第13話:俺って少しイケメン?
初異世界キャンプ飯で至福の時間を過ごした永灯。朝起きると、今度は異世界初の雨を経験する。予定をどうするか迷っている矢先、若返った自分の姿を見るチャンスが!?
果たして、神さまは「少しイケメン」にしてくれただろうか?
「……雨、か」
ボタボタボタ、と分厚い防滴ナイロンを激しく叩く、重々しい破裂音で目を覚ました。
転生して4日目の朝を迎え、異世界でも雨が降ることを実感している。
寝袋から這い出し、テントのジッパーを上げて外を覗くと、視界を遮るように、猛烈な雨粒が巨木群へと降り注いでいた。
梅雨を思い出させる匂いだな。
ほんの少しのノスタルジーと感動を覚えるが、ここは未知の異世界。
雨水に変な有害成分や酸、呪いなんてものまで含まれていたら笑えない。
俺は慎重派なのだ。
早速、雨粒に解析・鑑定をかけた。
【対象】:雨粒
【ステータス】:正常
水の滴。有害成分なし。貯めれば飲水として利用可能。
「ふぅ……一安心だな」
俺はシングルバーナーでお湯を沸かし、キャンプグッズの中から愛用のマグカップを取り出して朝のコーヒーを淹れる。
ふわりと広がる焙煎の香りを楽しみながら、椅子に深く腰掛けて今日の予定を考え始めた。
一応、キャンプギアの中には高性能な雨合羽がある。動こうと思えば動ける。
だが、雨の中は視界も足場も最悪で危険極まりない。
レベル100を超えるバケモノが跋扈するこの森ならなおさらだ。
「ただ……」
とコーヒーを啜りながら思考を巡らせる。
「雨の日にしか咲かない貴重な花とか、雨を好む特殊な魔物がいる可能性はあるんだよな……」
どうするべきか。
俺は少しぼーっとしながら外の雨を眺める。
何気なく【並列思考】と【思考加速】を発動した。
脳のクロック数が跳ね上がり、体感時間が引き伸ばされる。
上空から落下してくる無数の雨粒。そのひとつひとつを視認し、繋ぎ合わせて瞬時にミニウォーター・ゴーレムを作り上げた。
更に【並列思考】を使い、落ちてくる雨粒を次々と極小のゴーレムへとかえる。
姿を変えて落下していく雨粒は、地面に叩きつけられると、そのままバチンと弾け飛んでしまった。
「うわ、落下ダメージかな。なんだか可哀想だな……」
俺は意識を1体だけに集中させ、その水のゴーレムの強度を引き上げてみた。
無事、着地。
今度は弾け飛ばず、親指サイズの半透明な水の小人が、テントの前の泥の上をトコトコと歩き始めた。
ピコピコと動く姿が、ゲームの初期モンスターみたいでひたすら可愛い。
「もしかして『雨粒ゴーレム』なんてふざけた名前になってる?」
笑いながら、その小人に鑑定をかけてみる。
【対象】:ウォーター・ゴーレム
【ステータス】:4倍
超ミニサイズのウォーター・ゴーレム。
「あ、名前は普通にウォーター・ゴーレム……うん?」
視線が止まる。
ステータスの部分に奇妙な表記があった。
「4倍?」
どういう意味だ?雨粒の大きさと比べて、とか?
俺は眉をひそめ、その部分へさらに精密な解析・鑑定を掛け直した。
――ゴーレムマスターのスキル能力、【ゴーレム強化】により、ゴーレムを使用者のレベルに応じて強化中。
「なっ……!?」
勢いよく椅子から立ち上がり、コーヒーが少しこぼれるのも構わず、即座に自分自身へ鑑定をかけた。
【対象】:篝永灯
【精神年齢】:49歳
【レベル】:32
【職業】:ゴーレム使い
【ステータス】:正常
【HP】:328
【MP】:669
◆◇繧ィ繝ゥ繝シ◇◆によって転生させてもらった転生者。アラフィフ。もうすぐ誕生日でアラフィフ卒業。
【スキル】
解析・鑑定:レベル4
インベントリ:レベル2
ゴーレムマスター:レベル3
【派生スキル】
危険察知
気配隠蔽
認識阻害
並列思考
思考加速
自律制御
ゴーレム強化
感覚共有
憑依転身
【加護】
◆◇繧ィ繝ゥ繝シ◇◆の加護
「レベルが32になってる!そうか!」
昨日のカマイレオンウルフとの戦闘のおかげか!
検証で疲れて、俺自身のステータスを鑑定することを完全に失念していたのだ。
インベントリ以外のスキルは上がっている!解析・鑑定にいたってはすでに『レベル4』だ。
「表記が『年齢』じゃなくて『精神年齢』になってるな……あ、そうか」
16歳くらいの肉体になっているんだっけ。それを忘れるほど激動の4日間だったってことか。
でも鏡もないから、いま自分がどんな顔をしているのかわからないな。
「情報解析の精度が上がったのかな……とにかく検証だ!」
俺は朝食を食べる事もそっちのけで、新しく生えていた派生スキル【ゴーレム強化】【感覚共有】【憑依転身】の検証を始めた。
まずは【ゴーレム強化】だ。
解析・鑑定で調べてみると、ゴーレムの全ステータスを、俺の現在のレベル分まで強化できるらしい。
つまり、今レベル32だから、最大で『32倍』までステータスを引き上げられるってことか。
もし100倍とかにできるよう上がったら相当やばくないか!?
