指揮権
グゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
大地が震える中、俺は傘の型に絶対零度の障壁を展開し続ける。
上への圧力を止めた時、その運動エネルギーが向く方向を下に向けるためだ。
それも、全ては噴出しようとするマグマの勢いを正面から止めることが出来ることが条件となる。
「ウォルフさん、一体何が!?」
直ぐ側まで来たグリッドが聞いて来るが、それに構っている余裕はない。
俺は魔力の全てを出し尽くすつもりで次々と絶対零度の障壁を展開し続けた……
ゴガガガガガガガガガガ…………
障壁に到達したマグマを止めたことで行き場を失したエネルギーが更に大地を震わせる。
絶対零度で急激に冷やされたマグマが出す水蒸気が地面を突き破って噴出し、その爆発的な力が土砂を空へと巻き上げる様は地獄が顕現したかの様だった。
「ウォルフ様、何処ですか!?」
「ウォルフー!?」
「ウォルフさーん!?」
ホリー達が呼ぶ声が聞こえる。
みんな無事だったみたいだな……
返事をしたいが、今の俺は魔力欠乏症で動くことが非常に困難な状態だ……
かろうじて意識があるっていう状態の俺は、声を出すことも出来ずにホリー達を待った。
「ウォルフ様!お怪我は!?」
魔力探索で俺とグリッド達を発見したホリーが真っ先に駆けつけて来た。
物凄い勢いで駆け出したホリーを追いかけて、クリス次いでマーク達も合流してくる。
「説明したいところだけど、魔力欠乏症で死ぬほど気分が悪い。少し待って貰えるか?」
それだけ伝えるのが精一杯の俺を、仮駐屯地へとマーク達が運んでくれた。
「何故、あそこで介入しようとした!?」
時間をおいて回復した俺は、追い詰めたヴィンズに反撃の機会を与えたグリッドを追及していた。
「まっ、まさか……あれほどの魔法を使うとは……」
青い顔のグリッドが答える。
「集積所の惨状を見ていたにもかかわらず、あそこで自分が関与出来るとでも判断したってのか?」
「ウォルフ、少し落ち着け……」
「全員を捲き込みかねない事態を引き起こしたんだぞ、曖昧にして良い問題じゃない!」
「それは、そうですけど……」
「ウォルフ、あなたが冷静になるのが先よ」
「……」
ホリー以外は俺を止めようとしているが、これはレイスル王国の軍事の問題だ。
国王陛下から指揮権を与えられた俺の指示に従わず、勝手に介入しようとしたグリッドを擁護する必要はない。
見方によれば反逆罪にも該当する越権なのだから。
「返す言葉もありません……」
「俺と対峙していたから、大規模な魔法を使う余裕がなかっただけで、奴らがその気になれば人間の軍隊なんて簡単に殲滅出来るんだぞ!」
「エルフの魔法が……ここまでの物だとは思ってもいませんでした。私の失態です」
平身低頭のグリッドだが、普段のグリッドを見ていると、こんな判断ミスをするとは思えない……
「グリッド、もしかしてアル兄様から『必ずエルフを生け捕りにして来い』とでも命令されましたか?」
「……」
ホリーの問いに答えないグリッド。
それは、ホリーの予想が当たっているってことだ。
「ウォルフ様、私達が戻って来てから捕縛作戦の開始までの間に密使が届いてたみたいですわね」
ホリーが確信を口にすると、グリッドは黙って項垂れた。
「エルフを捕縛出来ると考えてたのか?」
「それは……ウォルフさんが無力化するだろうと……」
「捕縛した後、エルフの魔法をどうやって封じ込めるつもりだったんだ?」
「それも、ウォルフさんに任せろと……」
クソボンボンが!
俺の力をあてにした作戦を、俺に伝えることなく……利用するってどういうつもりだ!
「ウォルフ様、お怒りはごもっともですが、相手が相手ですので手段は一緒に考えましょう」
俺とホリーの黒い笑みの意味するところを察したクリス達は諦めの表情を、グリッドは更に青い顔をしていた。
俺の戦闘力を目の当たりにした後だ。
本気で怒った俺を止められる存在なんて限られることを理解しているのだろう。
その上、魔導師団長の地位を放り投げて逐電したホリーが一緒だから、一緒に他国へ逐電なんて心配でもしているのかもしれないな……
「あまり……アルを追い詰めないで頂けると」
「「クックックックックックッ……」」
グリッドの嘆願を無視して、更に黒い笑みを交わし合う俺とホリー……
「諦めた方が良いですよ……」
クリスの慰めにマークとユリアが続く。
「殿下も面倒な二人に喧嘩を売ったもんだ……」
「こういう時って本当に気が合うのよね……この二人は」
明日になれば、捕虜を護送するために派遣される部隊が到着するだろう。
ラスガカーン帝国の工作を頓挫させたことは間違いないので、俺達も一緒に帰還して報告しないとな……
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