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ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜  作者: 水無月 五色
奈落の森編

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第12話:料理するぞ!

魔物の死体をゴーレム化できるかという検証を行う永灯だが、謎が深まる検証結果になってしまった。精神的疲労も感じた永灯は、その後の探索はやめ異世界発のキャンプ飯を作ることに。


さて、異世界初のキャンプ飯は?

結論から言えば、カマイレオンウルフの死体をゴーレム化することはできなかった。


「……やっぱり、ダメか」


横たわる巨大な狼の死体に向けて右手をかざし、俺は『ゴーレムマスター』のスキルを発動した。だが、スキルが発動した気配がない。


念のため、鑑定してみると


【対象】:カマイレオンウルフの死体

【ステータス】死亡

人型では無いためゴーレム化できません。権限が無いためゴーレム化できません。


脳内に浮かぶエラーログ。


やはり「人型に形成される」という俺のスキルの絶対制限がネックになってしまったか。それはいい。納得はいっている。だが……。


「『権限がありません』、か……。死体なのに権限とはどういうことだ?」


この魔物はあらかじめ上位の存在によって「誰かの所有物」としてマーキングされていたとでも言うのだろうか?


そしてその所有権は、肉体の生命活動が停止しても自動解除されない仕様……?


「だめだ。考えれば考えるほど、逆に謎が深まってしまう。一旦保留だ。」


思った以上に、この世界のルールは複雑だな。


俺はやれやれといった感になったが、実は胸の奥では安堵していた。


なぜなら、この死体を無理やり切り刻み、バラバラのパーツにして人型に繋ぎ直すことでゴーレム化したら…


「死体を素材にした人型ゴーレム」――そんな、悪魔の所業と言われてもおかしくないどす黒い考えが、一瞬でも頭をよぎっていたからだ。


本当にやろうとは思わない。だが、検証廚の悪い性というか、そんな発想が湧くこと自体、自分の倫理観に嫌悪感を抱いてしまう。


それが『権限』という言葉に突っぱねられた。


まるで、世界のルールが俺に超えてはならない一線を超えないよう、気づかせてくれたような気がしたからだ。


「とにかく、死体は直接ゴーレム化できない。この答えだけで今は十分だ」


どうしても検証しておかなければならない事だったとはいえ、自分の思考と自己嫌悪のせいで、どっと精神的な疲れが押し寄せてきた。


だが、キャンパーとして、そしてここで生きるサバイバーとして、最後にどうしても確認しなければならない事がある。


「この魔物、食えるかな?」


俺はもう一度、ウルフの死体に意識を集中させて『鑑定』を試みた。


【対象】:カマイレオンウルフの肉

【詳細】:肉質は非常に強固であり、独特の獣臭および泥臭さが強いため、食用にはまったく向かない。かなりの確率で体内に寄生虫を宿すため、死後の腐敗進行が異常に早い。


「……うん、食指がまったく動かないね」


徹底的な血抜きと下処理、香草をこれでもかと擦り込んで臭み対策をすれば、ワンチャンスいけるかもしれない。だが、そこまでする必要性は微塵も感じられない。


「よし、こいつは素材として街で売る方向で行こう」


インベントリの操作を行い、巨大な巨躯を光の粒子に変えて格納する。誰もいなくなった空間で、俺は大きく息を吐き出した。


「はあ……なんだか、めちゃくちゃ疲れたな。今日はもう探索をやめだ。のんびりしよう」


一度、張り詰めた気持ちを緩めると、もう動く気が起きない。染み付いたおっさん精神はそうそう働く方向には向かないのだ。こんな時は、趣味に全力を出すに限る!


「気分転換に、料理するぞ!」


俺はニヤリと笑みを浮かべ、インベントリから丸鶏を取り出した。


今日のメニューは決まっている。キャンプ飯の王道の一つ――「ビア缶チキン」だ。


時間は掛かるが、そんなに手間もいらず、キャンプ飯の醍醐味が味わえる一品。


そして、重要なのはビール缶。


そう、ビア缶チキンを作るには、当然ながら缶ビールが必要不可欠なのである!


大事な事なので2度自分自身で確認しました。


「異世界に来て初めての貴重なビールを、料理のために使う……?答えは否である!そんな無慈悲な真似、ビール職人への冒涜である!立て、立てよ俺!ジーク・ビール!」


という軽い一人茶番をした後、俺は異世界に来て初めて、自分自身の手でアルコールを摂取することにした。


そう、俺は、ただただビールが飲みたいのである!


