第15話:アカシャ
大岩の周囲の探索で、バイオレットホーン・ラビットに奇襲を受けた永灯。大雨が降る中、テントを出たその後、永灯の生活が変わる出来事が起こっていた。その中でも、過去最大の現象が起こる。
「ただいま」
俺は土砂降りの雨の中、誰もいないテントのジッパーを開け、中に滑り込みながら一言呟く。
今日の獲物はウサギだった。
まあ、目的のものは手に入ったからよしとしよう。
「飯を作る前に、俺の状態を見てみようか」
意識を集中させ、自分に鑑定をかける。
ここ最近の、すっかり習慣になった日課だ。
【対象】:篝永灯
【精神年齢】50歳
【レベル】:61
【職業】:ゴーレム使い
【ステータス】:正常
◆◇繧ィ繝ゥ繝シ◇◆によって転生させて貰った転生者。アラフィフ。アラフィフ卒業おめでとう。
【スキル】
解析・鑑定:レベル5
インベントリ:レベル3
ゴーレムマスター:レベル5
【HP】:687
【MP】:1319
【派生スキル】
危険察知
気配隠蔽
認識阻害
並列思考
思考加速
自律制御
ゴーレム強化
憑依転身
感覚共有
スキル共有
スケーリング
インターセプト
アーマード
【加護】
◆◇繧ィ繝ゥ繝シ◇◆の加護
「スキルのレベルも、なかなかに上がってきたな」
コップに入った水を飲みながら確認する。空中から水を生成することも、もう慣れたものだ。
「ふぅ」
今日は何にするか。インベントリの中は、と
「ウサギが多いし、またソテーにでもするか」
インベントリからウサギを取り出し、ナイフで手際よく解体し始める。
本当はこういう作業こそゴーレムにやらせたいと思っているが、解体のための膨大なプロセスや力加減を命令として指示するのが面倒で、まだ専用のゴーレムは作っていない。
「自分でやった方が早いからって、前世でフリーランスになったのもそんな理由だったっけな」
己を振り返り、苦笑する。
俺はつくづく、人を使うのがうまくないみたいだ。
今は『ゴーレム使い』なんて職業をやっているというのに。
「あれ、スタレーニあったっけな」
インベントリの中身を確認すると、スタレーニが1個残っていた。
これを見つけたあの日のことを、懐かしく思い出す。
――思えば、あの、今日のような土砂降りの日からもう2ヶ月以上が経つ。
あの日、ウォーターゴーレムに憑依転身して大雨の中を探索中、レタスのような草を見つけた瞬間、ウサギに強襲された。
強制的に肉体に引き戻された後、本体で駆けつけ、ナイトロ・ゴーレムの必勝法で、難なくウサギを撃破。
その時に解析・鑑定したサニーレタスのような植物が『スタレーニ』だ。
異世界で初めて食用であることが分かって歓喜し、持ち帰った。
ウサギも高級食材として食べられることが分かり、早速下処理。
解析・鑑定を駆使しながらなんとか血抜きや解体を施し、ウサギ肉のソテーと、初めての異世界野菜で満足した食事をとった。
その後、俺はスタレーニを拠点周辺で育てようと、畑を作ろうとした。
「スローライフに農業は必須だしな!」
ところが、結果は壊滅。
解析・鑑定は農業の具体的なやり方までは教えてくれなかった。
そのため、未経験の俺がうろ覚えで畑を作ったところで、スタレーニの葉から株分けすることすらできなかったのだ。
「農業従事の人って、やっぱり凄いな」
農家の偉大さを身に染みて知り、早々に諦めて、俺はこの森の狩人として生きることを選んで今に至る。
「食べられる幸せは、結局、そこまでの苦労を知らないと実感できないんだよな」
まあ、何事もそうか。
俺は下処理を終えた、バイオレットホーン・ラビットの肉を熱したスキレットに置く。
美味しそうな焼き音と同時に、極上の肉油の芳醇な香りがテント内に広がる。
「いい匂いだ」
その匂いを嗅ぎながら、ウォーターゴーレムで洗ったスタレーニをちぎって皿に乗せる。
後は、良い焼き具合になるのを待つだけ。簡単だ。
ふと、テントから見える大岩に目をやる。
「しかし、あの大岩、謎が多いな」
ここ2ヶ月の間、大岩の周囲を探索して分かったことだが、どうやらこの大岩の周囲半径500mぐらいには、魔物がほとんど出てこない。
