第99話:スタンピードの最強個体
頭の中を無数の針で突き刺されるような、鋭い痛みが連続で襲ってくる。
その度に意識が飛びそうになった。
「ぐぅっ……!!」
歯を食いしばる。
およそ千体のゴーレムへの地上戦の指示に加え、対空砲のエイム、発射、再装填。
アカシャが完璧にサポートしてくれているとはいえ、処理するための脳のリソース消費は想像を絶した。
もし一人でやっていたら、一瞬で脳の血管が焼き切れたんじゃないか、これ…。
アカシャがいてくれて、本当に助かったぜ……!
乾いた砲撃音が鳴り響くたびに、上空の影が確実に減っていく。
だが、連続発射による代償も大きかった。
ゴーレム達の土の砲身が、内部の摩擦熱と圧力によって徐々に赤熱し始めている。
砲口の周辺からは、陽炎がゆらゆらと立ち上っていた。
「アカシャ!弾にする土は足りそうか?」
『弾丸のリソースは問題ありません。それよりも、熱と圧力の限界により、おそらくあと三十〜四十発ほどで全ての砲身が崩壊します』
「……!」
見れば、すでに数体のゴーレムの砲身が、ボロボロと乾燥した砂のように崩れ落ちていた。
地上戦もギリギリの状態で拮抗している。
その上での飛行系の魔物の強襲。
ゴーレムの戦列がだいぶ乱れ始めていた。
このままだと、地上と空中、両方を抜かれるぞ……!
砲身を再生させるか?
『推奨しません。現状、地上戦の維持を優先させた方がいいと推測します』
「わかった。方針は再生せずそのままだ!現存するゴーレムの対空砲が壊れるまで、できるだけ飛行系の魔物の数を減らしてくれ!」
『了解しました』
その時だった。
魔物が、上昇した!?
生き残っていた飛行系の魔物たちが、まるで示し合わせたかのように一気に上空へと飛び上がっている。
『ゴーレムの対空砲の射程外に出ようとしています』
「くそっ!」
予想より早く、標的を「町」に切り替えられた!
俺を標的にしてくれた方が、まだ対応できたのに!
『およそ二百匹ほどの飛行魔物が戦線を突破しました。また、スカイ・マンタ数十匹の背中に、ハイ・オークやトロル、ギガントロプス等が騎乗しているのを確認』
「マジかよ!ここへ来て空挺部隊みたいな連携までしてくるのか!」
どうする?
後方の町を守るために、飛行部隊の迎撃を優先すべきか!?
……いや、ダメだ。
今ここで俺が対空にリソースを割けば、目の前の地上戦線が崩壊する。
そうなれば、更に数の多い地上の魔物が雪崩を打って町へ押し寄せることになる。
これ以上、この戦線を下げるわけにはいかない!
「そっちは任せましたよ!」
俺は突破された上空から視線を切った。
戦線はゴーレムを増やせない分、だいぶ敵に押されつつある。
だが、ナイトロ・ゴーレム作戦の展開で、確実に敵の数を減らしている。
いける。
このまま削り切れる!
そう思った、次の瞬間だった。
ゾワァァァァッ……!!
全身の毛穴という毛穴が逆立ち、心臓が氷の手で鷲掴みにされたような感覚。
【危険察知】が、とうとう「何か」を捉えてけたたましく俺の心を掻きむしる。
「アカシャ!俺の危険察知が狂ったように騒ぎ始めた!」
『今回のスタンピードにおける、最強の個体が接近しています。おそらく、その個体がこの異常な連携をまとめている『指揮官』と思われます』
「詳しい情報はまだわからないのか?」
『もう少し時間をください。……どうやら、特殊個体なのは間違いないようです』
「特殊個体!?」
勘弁してくれよ……。
せめて、今の俺の手札で倒せる相手であってほしいと心から願うよ!
前線を維持して魔物を処理するたびに、強くなる危険察知のシグナル。
押しつぶされるようなプレッシャー。
あのバイオレットホーン・ラビットと同レベルか、それ以上だ。
そしてとうとう、土煙の向こうの地平線から、その魔物の巨大な影が姿を現した。
ハイ・オークやトロルといった大型魔物よりも、さらに二回りほど巨大な二足歩行のシルエット。
燃え盛る炎のような特徴的な赤毛。
『マスター』
「……ああ、わかってる」
俺は乾いた唇を舐め、短く返事をした。
アカシャに解析結果を言われなくても、認識できたからだ。
あれは――『サラマンダー・エイプ』だ。
全身の毛を高熱化させて襲いかかってくる、凶暴な猿の魔物。
知能が高く、人間を小馬鹿にするような狡猾さを持つ厄介な魔物だ。
なるほど、あれだけ知恵が回るやつなら、群れをある程度統率できるのも納得がいく。
だが、種類が全く違う魔物同士だぞ?
それをここまで完璧に連携させるなんて、やつに可能なことなのか?
「……いや、何か、おかしいぞ?」
目を凝らす。
俺の記憶の中にあるサラマンダー・エイプと、一致しない。
そうだ、デカすぎる。
俺が知っているサラマンダー・エイプより、体が二回り、いや三回りほど巨大化している。
そして体毛。
戦った時のやつは、炎のような体毛一色で覆われていたはずだ。
ところが、今回のやつは不気味な青い紋様のようなものが浮かび上がり、脈打つように明滅している。
「あいつが……特殊個体なのか!?」
俺の危険察知が、さらに強く反応し始めた。
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次回、第100話は【サラマンダー・エイプ・アズール】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