「全部のゴーレムのステアップできたら、最強の軍隊作れるだろ、これ!」
しかし、実際やってみると同時に4体が限界だった。
疲労感を考えると、長い間、強化MAXレベルのゴーレムを4体維持するは到底無理だ。
「これ、素材の希少さや大きさでも疲労効率は変わりそうだな…」
合わせて今後のレベルアップでどう変化するか、継続的な検証が必要だな。
「あとはステータスの内容ごとに強化できるか…」
実際エア・ゴーレムでやってみると体重(質量)のパラメータだけを32倍にすることができた。
今、泥の地面をドスドスと踏み締めて歩いている。
「エア・ゴーレムが立った!!今まで重さが無いに等しいから置物だったエア・ゴーレムが、地面を歩いている!」
感動した!『立つ』という行為だけで感動したのは某アニメ以来だ。
「これができると、やれることがまた増えるな!」
それによる全体強化と個別強化での精神力の削られ方、これも検証継続案件だ。
次は【感覚共有】。
結論からいうと、これも言葉通りのことができた。
だが、感覚の有無はゴーレムに依存するらしく、マッドゴーレムで試したところ、五感そのものがないため何も感じられなかった。
ここで疑問が湧いた。
「『俺を守れ』とオーダーした時、あいつはどうやって俺の位置を把握していたんだ?」
何かあるはずだ。
意識を鋭く研ぎ澄まし、マッドゴーレムの感覚を捕まえるように集中する。
「……ん?あ、これ、振動か?」
さらに集中を深めると、あちらこちらから地面を伝わる微細な波形が脳裏に飛び込んできた。
それが頭の中で瞬時に色のない3Dの立体マップとして視覚化される。
「ソナーや、レーダーみたいなものか!」
なるほどな!目のないゴーレムは振動探知の特性がある感じなのか。
「じゃあ、こちらから振動を起こせば、エコーロケーションみたいに周囲を探ることもできそうだな」
使い方によってはかなり便利そうだ。
そして他のゴーレムで検証した結果、この感知に最も適しているのは、エア・ゴーレムとウォーター・ゴーレムだった。
特にエア・ゴーレムは空気の振動をかなり拾ってくれるため、広範囲の探索ができる。
ただ、この能力を維持するのは、辛くはないが結構な精神力を消費するな。使い所に気をつけないと。
「いつか、ゴーレム用の本格的な『視覚センサー』も手に入れたいものだな!」
そして最後、【憑依転身】だ。
これも文字通り、作ったゴーレムに自分の精神を丸ごと乗り移らせて、自分の身体のように動かせるスキルのようだ。
早速、マッド・ゴーレムに憑依してみる。
「……おお!すげえ、動く!」
けど、【感覚共有】と一緒で何も見えないし、何も聞こえないぞ?
周りを探るようにに腕を動かしてみると、空気を切る感覚がある。
「触覚がある?」
……もしかして、俺自身の『五感がそのままゴーレムの体に上書きされる』としたら……
俺は一旦本体に戻り、顔に目、鼻、口、耳の形を作ったゴーレムに、再度憑依した。
要は上書きする部位がないから、感覚が掴めないのでは、と思ったからだ。
憑依した瞬間、視界が広がった。
「ビンゴ!すっげー!見える!」
もちろん、音も聞こえるし、匂いもする!口に水を入れたら味もする!泥味だけど!喋れないけど!
「これは驚いた。俺、感覚持ちのゴーレムになれるのか!」
そうなると気になるのは痛覚だな。
ゴーレムの体は、人間と違って関節制限がない。極端な話、肘から下をグルグル回しながらのパンチだって打てるず。でも、もし痛覚があったら……
俺は腕を見ながら
「検証……無理!」
だから、別のマッドゴーレムに殴らせてみました。顔はダメダメ、ボディ、ボディ!
ドン!
「ぐはっ!痛った!……くない!」
よし!痛覚は上書きされないようだ。
基本が精神体だからかな?
もしそうなら、精神体に直接攻撃してくるタイプの魔法や魔物がいたら危ないかもな。
ともあれ、痛覚がないのは好都合!
「見よ!」
俺は肘から下をドリルのように回した。
「は〜っはっはっは!コークスクリューブローが撃てるぜ!」
俺はひとしきり一人遊びを楽しんだ。
もし周りに人がいたら、変なゴーレムがいると思われたはずだ。
そして、メインイベント。『俺が俺を見る』時間だ!
「とうとう、ご対面だ!」
ドキドキしながら、憑依したゴーレムの視点を動かし、テントの中で仮死状態でうつむいて座っている『自分自身の肉体』を見た。
「お……!?」
体型は普通。だが全体的に若々しく、シュッとした清潔感がある。背も低くなさそうだ。
右の頬に少し新しい傷跡が残っている。ウサギとの死闘の名残りだな。だが、それが逆にちょっとハクが付いて格好よく見えるじゃないか!
そしてお待ちかね、顔全体をまじまじと覗き込む。
「……え?あ、うん。まあ、うん……ああ?」
なんというか……悪くはない。一言で表現するなら――『無害』。
「……いや、この世界基準なら、これでも十分イケメンの部類なのかもしれない。もっとこう、神様直系の超絶美形を想像してたから拍子抜けしただけで……」
比較対象がないから、これは「少しイケメン」なのだと自分に強く言い聞かせる。
俺はどこか納得のいかない割り切れなさを覚えつつ、精神をそっと本体へと戻した。
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次回、第14話は【とうとう見つけた!】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




