第102話:蒼い炎
今回、俺が放った弾丸。
それは、丸い形では無かったのだ。
装甲を貫くための【徹甲弾】——つまり、槍のように細長く先が尖った形状にした。
ただ、スキルの人型の縛りから「完全な弾丸の形状」にするにはどうしたらいいか、咄嗟にイメージが上手く固まらなかった。
結果として砲身に装填したのは、『綺麗な飛び込みのポーズをしている極細の小人ゴーレム』だったのだ。
『マスターが放った弾丸は、見事な流線型を保っていました。……とても、シュールな光景でした』
アカシャの冷静な感想。
そのトーンでの感想はやめて。
自分で作っておいてなんだが、俺もそう思ってるし。
あの、真顔で飛んでいく美しい姿勢の細長いゴーレムの姿を思い出すと……。
「ぷっ」
緊迫した状況だというのに、俺はとうとう吹き出してしまった。
意図とは違う笑い。
しかし、その勘違いがアズールを激怒させる起爆剤となった。
あからさまな怒りに任せて、アズールの目が大きく見開かれる。
「ガァァァァァァァァッッ!!!」
耳をつんざくような、強烈な叫び声が轟いた。
同時に、アズールの全身を覆っていた赤い体毛が、ユラユラと陽炎のように揺れ始める。
その毛を芯として発火しはじめ、とうとう全身が燃え盛る炎へと変わった。
「とうとう【炎神化】を発動したな……!」
全身を炎の鎧で包み込んだアズールが、周囲の地面や草木を消滅させながら、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
おー、怖い怖い。
見た目のプレッシャーだけで言えば、「レイドボス」といっても過言ではない。
だが——
俺は攻略法を知っている。
俺は十体のウォーター・ゴーレムを自分の周りに錬成した。
念のため、ステータスを現在の俺のレベル分で強化した砲身付きマッド・ゴーレムも二体追加する。
抜かりはない。
以前倒した時と同じ、『水蒸気爆発』を再現して、あいつを倒す。
「まあ、この辺り一帯が吹き飛んで、後で地形を直すのが大変かもしれないけどな」
俺は勝利を確信し、ニヤリと笑った。
よし!後は、あいつを怒り狂わせて、ウォーター・ゴーレムの群れに突っ込ませる。
それだけの簡単なお仕事——のはずだった。
ところが、予想しない現象が起きた。
アズールの体に刻まれていた不気味な蒼い紋様。
それが、急激に脈打つように青い光を放ち始めたのだ。
紋様が光を増すにつれて、その周囲から炎の色が、赤から『蒼』へと急速に変化していく。
「なっ!?」
またたく間に、アズールの巨体を包む炎が、ガスバーナーのように青白く染まりきった。
炎の勢いも桁違いになり、低い燃焼音が響き渡る。
『サラマンダー・エイプ・アズールの炎の性質が変化しました!温度……3,000度以上と推測されます!』
「3,000度!?嘘だろ!?鉄だってドロドロに溶けるどころか、蒸発してガスになる温度だぞ!」
太陽の黒点にすら迫ろうかという異常な熱量。
中世レベルのファンタジー世界で出していい火力じゃない!
『サラマンダー・エイプ・アズールの周囲の空気を吸い込まないようにしてください!物質が急激に溶けて気化したガスを肺に吸い込んだ場合、肺が焼け焦げて即死します!』
いつもは冷徹なアカシャの声に、明らかな焦りと緊張が孕んでいた。
くそっ!体内から焼かれるとか冗談じゃないぞ!
俺は慌てて息を止める。
念の為エア・ゴーレムのタクティカル・シェルで頭を囲った。
だが、俺はすぐに違和感に気がついた。
「……アカシャ、おかしくない?」
3,000度という超高温。
そんな熱源が地面に立っていれば、足元の土は溶岩のようにドロドロに溶けていくはずだ。
だが、今のアズールの足元は、全く溶岩化していない。
赤い炎の時は、溶岩化したり、周囲の草木も灰になっていたのに。
それだけじゃない。
恐らくアズールの『ドミナント』の命令によって、背後からハイオークや他の魔物たちが続々と奴の周囲に集まってきている。
3,000度から作り出される熱放射は、尋常じゃないはず。
数メートル近づいただけで魔物たちは黒焦げになるはずだ。
しかし、平気で並び立っている。
全くダメージを受けている様子がないのだ。
「どういう事だ!?なんで周りの魔物たちは平気な顔をしてるんだ!?」
『……炎自体をあの紋様を使い操っていると思われます。おそらく、自身のスキルであるドミナントと直感を組み合わせ、味方と認識した対象には一切の熱ダメージが入らないよう、事象を書き換えていると推測されます』
「なっ!?」
自分の炎を支配してるって事か!?
そんな高度な事やってるのかよ、あいつ!
「つまり、あいつが『敵』だと明確に認識している対象にだけ、その3,000度の熱が襲いかかるって事か!?」
『おそらくは』
FFを意図的に無効化出来るって事かよ!
もしそうなら、狡猾で知能の高いあいつは……!
「いや、まだだ!」
やつはまだ気づいていないはずだ!
今ならまだ、水蒸気爆発を叩き込めるはず!
俺は思考を加速させる。
アズールの体の周囲に、エア・ゴーレムを錬成した。
そして、そのエア・ゴーレムとウォーター・ゴーレムをシフトチェンジさせた。
奴の体に直接、大量の水をぶつけ、無理やり爆発を誘発させる!
「攻撃しろっ!!」
俺はわざと大きな声で叫び、ウォーター・ゴーレムを一斉に飛びかからせた。
大量の水のゴーレムが、蒼く燃え盛るアズールの巨体にぶつかっていく。
頼む、爆発してくれ!
しかし、俺の祈りは、虚しく空に溶けて消えた。
期待したような大爆発は一切起きなかったのだ。
「ギャッ!ギャッ!ギャッ!ギャァァッハッハッハ!!」
アズールが、邪悪な悦楽で満たされた笑い声を上げた。
まるで手品を見破ったかのように。
「……あいつ、もう知ってやがったんだ!」
俺のウォーター・ゴーレムが強い物理攻撃力を持たず、自分には効かない事を。
俺がけしかけた目的が、自分を傷つけるためではなく、『水蒸気爆発という現象を誘発させる』ためだった事も。
だから、奴はウォーター・ゴーレムたちを、自分に対する『敵』や『攻撃』として認定しなかった。
ひたすら効かない攻撃を続けるウォーター・ゴーレム達。
周りに集まってきた魔物達に、次々と破壊されていった。
魔物同士のネットワークで俺の過去の戦術を知っていたのか?
それとも、直感スキルが、俺の狙いを完璧に見抜いたのか?
理由はわからない。
どちらにせよ、俺が作り出した攻略法は、根本から完全に潰された事だけは間違いなかった。
「……やってくれたな……」
俺は深い苛立ちと共にため息をつき、パワードスーツの拳を強く握りしめた。
目の前にいるバカげた高熱猿を、どう倒すか……。
両脇に控える二体の強化マッド・ゴーレムと共に、再び迎撃の態勢を整えた。
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次回、第103話は【飛行魔物の襲来 その1】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




