逃走
ヴィンズの左腕から血が吹き出す。
直ぐに戦闘不能とまではいかないが、このまま放置すれば時間の問題だろう……
「グッ……クゥッ……」
ヴィンズ自身が回復魔法で傷を治すことは簡単だろう。
しかし、現状では不可能に近い。
回復魔法を使い傷を治療するなら、それは俺に対し決定的な隙をみせることになるのだから。
「降伏しろ!!」
「!?」
グリッド!?
何故、ここにいる!
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時は少し遡る……
「グリッドさん、皆さんの避難を!」
「マーク、帝国兵を纏めて退避させて!」
「諜報員が居ては、ウォルフ様の邪魔になります。お仕事の内に味方の邪魔は含まれませんですわよ!」
いきなり吹き飛んだ物資集積用の天幕。
それは、ウォルフとエルフの戦いの激しさ、その規模を四人が理解するには十分な事態であった。
ウォルフの期待通りに周囲の人間を退避させて、ウォルフが周囲を気にせず戦える状況を造る四人。
緊急事態が起こった時、軍の人間は自分が何をするべきかを叩き込まれていることもあって、集積所内にいた人間は素早く集積所の外へと避難していた。
「各員、仲間の所在を確認しろ!」
グリッドの指示に従い諜報部隊員、元帝国兵の人数確認が行われる。
マーク達四人は近付き過ぎない位置から、ウォルフの援護に飛び出せる様に待機していた。
「グリッド様、ブラウが見当たりません!」
部下の一人がいないと報告を受けるグリッド。
「ブラウの配置は何処だった!?」
「吹き飛んだ天幕を挟んで……グリッド様の真裏の側に配置されていました」
ブラウはグリッドが信頼している部下の一人だった。
そのために、天幕近くに配置されていたのである。
「私が見に行く、お前達はここで待機!」
「お待ちを!」
「隊長が行く状況ではありません。ここは我々が!」
ブラウは、天幕が吹き飛んだ時に巻き込まれた可能性が高いと判断したグリッドは部下の救出を即断した。
その救出現場はウォルフとエルフの戦いの中心地である。
当然、命懸けの救出になるが、その様な危険な場所に部下が取り残されていると考えたグリッドに迷いは無かった。
「部下達を危険に侵させて自らは安全な後方にいる。その様な人間は我が部隊に必要ない。……ここは私の仕事だ!」
隊長自ら危険な場所に踏み込むことを止めようとする部下達を一括したグリッドは駆け出した。
ウォルフとエルフの戦いを注視している【黒狼】の面々が気付かない隠密技術で天幕跡を目指すグリッド。
一流の冒険者であり、国内有数の剣士でもあるマーク達だが、ウォルフを援護するタイミングを計り、その戦いを注視している。
隠密技術に優れたグリッドの存在に気付けなかったのは仕方のないことだろう……
爆煙と衝撃波で荒れ狂う戦場を駆けるグリッドは、物資集積用天幕跡近くで倒れているブラウを発見した。
頭から血を流し倒れているブラウは気を失っているが生きていた。
ブラウを肩に担いだグリッドは脱出経路を探して辺りを見回す。
そこで眼に入ったのはエルフに深手を負わせるウォルフの一撃だった。
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「投降するなら命は保証する!」
部下であろう男を抱えたグリッドがヴィンズに叫ぶ。
それを見たヴィンズの口元が歪む……いや、笑った?
「地に潜む大地の血脈よ、我が求めに応じ大地の穢れを焼き払え!!」
俺の注意がグリッドに向いた瞬間を狙ったヴィンズの詠唱が大地を震わせる。
地面の下からとてつもなく大きな驚異が来ると、俺の本能が警鐘を鳴らす。
「裏切者共々、焼き尽くされるがいい!」
狂喜としか表現仕様のない表情で叫ぶヴィンズ……
不味い!
この魔法の規模は周辺まで被害が出る!
俺は地面に手をつき魔力を集中する。
「防げるものなら、防いでみるがいい!」
捨て台詞を残したヴィンズがラスガカーン帝国の方角へと走り去る。
それを阻止している暇はない。
「ホリー、帝国兵を連れて直ぐに離れろ!」
最悪の場合、ホリーの結界が帝国兵を含む味方を救う最後の手段になるだろう。
「グリッド、こっちに来い!」
危険極まりないが、グリッド達が離脱出来る時間はない。
俺と運命を共にして貰う、それ以外に助かる可能性はないだろう。
俺は地面に向かい障壁を多重展開させる。
全ての結界に絶対零度の魔法を付与させてだ……
「これだけで抑え込めるか?」
地表に向かい迫るマグマの温度を絶対零度の障壁で冷やすことで、冷えて固まったマグマ自体を壁にする。
出口を塞ぐ型になるので、噴出しようとする力が俺の予想以上だと俺が張った障壁の外に向かいマグマは流れを変えてしまう可能性を捨てきれない。
そう考えた俺は、更に絶対零度の障壁を展開させてマグマの流れを囲む形を作った。
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