第101話:砲撃の攻防
両肩の砲身から放たれた二発の岩塊が、空気を切り裂いて一直線に飛んでいく。
発射と同時に発生した白いリング状の衝撃波が、俺の周囲の土埃を吹き飛ばした。
「当たれっ!」
音速に迫る拳大の岩の弾丸。
それは間違いなく、サラマンダー・エイプ・アズールのどてっ腹を正確に捉えていた。
だが、奴は逃げも躱しもしなかった。
その場に仁王立ちして醜悪な笑みを浮かべている。
まるで俺の攻撃など取るに足らないとでも言わんばかりに。
直後、アズールの前に、分厚い木の盾を構えたハイオークたちが三列の壁となって立ちはだかった。
「!」
ドンッ!!
重い衝突音の直後、形容しがたい凄惨な破裂音が戦場に響き渡った。
最前列にいた一体目のハイオークの盾を粉砕。
同時に分厚い胸板に、一発目の石弾が着弾したのだ。
100気圧の圧縮空気で撃ち出された石弾の威力は、ハイオークの強靭な胴体を文字通り「破裂」させた。
大量の血肉と砕けた骨、そして粉々になった盾の破片。
それらが、赤い飛沫となって周囲にぶち撒けられる。
だが——。
「……と、止まった?!」
俺の目は、信じられない光景を捉えていた。
最前列のハイオークを粉砕した石弾は、続けて二列目にいたハイオークの盾も破壊する。
そして、その体内に深々とめり込んでいた。
しかし、貫通してアズールへ届くことはなかったのだ。
腹に巨大な風穴を開けられた二体目のハイオークが、重々しい音を立てて絶命し、地面に崩れ落ちる。
土煙が晴れた向こう側。
三列目のハイオークの後ろで、アズールは無傷のまま赤髪を揺らめかせ、俺を嘲笑うように口角を吊り上げていた。
「やっぱり味方を盾にしてきたか……!」
【ドミナント】のスキルによる、強制的な肉の壁。
何かしらの対策はしてくるだろうと予想はしていたが、相変わらずのゲスさだ。
しかし、戦車の砲弾に匹敵するはずのあの一撃が、たった二体のハイオークに止められたのは完全に予想外だった。
盾のせいか?
『マスター。原因は弾の形状にあります』
脳内に、アカシャの冷静な分析の声が響く。
『今回錬成した弾丸は、球体でした。そのため、一発目のハイオークに着弾した瞬間、前面の広い面積で激突し、大半の運動エネルギーをハイオークの体の破壊で消費してしまったのです』
「面」でぶつかったのが原因という事か。
『マスターの前世の世界でいう【ホローポイント弾】に近い現象が起きたと考えられます』
「ホローポイント弾……先端が空洞になっていて、体内で弾け飛ぶ弾か……!」
なるほど。
丸いからこそ、結果として貫通力が極端に落ちたのか。
なら、答えは簡単だ。
俺は即座に両肩の砲身内に二発目の弾丸を錬成し、再び発射の姿勢を取る。
アズールはさらに下卑た笑みを浮かべていた。
「同じことを繰り返すバカが」とでも言わんばかりの表情だ。
すぐさま、近くに待機していた別のハイオーク二体が、ドスンと重い足取りで射線上に割って入ってくる。
「アカシャ!」
『確認しました。……マスター、これは』
「ツッコミは後だ!くらえっ!!」
バァァァァァァァァァンッッ!!!!
再び、両肩から凄まじい破裂音が轟く。
弾は、圧倒的な貫通力で一体目のハイオークの盾と肉体を容易くブチ抜いた。
そのまま二体目のハイオークの胸にも、大きな風穴を二つ開けていく。
だが、その先にアズールはいなかった。
余裕の笑みを消したアズールが、その巨体からは想像もつかない俊敏さで、ふわりと高い位置へとジャンプしていた。
ヒュンッ!という風切り音と共に、弾はアズールの足元を通り抜ける。
そして、遥か後方の地面に激突して硬い音を響かせた。
射線上にいたハイオーク二体だけが、胸に穴を開けられたままドサリと倒れ込んだ。
「ちっ!躱されたか!」
俺は空中にいるアズールをさらに追撃するための、マッド・ゴーレムを二体錬成した。
片肩のみに手の砲身があるタイプだ。
一門だけのため、連射能力は落ちてしまう。
だが、こちらの方が照準を合わせやすく、脳のコストも少し下がる。
空中に浮き上がり、まだ滞空しているアズールに照準を合わせようとしたその時。
『マスター!強力な魔法攻撃が来ます!!』
アカシャの鋭い警告が脳裏に響いた。
「なにっ!?」
見上げると、空中にいるアズールの両手が、不自然なほど赤く膨れ上がった炎に包まれていた。
すでに直径数メートルはあろうかという巨大な火球が、今まさに打ち出される寸前だった。
「向こうの魔法発動の方が早い!」
俺は砲撃をキャンセルし、即座に防御態勢へと移行した。
アズールが両腕を振り下ろす。
同時に、巨大な二つの火球が、とんでもないスピードで一直線に俺へと向かって放たれた。
まるで太陽が落ちてくるかのような、圧倒的な質量と熱量だ。
空気を焼き焦がすような熱波まで襲ってきた。
「この…!」
俺はとっさに、錬成したゴーレム達を目の前に移動させた。
同時に、大きく後方へとステップバックする。
ボンッ!!ボンッ!!!
着弾と同時に、凄まじい爆炎が戦場を包み込んだ。
俺が作り出したゴーレムが、一瞬にして真っ赤な炎に飲み込まれる。
「うおっ!あっつ!!」
パワードスーツ化している俺のマッド・ゴーレムの装甲にまで、ジリジリとした熱さが伝わり始めた。
周囲の空気が一気に膨張し、息を吸うだけで喉が焼け焦げそうになる。
ここにいたら窯焼きにされる!
俺はさらに後方へと飛び退きながら、炎の向こう側を凝視した。
土で作られたはずの二体のゴーレムが、ドロドロに溶け、形を崩していくのが見えた。
「あいつ……!やっぱり火力が、以前戦った普通の個体より格段に高いぞ!」
まだ奴の固有スキルである【炎神化】すら発動していない。
それなのに、高密度に圧縮した俺のマッド・ゴーレムが、まるで蝋燭のように完全に溶け崩れるなんて…。
負荷は大きいが、マッド・ゴーレムを最大強化しないとまずいな。
ヘタをしたら攻撃もできずに、一瞬で破壊される可能性もある。
土煙と炎の向こう側。
態勢を立て直す俺に向かい、ドスン、ドスンと重い足音を立てて、アズールが姿を現した。
その顔は、先ほどまでの余裕ぶった笑みから一転、わかりやすいほど怒りに歪んでいた。
鼻息を荒くし、鋭い牙を剥き出しにしている。
「ずいぶんとお怒りのようで」
俺はあえて、挑発するように大声を張り上げた。
「自分より遥かに格下だと思っていたちっぽけな人間に、一杯食わされたことがそんなに悔しいかよ!」
わざと口角を上げ、見下すような視線を送る。
それを見たアズールの顔が、さらに凶悪に歪んだ。
知能が高い分、プライドも異常に高いのだろう。
俺の作戦と挑発は見事に刺さったようだ。
アズールはハイオークの死体に開いた穴に目を落とす。
そして、顔を歪めながら蹴り飛ばした。
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次回、第102話は【蒼い炎】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




