第14話:とうとう見つけたぞ!
雨の中、検証も兼ねて新しいスキルで探索を始める永灯。活動範囲が広げる事に成功するも、目的のものは一向に見つからない。
果たして、永灯はこの雨の中、今後の生活に必要な物を見つける事ができるのだろうか?
気がつくと、時間は昼近くになっていた。
「検証に夢中になり過ぎたな。」
俺はハムエッグトーストで軽く昼食を済ませた後、スキルの制限時間や疲労の検証を兼ねて、【憑依転身】を使って雨の中の探索に出かけることにした。
マッドゴーレムに憑依してズシン、ズシンと森を進む。
この遠隔サバイバル感に、心が激しく躍った。
「これならどこまでで行ける気がするぜ!」
だが、数分で問題が発生した。
激しい雨粒が直撃するたびに、土の身体が徐々に削られ、形がドロドロと少しづつ崩れていくのだ。
「ああっ……!俺の体が!雨がダメージソースになってるのか?!」
俺の体を溶かす雨って事だよな。これ、痛覚があったら…
全身の血の気が引いた。今は血は無いんですけど。
結局、昨日ウサギの魔物と戦った場所あたりで、依り代の身体はボロボロになり、あえなく挫折。
「ダメだ……一旦解除だ……」
憑依を切り離された瞬間、ゴーレムはその場にドサリと崩れ落ちた。
本体に意識を戻した俺は、小一時間ほど休憩。
そして今度は属性の『三すくみ』を意識し、ウォーター・ゴーレムに切り替えてもう一度意識を飛ばす。
――結果から言えば、この選択は大正解だった。
同じ水成分だからか、激しい雨に打たれても形が崩れるどころか、むしろ周囲の雨水を吸って安定する感覚がある。
「雨に濡れる不快感も一切ない。今度こそ、どこまででも行けるぞ!」
結局、1時間ほど周囲を彷徨ってみたが、精神的な疲れはほとんど感じなかった。
本体のテントからかなり距離が離れても、リンクが途切れる気配はない。
「これ、周囲の環境さえ合致していれば、日単位で連続操作できちゃうんじゃないかな?」
それくらい疲労感が無かった。
エア・ゴーレムなんかは地上であれば、ほぼ万能な可能性すらあるぞ!検証が楽しみだ。
ただ、憑依転身には重要な仕様と、いくつかの注意点があった。
まず、最大の制限は「憑依中はスキル発動が不可」という点。
スキル自体も事前にゴーレムにはセット不可なため、基本はただゴーレムを動かすだけだ。
――いや、待てよ?
逆に言えば、あらかじめ【ゴーレム強化】でバフを限界まで盛っておけば、その超スペックを維持したまま中に入れるってことじゃないか!
もし、移動スピードを何十倍にも強化できれば、探索効率は恐ろしいほど跳ね上がるはずだ。
「……使えるな!」
残る懸念は、戦闘時の強さが「俺自身の格闘センス」に依存すること。
そして、解除した瞬間に依り代のゴーレムが崩壊してしまうことか。
格闘術は後で身につけるとして、継続利用不可なのは地味に痛い。
後々スキルレベルが上がる事で解決できると信じるしかないか。
ウォーターゴーレムでの検証もある程度できたので、再度、スキルを解除してテント内の本体に移動。
少し休憩を挟み、ウォーター・ゴーレムで2度目の探索へと向かった。
今回の検証テーマは「速度」。
さっき閃いた移動速度を強化しての探索ができるかを試す事にしたのだ。
ゴーレムのパラメータを『体重(質量)だけは普通、それ以外は32倍』に設定する。
やはり、脳内で細かい条件を指定すると精神的な負担を少し強く感じるが、許容範囲内だ。
今回の進路は、拠点の目印にしている大岩の下側、まだ見ぬ未知の領域だ。
「いくぞっ――て、速っ……!!」
ステータス32倍のウォーター・ゴーレムは、尋常じゃない速度だった。
雨の森を、文字通り水流のような滑らかさで爆走していく。
遮蔽物のない直線なら、感覚的に時速100キロメートル近くは出ている感じだ。
いや、でもこれ、目の前の木々をかわすのがめちゃくちゃ大変なんだけど!?