インベントリから、日本のキンキンに冷えた缶ビールを取り出す。プルタブに指をかけながら、俺はふと、森の奥の静寂を見つめた。


「前世で、友人と約束した事をようやく果たせるな。神様ちゃんとメッセージ送ってくれたかな。」


自分の置かれた数奇な状況を振り返り、懐かしさと、少しの寂しさを覚えながら、俺は誰もいない森の空に向かって缶を掲げた。


「お疲れ、皆んな。――乾杯」


パキッ、と小気味いい音が静かな森に響く。そのまま缶を傾け、勢いよく喉に流し込んだ。


ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……。


「――っはぁぁぁあ!!う、うますぎる!!」


炭酸の清々しいキレと、ホップの苦味が、渇いた喉を怒涛の勢いで通り抜けていく。


やっぱり、大自然の中で飲むビールは最高だと、五臓六腑に染み渡る快感の中で改めて確信した。


まあ、死と隣り合わせの森の中だけど…


あっという間に一本目を一気飲みしてしまい、俺はプハッと満足の息を漏らす。


異世界初ビールの儀式を完璧に済ませたところで、俺はもう一本のビールを取り出し、いよいよビア缶チキンの調理に取りかかった。


作り方は至ってシンプルだ。


まず、丸鶏の表面と内側に、塩コショウ、すりおろしたニンニク、そしてオリーブオイルをこれでもかと入念に擦り込んでいく。


次に、半分ほど中身を飲んだ(もちろん俺が美味しくいただいた)ビール缶のなかに、ハーブを少し投入。

そして、そのビール缶の頭から、丸鶏のお尻を文字通りグサッと突き刺すようにハメ込むのだ。


こうすることで、ビール缶を台座にして鶏が地面に直立する。


俺はテント内に設置したお気に入りの焚き火台へと視線を向けた。


今回は、初、料理で焚き火台を使ってトンネルテントの中でじっくりと焼き上げる計画だ。


俺はフライシートをたくし上げ、メッシュにする。


焚き火に炭を入れ、火を起こす。ここで活躍するのが、オキシゴーレム。そう。酸素で出来たゴーレムだ。


少しでも火種があれば、ゴーレムを近づけるだけで引火、あっという間に炭が起こせるという仕組みだ。


「有能過ぎるぞ、オキシゴーレム!」


炭がいい具合になったら焚き火台の上に焚き火スタンドを乗せ、その上にビア缶チキンを固定して置く。


更に、その上に炭が入っている大きめの段ボールがあったので、中身を出し逆さにして被せ、その周りをアルミホイルで囲う。


「手持ちにあるもので、作れるものだな」


と感心しつつ、あとは、ビール缶から立ち上るアルコールとハーブの蒸気が、内側から肉をふっくらと蒸し焼きにし、外側の皮を焚き火の熱がパリッと仕上げてくれる。


「火加減も良さげだし、1時間ぐらいでできそうだ」


オキシゴーレムに火の微調整のオーダーを出し、俺はアウトドアチェアに深く身体を預け、静かにその時を待つだけ。


「ゴーレムマスターのスキル、最高かよ」


それにしても、だ。異世界に来た当初の俺を知る者がいれば、「なぜあれほど周囲を警戒し、匂いを恐れていたのに、こんな開放的なキャンプ料理を楽しんでいるんだ?」と首を傾げるに違いない。


この最高に快適なキャンプ料理を行えるようになったのには、ある決定的な「秘密」に気づいたからだ。


それは、俺がこの森の迷子対策で木を傷つけて目印を付けながら進む事を思いつき、実際にやってみようとした時だった。


――――――――


インベントリから、サバイバル用のナイフを取り出し、近くに生えていた、あの頑丈そうな音を鳴らす漆黒の巨木の幹に、キャンプ用語でいう『バトニング(薪割り)』の要領で少し力を入れてみた。


すると、トォン、と硬質な音が響いたにもかかわらず、意外なほど深い傷がスッとついたのだ。


「……え?この木、見た目も音も絶対に硬そうなんだけど」


あ、そう言えば、この木自体を鑑定したことがなかったな。


俺はナイフを向けたまま『鑑定』を唱えた。


【対象】:アイアンオークの木

鉄と同等の強度と密度を誇り、並の剣士では傷一つつけられない強硬度植物。


「やっぱりな!あの音、完全に金属のそれだと思ったもん!」


鉄と同じ強度の木ねぇ……じゃあ、なんでそんな化け物みたいな大木に、この普通のナイフで簡単に傷がつけられるんだ?