出てこないというより、近寄ってこないという感じだ。
鑑定にかけても、『この森の大岩』という素っ気ない情報しか出ないし。
「それがかえって怪しいんだよなぁ……」
解析・鑑定のレベルがまだ低いのかもしれないと思い、レベルを上げてきたけど、レベル5になっても同じとは……。
「本当にただの岩だったりして」
そんな事をつぶやきながら、ウサギの肉がいい塩梅に焼けてきたので、ひっくり返す。
解析・鑑定以外のスキルも順調にレベルアップした。
特に『ゴーレムマスター』は派生スキルが増え、レベル4になると、『スキル共有』と『スケーリング』というスキルが生えた。
『スキル共有』は気配隠蔽などのスキルをゴーレムにも付与できるもの。
今一番欲しい能力だったので、一気にできる事が増え、戦闘が格段に楽になった。
ただ、『ゴーレムマスター』自体のスキルは使えない。
ゴーレムからゴーレムを増やす命令を出すとか、憑依転身後のゴーレムの体で、新しいゴーレムをその場に作る事はできなかった。
まあ、その部分はやりたい事にあまり影響しないからいいんだけど。
もう一つのスキル、『スケーリング』はゴーレムのサイズを自在に拡大縮小できるスキル。
ゴーレムを作る際に大きさはある程度指定できるが、作った後にそのゴーレムそのものの大きさを変える事はできなかった。
このスキルがそれをカバーしてくれるのはとても便利だ。
「ただ……なぁ」
実は俺はこのスキルを、まだ完全に使いこなせていない。
サイズ変更の際に起こる「制約と変化」がやりたい事にブレーキをかけている。
「色々、検証を続けないとなぁ……」
再度、焼き目を確認。
パリパリの焼き目になったので火を止め、あとは滲み出た旨味たっぷりの肉汁を肉に掛けながら、スキレットの予熱でじっくり火を通しはじめた。
更に10日前くらいに、新しく『インターセプト』と『アーマード』が生えた。
この2つのスキルも今、検証中。
しかしこの検証が、不謹慎かも知れないが、正直楽しい!
体長10mもある、体表自体が猛毒の『ピットヴァイパーソーム』。
外装骨格が恐ろしく硬く、鉄と同じ強度の木も枝みたいにへし折る『アーマー・ビートル』。
攻撃力が高い上、体毛が針のように固く、アルマジロのように丸くなって高速で攻撃を仕掛けてくる『ニードルアルマ・グリズリー』。
他にも、あのウサギよりも高レベルの魔物にたくさん遭遇したが、全員俺のインベントリの中にいる。
万能ナイトロ・ゴーレムさんと、新しい2つのスキルを含めたコンボで、サクサク倒していけるのだ。
お陰で探索範囲も格段に伸び、恐らく今ではあの大岩から半径5km圏内くらいなら、問題なく行動できるようになっている。
「次は、あのコンボを試してみるか」
油の焦げる香ばしさも加わった最高のウサギ肉を皿に移しながら、俺は呟いた。
「いただきます」
前世スタイルで、食材への感謝を表し、肉を食べる。
「うっま!相変わらず、うっま!」
食事は大満足だ。
一応健康のために野菜も食べてるし、問題ないだろ。
そして、ここに来て2ヶ月強。
今の生活にも大分順応してきた。
だが…
実を言うと、俺は今、猛烈に誰かと喋りたくて仕方がない病に冒されている!
ホームシックというわけではない。
ただ、自分以外の誰かと話がしたいのだ。
あまりに喋りたいので、ゴーレムに憑依して一人二役の会話風ごっこ遊びをしてみたりした。
無駄に解析・鑑定に向かって話しかけたりしてみた。
しかし、当然、心は満たされない。
「はあ、ゴーレムが喋るスキルが生えたりとか、解析・鑑定が会話型のアドバイザーAIみたいになってくれないかなぁ……」
一人食事をしながら、いつも通りポツリと、誰に聞かせるでもなく呟いた。
すると、頭の中に変化が起きた。
解析・鑑定スキルが俺の言葉に反応し、脳裏に直接、見たこともない通知ログを弾き出したのだ。
【解析・鑑定のレベル、および全MPを犠牲にし、解析・鑑定を進化しますか?】
「はぁっ!?」
俺は動揺を隠せず、椅子から勢いよく立ち上がった。
どういう事だ!?今までも何度も同じような事は呟いたはず。
でも、こんな事は一度も無かったぞ!?スキルレベル5になったからか?!