レースゲームは得意じゃなかったからこういうのも苦手なんですけど!
「でも…検証のためだ!」
俺は死なない事をいい事に、最早レースゲーム感覚になっていた。
ちょっとでも集中を切らしたらぶつかって爆散待ったなし!
超高速移動のせいで脳への負担も限界突破しそうだ!
「思考加速さえ使えればなぁ……。このままだと、もって30分が限界か……」
それでも検証のため、妙な高揚感すら味方につけて、俺はできるだけスピード維持して移動し続けた。
――感覚的には、大岩の拠点から1キロメートルほど離れただろうか。
普通の人間なら鬱蒼とした雨の森を歩けば1時間以上はかかる距離だと思うが、遮蔽物を華麗に避けながら走って、わずか10分ほどで到達してしまった。
もし完全に開けた直線なら、全力で走れば1分もかからないんじゃないか?!
「最高だ!でも…」
移動に集中する事にリソースを使い過ぎて、探索が全然出来ない。
憑依での精神力のすり減りも大きいし…。慣れ、みたなものも期待できなそうだ。
時間はかかるがやはりスピードを落とすか、途中止まって探索しながら動こう。
「とりあえず、休憩も兼ねてこの辺りを探索してみるか。」
俺はゆっくり歩きながら辺りを探索した。
大岩の近くの植物群とは少し違うものも多いそうだ。
そして、探索してから5分程たった頃だろうか、視覚の端に不意に『それ』が映った。
巨木の根元に、瑞々しい緑の葉を広げた植物が。
少し紫がかった葉は、根本に近づく事に緑や白色に変わっていく。
「あれ!?これ、もしかして……サニーレタスだよな?!」
どう見ても、地球でよく食べいたそれにそっくりだった。
ただ、大きい!
根本分だけでバスケットボールくらいありそう。
しかし、異世界に来て4日目、とうとう「見た目、食べられる可能性が極めて高い草」を見つけたぞ!
「よし、鑑定だ!」
――ハッと気づく。
「あ、憑依中は鑑定が使えないんだった……!」
これは地味に不便だな!
でも、どうする。これ一株っぽいしな。
このまま引き抜いて持ち帰ってもいいが、もし急激に枯れたりしたらヤバいな。
場合によっては叫び声をあげて精神攻撃するマンドレイク系だったら、今度は俺自体が昇天しかねない。
面倒だけど、一度肉体に戻って、見に来るべきか――。
悩んでいた、その刹那だった。
『ジジジジジッ……!』
と妙な音と振動を感じた。
「なんだ?」
と音のする方を振り返った、まさにその瞬間。
――パーン!!!
鼓膜を、凄まじい破裂音が引き裂いた。
「が、はっ……!?」
次の瞬間、強烈なGが全身を襲う。
俺の意識は、一瞬でテントの本体へと強制送還された。
急激に引き戻された衝撃で、椅子の上でガクガクと激しく身体が震える。
肺に無理やり空気を送り込みながら、荒い呼吸を繰り返した。
「――ひゅっ、はぁ、はぁ、はぁっ……!」
植物を見つけた嬉しさと、憑依中は他のスキルが使えない縛り。
そのふたつが重なり、あの『何か』が至近距離に迫るまで完全に油断していた。
死なないからと高を括っていたツケだ。
背中を伝う冷や汗が止まらない。
あの、脳をシェイクされるような最悪のG感覚は二度と味わいたくない。
「だが……!」
ウォーター・ゴーレムの視界がブラックアウトする、コンマ1秒にも満たなかったであろう時間の中。
俺の目は、確かに『襲撃者のフォルム』を捉えていた。
あの耳、あのシルエット……間違いない、ウサギだ!
「とうとう……見つけたぞ!」
恐怖を塗りつぶすような熱いアドレナリンが脳内に吹き出す。
俺は恐怖の冷や汗をかいたまま、唇の端を不敵に吊り上げた。
勢いよく椅子から立ち上がると、空中から生成した水を愛用のマグカップに注ぎ、一気に飲み干す。
高性能な雨合羽をバサリと羽織り、ジッパーを乱暴に引き下げて、俺は更に激しい雨が牙を剥くテントの外へと飛び出した。
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次回、第15話は【アカシャ】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




