第100話:サラマンダー・エイプ・アズール
『外見からも分かるように、その可能性が極めて高いです』
アカシャの落ち着いた声が脳内に響く。
そうなると、俺の知っているサラマンダー・エイプの『炎神化』という固有スキル以外にも、何か別の恐ろしい能力を持ってる可能性が高そうだ。
奴が一歩近づくたびに、俺の【危険察知】は「今すぐ逃げろ」と言わんばかりに心を不安にさせてくる。
「ふぅぅぅ……っ」
俺は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
久々の、死を身近に感じるヒリつくような感覚。
だが、あの『グラトニー・グリフォン』や、『スライム・アバドン』ほどの絶対的な絶望感はない。
やれる。
一度戦っている相手だ。
今の俺なら、戦える。
『解析を完了しました』
アカシャが情報を送ってくれた。
【対象】:サラマンダー・エイプ・アズール
【レベル】:141
【スキル】:炎神化、ドミナント、直感
「うわっ!スキル三つ持ちかよ!」
俺以外の存在で、スキルを三つも持っているやつなんて初めて見たぞ!
「で、その『ドミナント』ってスキルは、もしかして……」
『はい。「強制同調」とでも呼ぶべき、極めて強力な精神支配スキルです。指揮官として異種の群れ全体を完全にコントロールしているようです』
「やっぱりあいつが元凶かよ!」
だとしたら、話は早い。
あいつを叩き潰せば、この不気味な連携は崩壊し、スタンピードの統率が失われる可能性が高い。
烏合の衆に戻れば、防衛できる確率はグンと上がる。
だが。
レベル差50以上のバケモノを相手にしながら、周囲の魔物をゴーレムで抑え込み続けるなんて器用な真似ができるほど、俺は万能じゃない。
どうしても、ボスとの一騎討ちに全神経を集中させる必要がある。
しかし、俺が戦線維持のゴーレムを解いてしまえば、当然残った魔物達が一斉に町の方へと進軍を開始するのは目に見えていた。
『マスター』
アカシャが、俺の葛藤を察したように静かに問いかけてくる。
「アカシャ。今、この前線に残っている上位の魔物はあとどれくらいいる?」
『およそ五百体ほどです』
五百体か。
俺がこのままチマチマと戦えば、倒せない数じゃない。
だが。
ここはいろんな意味で、後ろの町の部隊に「任せる」方法をとらせてもらおう。
「アカシャ。まずは今前線で壁になっているゴーレムを全部解除してくれ」
『……よろしいのですか?』
「ああ。今まで異常な数で戦線を維持していたゴーレムが一気に崩れれば、後ろで見ている冒険者たちからは、俺がとうとう『魔力切れを起こした』ように見えるはずだ」
ラマ・アガールを利用したように見せかけた動きと噛み合わせれば、俺の能力に対する言い訳にもなる。
『了解しました。全ゴーレム、錬成を解除します』
今まで鉄壁の防御を誇っていた数千のゴーレム達が、一斉に形を崩した。
ただの土塊となって地面に崩れ落ちていく。
突然目の前の障害物が消え去り、魔物達が一瞬ポカンとしたように動きを止めた。
「残った魔物全員の顔にカーボニック・ゴーレムを生成。同時にタクティカル・シェルで顔の周囲を密閉して」
『実行します』
魔物たちの頭部が透明な球体に包まれていく。
窒素による即死ではなく、あえて二酸化炭素を選んだのには理由がある。
「町まではここから走って十分程度の距離だ。奴らが町に到着する頃には、強烈な二酸化炭素中毒で、まともに立っていられないほど具合が悪くなっているはずだ」
そこまで弱体化した状態なら、町に残っている冒険者達の連携で問題なく倒せるだろう。
同時に、五百体の魔物が押し寄せるんだ。
冒険者達は目の前の戦闘に集中せざるを得なくなる。
遠く離れたこの場所で俺が何をやっているのかなんて、見る余裕は無くなるはずだ。
「その間に、俺はあの赤猿を全力で叩き潰す!」
ゴーレムの戦線維持に使っていた膨大なリソース。
俺はその全てをサラマンダー・エイプ・アズールとの戦闘へと回した。
余裕のできた脳内で、戦術のイメージを組み上げる。
とうとう、やつの顔がはっきりと見える距離まで迫ってきた。
見上げるほどの巨体。
弱者である人間を、これから徹底的に蹂躙してやる——
その顔には、そんな嗜虐性に満ちた醜悪な笑みが浮かんでいた。
「姿が変わっても、人間を小馬鹿にするその態度は変わってないんだな」
俺はニヤリと笑い返した。
「アカシャ、やるぞ!」
『はい、マスター』
俺の体に、足元から分厚い土の装甲が這い上がってくる。
『マッド・ゴーレム』を自身の体に纏わせた、パワードスーツ化。
さらに、分厚く強化された俺の両肩部分が更に変化していく。
巨大な『手』の形をした対空砲の砲身が、前方の赤猿へ向けて突き出された。
俺は砲身を抱え、片膝を着く。
狙いは、奴のどてっ腹だ。
「前と同じように、まずは手厚い歓迎の先手砲撃をお見舞いしてやるよ!」
砲身の内部で、エア・ゴーレムが限界まで圧縮される。
そして、マッド・ゴーレムの弾丸が装填された。
「くらえよ、クソ猿!!」
俺が叫ぶと同時に。
バァァァァァァァァァンッッ!!!!
戦場を揺るがす強烈な炸裂音が鳴り響いた。
俺の両肩から音速の弾丸がサラマンダー・エイプ・アズールに向けて放たれた。
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次回、第101話は【砲撃の攻防】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