「…ふぅ、落ち着け。まだ焦る時間じゃない。」
安易に「はい」の返答はヤバい。
なせなら、ログにある『MPを犠牲に』という文言がかなり引っかかるからだ。
これは下手をすれば死活問題になりかねない。
俺は細部を調べるため、解析・鑑定自身にその詳細を解析させた。
弾き出された答えは、こうだ。
【進化を実行した場合、あなたの体内からは一切の魔力が失われます。ゆえに、今後魔力を必要とする、あるいは魔力を介する行動の類はすべて使用不能になります。他者から解析にかけられた場合も、ステータスは『MP:0』と通知され、今後それが増えることはありません。】
マジかよ。
「でも、魔力ってこの世界の生物にとっては命にも等しいエネルギーなんじゃなかったか?魔力がなくなったら、俺、死んだりしないか?」
疑問を投げかけると、脳裏に情報が追加される。
【魔力:生物に宿る力の一つ。魔力が多すぎても少なすぎても生命活動に支障をきたす。ただし、個体によって魔力量の適正値には差がある】
「やっぱりダメじゃないか。動けなくなったり死んだりしたら意味がない」
だが、ログはさらに続いた。
【進化を実行することで、魔力による生命維持の役割を、進化した『解析・鑑定』のスキルが完全代用します。そのため、これまで通りの生命活動、および生活が可能。また、他のスキル使用や併用についても全く支障はなく、むしろ、連携により各性能が飛躍的に向上する可能性が極めて高くなります。】
「俺のMPそのものの代わりになってくれる、ってことか。しかも他のスキルの性能が上がるかもしれないのは、美味しいな……」
俺はこの世界で、もしかしたら初めての『MP:0人間』になるのかもしれない。
というより、俺自身が解析・鑑定というシステムに組み込まれ、一種の『ゴーレム』のようになるということだろうか。
俺は、静かに自分の手を見つめた。
しばらくの間、テントの中に沈黙が流れた。
テントに当たる雨音だけが響き渡る。
怖さはある。だけど、俺の望むものには違いない。
『スキル』がそれを汲み取ってくれたとしたら……。
「OK。わかった。俺の全MPと解析・鑑定のレベルを犠牲に――進化を承認する」
その瞬間、俺の体内にある何かが、まるで檻を破った獣のように暴れ回る感覚が襲った。
「ぐっ!あああああああ!」
あ、これ、内側から何かが膨れ上がって爆発する――!
そう思った瞬間、未だかつてない衝撃に襲われた。
同時に、俺の意識は真っ暗な闇へと落ちていった。
「……タ、スタ……マスター」
「!?」
頭の中に直接、女性の声のような音が響き渡る感覚がして、俺は飛び起きるように目を覚ました。
「はっ!?俺、死んでない……!?」
「生きています、マスター」
「……あ?え?誰だ?誰が話しかけて……」
「解析・鑑定スキルです、マスター。無事に進化を完了しました」
「……うおおお!」
俺ではない言葉が頭の中に聞こえる!
機械的ではあるが、確かな意思を感じる声だ。
そう思った瞬間、目からポロポロと涙が溢れてきた。
「あ、れ?」
正直ビックリした。
「極度の興奮により、脳内物質の異常を感知。眼球から水分を検出。大丈夫ですか、マスター」
「……うん、大丈夫だよ」
人は正直苦手だ。平気で嘘もつくし、性根もなかなか変わらない。
もちろん、それには俺自身も含まれている。
だから、ゴーレムマスターを選んだ時、楽をする以外に人とあまり喋らずに済むように、関わらなくて済むようにできると思った。
そんな自分が『意思を感じる声』を聞いた途端、泣いた。
心の奥ではやはり『人』との繋がりを求めていたのかな。
「なんか……安心してさ」
「人間でいう、『寂しさ』があった、ということでしょうか?」
「多分……ね」
恥ずかしいので、16歳くらいの体に精神が引っ張られている、ということにしておこう。
俺は涙を拭いた。
「なぁ、早速なんだけど、君に名前をつけてもいいかい?」
「名前を?」
「『解析・鑑定』じゃあ、味気なくない?」
「私は全然平気ですが、マスターがそうしたいなら、構いません」
淡々とした返事だったが、それがまた愛おしい。
勉強、知識、頭脳、進化……インテリ、ウィズダム……。
色々考えていると、地球の知恵と智慧を司る神仏、虚空蔵菩薩と文殊菩薩が浮かんだ。
そして、一つの名前を紡ぎ出した。
「君は『アカシャ』だ。よろしくね、アカシャ」
「アカシャ……了承します。あ……」
「どうしたの?」
「いえ……なんでもありません。私はアカシャ。これからよろしくお願いします、マスター」
「こちらこそ!あ、ステーキ食べる?美味しいよ!」
「私は食べられません」
「そうだね、ごめん。それはそうとさ……」
アカシャに向かって、他愛もない話を延々とする俺は、脳内に響くその相棒の声に、心の底から救われたような気がしたんだ。
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次回、第16話は【思惑通りにはいかない、絶対に!】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