まさか、と思って、今度は自分の握っている地味なナイフに視線を走らせる。


【対象】:万能ナイフ(極)

【特性】:不壊、状態維持

サバイバル環境でプロが命を預ける一品。日本刀の玉鋼に近い組成で作られている。


「『不壊』と『状態維持』だって!?これ、UOアンブレイカブルオブジェクトになってるじゃないか!」


神様か!?転生させる時にそんなチート特性付与したなんて、一言も言ってなかったぞ!


予期せぬ発見に、俺の脳裏に電撃のような閃きが走った。


「……待てよ。もしかして……他のキャンプギアにも、何かとんでもない特性を付与してくれてるんじゃないか!?」


俺は慌てて、テントを解析した。


【対象】:KAMATENT3(M)

【特性】:魔物除け、虫除け、自動環境維持

広いリビングを備えた2ルーム型トンネルテント。テント史上最高の快適性と充実したオプションパーツで、よりワクワクするキャンプを。


「やっぱりーーー!!」


俺は叫んでいた。


この過酷な森で、あのテントに戻るとなぜか危険察知が和らいだ理由。


それは、きっとこの【魔物除け】の特性おかげだったのだ。あまりのありがたさに俺は森の隙間から見える空に向かって、がっしりと手を合わせた。


「神様、マジでありがとう……!」


そこからの俺は早かった。そう、他のギアもチェックしないと!!


ランタン、クッカー、寝袋、折りたたみチェアと片っ端から鑑定していった。


――しかし、悲しいかな。他のギアには、特にチートな特性はついていなかった。


すべて「頑丈で使いやすい一級品のキャンプ道具」である。


期待していた分、少しだけ残念ではあったが、これ以上望むのは強欲がすぎるというものだ。


ナイフとテント、この二つに最上級の特性があるだけで、生存率は天と地ほど違う。


「贅沢言っちゃバチが当たるな。今度あの神様に会う機会があったら、迷わず五体投地します!」


そう心に誓った。


で、一つ解析・鑑定に疑問が。


「解析・鑑定さんや。説明の内容が俺がギアを買った時の商品のキャッチコピーそのまんまなんだけど、もしかして、地球と繋がってるとか無いよね?」


――解析・鑑定は相変わらず何も答えてくれず、俺の質問は森に吸い込まれていった。


――――――――


と、まあ、あの日の発見が、今の俺のこの強気なスローライフを支えている。


魔物除けの具体的な強度の数値までは分からないが、現状、危険察知は全く動いていない。


そして俺はこんな素敵な特性をつけてくれた神様のサービスを100%信頼している!


そんな風に、自分に対する完璧な言い訳を脳内で完結させながら、俺は炭の火を見つめていた。


――じっくりと焼き始めてから、およそ1時間が経過した。


隙間から漏れ出す、香ばしい鶏の脂の匂いと、食欲を狂わせるニンニクとハーブの香りが、テント内に充満している。


「よし……頃合いかな」


念の為の『鑑定』による内部温度のチェックでも規定値をクリア。


厚手のアウトドアグローブをはめ、被せていた段ボールを慎重に持ち上げる。


立ち上る白い湯気の向こうから現れたのは、全体が見事なキツネ色――いや、完璧な琥珀色に焼き上がった、とんでもなく美味そうなビア缶チキンだった。


皮の表面では、余分な脂がパチパチと音を立てて弾けている。


俺は堪らず、インベントリから新しいビールをもう一本取り出し、勢いよく開けた。


「異世界での初キャンプ飯に、乾杯!」


冷えたビールをぐっと煽り、すぐさまナイフでチキンのモモ肉を切り分ける。


そのまま口に放り込むと、パリッとした皮の食感の直後、溢れんばかりの濃厚な肉汁が口いっぱいに広がった。


ビールの蒸気で蒸された肉質は、驚くほど柔らかく、ジューシーだ。


「うっま……え、何これ、前世で食ったどのチキンより美味いんだけど……」


久々の本格的なキャンプ料理、そして己の検証が生み出した最高の成果に、これまでの苦労や孤独が、一瞬で遥か彼方へと吹っ飛んでいく。


「やっぱり、キャンプ最高だな!」


ビア缶チキンを贅沢に頬張り、ビールを飲み干しながら、俺はすべて噛み合った結果のこの至福の時間を、ただ、ただ堪能した。


そしてルミエールランタンで癒しの時間も堪能しつつ、俺は久しぶりに程よい酔いを感じ、寝袋に入り込んで眠りについた。

ご一読いただきありがとうございます。


面白い、続きが気になる! と思っていただけましたらブックマークや評価応援していただけると嬉しいです。


次回、第13話は【俺って少しイケメン?】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。

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