帰還と報告
ヴィンズと戦った翌日、捕虜を護送するための部隊が予定通りに到着した。
「ゲイン兄さん!」
レイスル王国騎士団参謀部所属のゲイン兄さんが部隊を率いて現れた。
「ウォルフ、大変だったみたいだな!」
「かなり……ね」
「何かあったのか?」
これから王城で起こることは、スヴェイン伯爵家をも捲き込みかねないので、事前の報告を兼ねた説明をする。
「……ってことで、一悶着あるかも」
ゲイン兄さんは呆れた表情になっている。
この呆れの対象は俺なのか、アルフレッド殿下なのか?
「勿論、アルフレッド殿下にだ!」
ですよね。
「演習ではないのだぞ!」
自身が関与しない実戦に口を挟み、その場で命を懸ける軍兵の危険度を上げる。
参謀部として、仲間を死地に送り込まなければならない立場のゲイン兄さんが怒らない筈がない。
「なら、ゲインも一口噛みませんか?」
黒いオーラを纏ったホリーが囁く……
黒い笑いで繋がれた三人の悪魔が誕生した瞬間であった。
投降したラスガカーン帝国正規軍の兵達に対する儀礼的な配慮を含めて派遣された、レイスル王国騎士団の精鋭は手際良くグリッドの商隊を含む撤退準備を完了させた。
「撤収!」
護送部隊副官の号令と共に俺達の撤収は始まった。
その隊列の中央部では、馬を降りて俺達と並び歩く指揮官ゲインの姿があったが、三人が放つ黒いオーラと不気味な笑いを恐れ、誰も近寄って来ようとはしなかった。
それから四日後、レイスル王国王城の会議室には国王陛下、王太子殿下、近衛師団長、軍事顧問、魔導師団長、宰相、第一騎士団長、諜報部隊総隊長、クラン【黒狼】の面々が揃っていた……
ぶっちゃけると、国王親子とスヴェイン親子、リーヴァル一家とその親族である宰相、そしてグリッドと俺達だ。
青い顔のグリッドと……俺が報告をする。
「陛下の御下命により、私ウォルフはラスガカーン帝国軍への補給に訪れたエルフの捕縛を試みましたが、結果的に任務失敗、当のエルフを取り逃がしました。この失態の責任は自分と原因を作った者で取らせて頂きたく……」
「フム、何か問題が起こったか?」
「ウォルフ、貴様はグラティアス様の祝福を受けたと豪語しておきながら、エルフ一人も捕らえられんのか!?」
落ち着いて報告を受けようとされている国王陛下に続けて、自身の策が上手くいかなかったことを知った獲も……アルフレッド殿下が喰いついて来た。
「申し訳ございません。作戦の徹底が行き届かず、不首尾な結果となりました。作戦に支障をきたす原因を作った者を勝手に罰する訳にもいかず、その者は未だ罰されることなく……安穏としておりますが……どのように処罰を?」
「国家の命運を賭けた作戦を台無しにしたのだ。その者は死をもって償うべきであろう!」
「それで宜しいので?」
参謀部のゲイン兄さんが殿下に確認する。
「当たり前だ!この命令は絶対である!!」
「「「御言葉……頂きましたー!!」」」
突如、黒い笑みで立ち上がる俺達三人。
「残念ですわ、アル兄様。これも軍令……御覚悟を!」
ホリーが魔力の矢を十本形成し、アルフレッド殿下に向けて放ったが、それを隣に座っていたエリー様が障壁で防ぐ。
「クラウディア、乱心しましたか!?」
「先程、アル兄様ご本人が宣言された懲罰を実行しているだけですわ?」
「ウォルフ、お前は何を!?」
「父上、ウォルフは殿下の命令を実行しているに過ぎません。軍規に於いても、『私情を持って自軍を危機に陥れる者は死罪に処す』と決められております。例え王族と云えど、軍規を曲げることを軍事顧問が認めるとでも?」
ゲイン兄さんが父を牽制する。
「残念ですよ、殿下」
そう言った俺は背後を埋め尽くす魔力の矢を顕現させる。
「私が何をしたと言うのだ!」
「グリッド本人を前に、それを誤魔化そうとでも?」
泣き出しそうな表情のグリッドを見たアルフレッド殿下は全てを悟った様だ。
「そっ……それは……」
「あの場にいた将兵、殿下の依頼を受け国家に尽くそうとしていたクラン、投降したラスガカーン帝国軍兵、その全てを生命の危機に陥れたのです。俺はレイスル王国その物を敵に回そうが、笑って流すつもりはありませんよ……」
「まっ、待ってくれ!!」
国王陛下が声を上げた。
「君達の怒りと正統性は、事後に派遣されたゲインが同調していることが証明している。そこを疑うつもりはない、何があったか説明してくれ!」
実は……父にはゲイン兄さん、エリー様にはホリーが計画を前もって説明してくれていたのだ。
本気でアルフレッド殿下の命を狙うつもりはない。
しかし、軍を預かる者としての覚悟が足りないアルフレッド殿下を諌めるために協力してくれと頼んでおいたのだ。
アルフレッド殿下の行為は軍を預かる者として不適切と判断した二人は、納得がいった訳ではないが、国家の今後のためと協力してくれることになった。
エリー様の笑みが黒かったのは気のせいだろう……
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