第2話:詠唱言語
教室に入ると一気にこちらに視線が集まった。
入る教室間違えていないよな?
そんな一抹の不安がちらつくが、間違っていないはずだ。
「あの...おはようございます。」
か細い声であいさつをした。
......返事はなかった。
自分の席に着くと、ちょうど先生が教室に入ってきた。
ぎりぎりだったようだ。
「出席をとるよ~」
先生の緩い声が教室に響いた。
一人一人の名前がゆっくりと呼ばれていく。
「最後に、リュカ。」
「ハイ。」
返事をする。
「みんないるね~、うんうん。連休明け初日にサボるアタオカ生徒がいなくてよかったよ~」
「口悪いな。」
ポロっと口から日本語の突っ込みが漏れた。
すると先生はうれしそうな顔をして、返事をした。
「おお!!リュカクン二ホンゴのハツオンまたじょうずになってるねっ!!レンキュウのトキもフクシュウしてたのかな?さすがリュカだな~」
片言の日本語で。
「みんなも英語まで必修科目だからちゃんとリュカ君みたいに復習するように」
「「「はーい」」」
みんなが元気に返事をした。先生は今度はこちらの言葉で話した。
「それじゃあ魔術詠唱の授業に入るよ~」
授業が開始した。
***
「魔術の行使にはいくつかの方法があります。最も使われているのは詠唱魔術です。この学園では詠唱魔術を中心に指導するので~魔法陣に関する学術を修めたい人は今すぐ退学するように~」
魔術に関する雑談の後本格的な理論的な話に入ってきた。
「魔法は式を実行する、いわば算学です。魔術式を正しく記述、詠唱をしたら式の通りの事象を術者の魔力を対価に世界に現す、そんなものです。」
みんなノートに丁寧な文字で書きこむ。この教室の生徒はみんな優等生のようだ。
俺はこれが古文の授業なら寝ているのだろうが、魔法の授業という受けたことのない面白い授業なので、眠気は一向に来なかった。
「魔術の詠唱に使うのが、さっきリュイ君が使っていた日本語などの異世界の言語です。異世界の言語が最も世界の魔力に効率的に干渉できるという論文が出ているのは皆さん前回の授業で話したのは覚えていますね?」
異世界の言語が詠唱言語、それも日本語とは、これは辞書なんて持ってきたらチートなのでは?
そんなしょうもないことを考えていたら、先生がこちらを向く。
日本での癖でビクッとすると、先生は口を開く。
「では、ここでこのクラス随一の天才様にお手本を見せてもらいましょう。」
黒板の前まで歩くと、先生は口を開く。
香水の匂いがきつい。こいつ、汗の匂いを香水で誤魔化してやがる。
若いくせに、生意気な。
「それではリュイ君、火の玉をここに生成してみてください。」
「え?、ああ、ハイ。」
「防火の結界を貼っているので本気でやっていただいてもかまいませんよ。」
深呼吸する。
火の玉、火球をここに生成する。
先生の話だと、長文だと魔力効率が良くなり、複雑な言葉遣いをすると魔法の威力が高くなる。
確かこうだ。そこで俺がするべきな詠唱は、
「行きます。」
「やってみなさい。」
『地獄の業火よ、我が魔力を糧に、火球としてここに顕現し、我が敵を裁け、』
自分の持てる限りの語彙力を使い、詠唱を完了すると、目の前に紫色の禍々しい火球が浮いていた。
そして、数学の答えに下線を引くように、魔法を発動させる。
『地獄ノ火球』
頭の中に浮かんだ魔法の名前を唱えると、弾丸のごとく、火球は直線状に進み、結界に着弾すると、爆発した。
「前よりも数倍強くなっていますね~、先生、こんなにすごいとは思っていませんでしたよ。もういっそのことリュイ君が授業したほうがいい気がします~」
「いえいえ、自分が知っている言葉をつなげただけなので、先生の教え方がいいんですよ。」
「そういわれると嬉しいですね、先生ハッスルしちゃいますよ~~~」
なんて、へらへらとしているが、顔を見ると、目は笑っていなかった。
化け物でも見るような眼だ。
俺は自分の席にもどる。
周りの生徒は茫然としていた。
ただただ、黒板前の、俺が立っていた位置をじっと見つめていた。
......よく見ると、結界にヒビが入っていた。




