第108話:地上戦の攻防 その3
ガボンは咄嗟に手首を返し、振り下ろそうとしていた斧の軌道を変えた。
飛んできた棍棒を弾き飛ばし、空中でバランスを崩したものの、なんとかドーザの横へと着地した。
「トロルか!」
ドーザが構え直す。
「くそがっ!違う魔物同士のくせに、また連携しやがって!」
舌打ちするガボン。
その隙に、ギガントロプスがゆっくりと立ち上がった。
足に刺さっていたドーザの剣を乱暴に引き抜き、投げ捨てる。
同時にあの巨大な喉を膨らませ始めた。
「二度も同じ手を食らうかよ!!」
ガボンは怒声を上げながら、持っていたバトルアックスをギガントロプスに向けて力任せに投擲した。
「【リターン・ゲイル】!」
風魔法を付与された重い斧が、唸りを上げて高速回転をしながら飛んでいく。
狙いは、膨らんだ首元。
しかし、ギガントロプスも老獪だった。
飛来する斧を見るや否や、仰向けに倒れ込んだ。
そのまま後ろへ転がって回避したのだ。
そして、地面に這いつくばった不気味な体勢のまま、再び喉を膨らませて咆哮を放った。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「くっ……!」
至近距離での【威圧】。
だが、分かっていれば対応はできる。
ガボンは魔力で耐性を強化し、歯を食いしばってなんとかその恐怖に耐え抜いた。
しかし、試練は終わらない。
咆哮と同時に、トロルが凄まじい速度で突進してきた。
よだれを垂らしながらガボンに向けて、丸太のような腕を振り回して殴りかかってきたのだ。
武器を手放しているガボンには、防ぐ術がない。
その瞬間、ドーザがすかさず前に躍り出た。
「【ライトバックラー】!」
魔力で強化した光の小盾を展開し、トロルの強烈な一撃を正面から受け止める。
「ぐぅ!」
衝撃でドーザの足が地面を削るが、壁としての役割は完璧に果たした。
トロルが苛立ち、ドーザをもう一度殴りつけようと腕を振り上げた、その時だった。
空を切る鋭い風切り音。
トロルの太い腕を、背後から飛来した何かが一瞬にして通過した。
ズルリ、と。
嫌な音を立てて、トロルの右腕が肘の少し上から切り飛ばされ、地面に落下した。
先ほどガボンが投げた斧だ。
戻ってくる射線上に、トロルが自ら腕を突き出した形になったのだ。
血しぶきを上げながら戻ってきた斧の柄を、ガボンがしっかりと掴み取る。
「へっ!ざまあねえな、デカブツ!」
ガボンが勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
だが、その余裕の表情は、一秒と持たずに引きつることになる。
地面に落ちたはずのトロルの腕の断面が、グチュグチュという気味の悪い音を立てる。
そして、無数の肉芽が異常な速度で膨れ上がり始めたのだ。
細胞が狂ったように増殖し、筋肉の繊維がうねりながら編み込まれていく。
あっという間に新しい腕の形を形成していった。
「な、なんだよあのふざけた回復力は!?」
常識外れの超再生スピードを目の当たりにし、ガボンは思わず後ずさった。
「トロルは首を切り落とすのが一番てっとり早い!」
ドーザがトロルとの間合いを詰めにかかる。
「そういうことは、もっと早く言えよ!」
悪態をつきながらも、ガボンも腕が完全に再生しきる前に決着をつけるべく、一気にトロルの懐へと間合いを詰めようとした。
だが、二人はトロルに気を取られ過ぎていた。
上空から、太陽の光を遮る巨大な影が落ちる。
「!?」
這いつくばっていたはずの大猿、ギガントロプスが、強靭な脚力で大ジャンプを決めていたのだ。
空中で両手をしっかりと組み合わせ、振りかぶる。
そのままガボンとドーザの二人を同時に叩き潰そうと、凄まじい速度で落下してきていた。
「しまった!」
ドーザが盾を構え、衝撃に備える。
ガボンもとっさに斧を握り直した。
上空の狂気の影が濃くなったその時。
ドンッ!!
空気を破裂させるような激しい衝突音が響く。
上空で何かが通り過ぎ、二人を陽光が射した。
直後、少し離れた場所に「ズズンッ」と地面を激しく揺らす重い着地音が響く。
「……え?」
ガボンが呆然と目を向けると、自分たちを潰すはずだったギガントロプスが、十メートルほど離れた地面を派手に転げ回っていた。
その巨体の横腹には、えぐられたような打撃痕が残っている。
「ちっ」
ガボンの忌々しそうな舌打ちが聞こえた。
ウルノラが一瞬の隙を見逃さず、離れた位置から巨大な【ロックバレット】をギガントロプスに直撃させたのだ。
「助かった!ウルノラ殿!」
「……ふん。あんな攻撃、俺一人でも反撃できたぜ……」
ドーザが素直に礼を言う横で、ガボンは助けられたバツの悪さを隠すように、不機嫌そうな声で強がった。
「今は嫉妬より、一匹でも多く確実に敵の数を削ることが重要だ。意地を張るな」
「……言われなくても、わかってる!」
ドーザの冷静な説教に、ガボンは苛立ちを隠さずに怒鳴り返した。
だが、その手はバトルアックスをしっかりと握り直し、再び戦闘態勢へと移行している。
トロルの腕の再生が完全に終わり、地面に落ちていた棍棒を拾い上げていた。
遠くへ弾き飛ばされたギガントロプスも、苦痛で息を荒くしながら立ち上がる。
ドーザも無言で駆け出し、投げ捨てられた自分の長剣を拾い上げた。
魔力を纏わせ、構えながら再びトロルへと肉薄していく。
終わりの見えない上位魔物たちとの苛烈な討伐戦は、泥沼の様相を呈しながら継続していた。
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次回、第109話は【地上戦の攻防 その4】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




