがでしょう?」
皆が厳かに頷き、ワランは挨拶をして円卓を去る。
残された円卓で、クインがおもむろに人差し指を魔神ミリンに向けた。
ミリンは小首を傾げる。
「私は知らなかったのか、という事でしょうか。」
クインは頷く。
「ヨルング・ティナ・プルカの調査、対応は全てワラン様に一任しておりましたので、残念ながら。もしご相談頂ければ、お助けできたかもしれませんのに…」
そう言って悲しい顔を見せるミリンを、戦神ガルドアは少し訝しげな顔で見つめていた。
「ともあれ、ジュクールパは続いております。この件は後ほど対応するとして、今は子ども達の未来をよりよくするために力を尽くしましょう!」
ミリンの言葉通り、ワラン抜きでジュクールパは進んで行った。
3日目のジュクールパも終わり、神々も各神殿に戻った。
ミリンも自身の神殿に戻ると、豪奢な椅子に座る。
そして、満面の笑みを浮かべた。
アルチャが死んだわ!!
心中で歓喜の声を上げる。
奈落の森に再転移させてから、この瞬間をどんなに待ちわびた事か!
なかなか死なないので少し肝を冷やしましたが…
「お茶をお願い。」
「かしこまりました。」
従者はうやうやしくお茶を淹れ始める。
念のため、もう一度先ほどの魔力を感知してみましょうか。
ミリンは魔力の痕跡を追った。が、全く感じられない。
-------これは完全に死にましたわね!
「ふふふ!」
「機嫌が良さそうですね」
従者がお茶を淹れながら声をかける。
「ええ、今日もとてもとても、いい事があったわ」
ミリンは極上の笑みでお茶を口に運ぶ。
もし、アルチャの魂がここにきたら、あんなザコスキルで良く今まで生きられましたね、と褒めてあげましょう。
そして、汚いスキルを使った汚い魂を、一瞬で消滅させてあげる。
ミリンは美しく、残酷に微笑んだ。
一方、ワランは悲痛な思いで空の神殿にいた。
「すいません、永灯さん…」
と何度も呟きながら、助けられなかったという自責の念で押しつぶされそうになっていた。
それは、以前にも感じたあの感覚。
ふと1人の女性の顔が脳裏をよぎる。
「私は、また……」
頭を抱える。
自分の力の無さに。
せめて、永灯さんの魂だけは救わなければ…。
そう思った時だった。
「はっ!?」
ワランは目を見開く。
間違いない、加護の反応がある!
今、私が加護を与えているのは、永灯さん一人だけだ!
「でも、どうして!?」
どう考えてもあれは魔力の四散、亡くなった時の反応だった。今も魔力を一切感じる事が出来ないのに!
ワランが激しくうろたえていると、神殿の空間に声が響いた。
『ワラン様』
「!?」
ここはアルチェリンガ。神が座す領域。
ここに入れるのは、私達が許可したものだけのはず。
それなのに、今まで聞いた事の無い声が私に話しかけるなど!
とっさに身構えるワラン。
「誰です、私に話しかけるのは!?」
『ご無礼をお許し下さい。私は解析・鑑定です』
「!!」
ワランは心底驚いた。
解析・鑑定はワラン自身が創った『スキル』だ。
そのスキルが、なぜか自立して話している!?
「どういう事です!?」
ワランは混乱を隠せない。
『私はマスターの願いを叶えるため、進化したようなのです』
「!!」
確かにスキルは進化する素養はあるが、まさか『意思』を持つとは……
『これが本当に私意思なのかは、生まれたばかりの私にもわかりません。ただ、マスターのためにと』
本当にこんな事があるのだろうか…。神である私でもここまでの事は予測lできなかった…。
驚き続けているワランに、声はさらに続けた。
『マスターは私に名前を付けて下さいました。私の名はアカシャ』
「アカシャ……アカシャ、か」
ワランは少し考えると、優しく微笑んだ。
「いい名前じゃないか」
『はい』
「なら、アカシャ、確認したい事があるんだけどいいかな?」
『なんなりと』
ワランは、今気になっている事を尋ねた。
『私が今わかる範囲ですが』
アカシャはそう前置きし、質問に答え始めた。
それを聞くワランの顔は、再度驚きに満ち、そしてやはりそうか、という納得の表情へと変わっていった。
「ありがとう、アカシャ。これからも永灯さんを頼みます」
『かしこまりました』
その言葉を最後に、アカシャの気配は綺麗に消え去った。
もの凄く疲れたような表情をして、椅子にうなだれながら座るワラン。
しかし同時に、尋常ではない嬉しさ、胸の高鳴り、期待、あらゆるポジティブな感情が内側から湧き上がってくるのを感じていた。
こんな人間のような激しい感情が、私にも湧き上がってくるなんて…。
「永灯さん、あなたって人は…とんでもない事をしてくれましたね!」
歓喜で体が震える、その顔は喜びで溢れていた。
だが同時に、すぐに思考を冷徹に切り替える。
ミリンに知られてはならない。絶対にだ。
ワランの目に力強い光が戻る。
このまま、永灯さんが死んだ事で疲弊した哀れな神を演じきる。
永灯さんがあの森を無事に出るまで、そして、永灯さんに会うその時まで!
「ミリン、あなたの思惑通りにはいかない、絶対に!」
ワランは力強く立ち上がった。
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次回、第17話は【畑作り、アゲイン】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




