暗躍するエルフ達
ラスガカーン帝国軍兵用の天幕の中……
『来たぞ!』
『なんて……禍々しい気配』
『ウォルフ様……直ぐに援護に向かいますわ』
『ウォルフさんの合図があるまでは動いちゃ駄目ですよ』
俺の待つ天幕に、禍々しい魔力を放ちながらエルフが近づいて来る。
この魔力はローレンスの記憶にある『ヴィンズ』というエルフに近いが、ここまで禍々しい魔力ではなかった筈だ。
この千年の間、魔法を研鑽して戦力増強を図っていたのはローレンスだけじゃなくて当たり前だよな……
しかし、この禍々しさは……
『いつもの様に、こちらに物資をお願いします』
案内の帝国兵の声……
天幕の中、残り少ない物資の陰で俺は結界を張り息を潜める。
バサッ
天幕の入り口を開けて入って来たのは、千年前と同じ姿のヴィンズで間違いない!
ドゥニームもだったが、何故こいつらは老けてない?
その上、魔力も禍々しく増強されている。
「貴様、これはどういうことだ?」
俺の存在に気づいたヴィンズが、案内役の帝国兵に問いかける。
しかし、俺の方から視線を外せないヴィンズの隙をついて案内役の兵は天幕の外へ逃げ出した。
「ヴィンズ、ローレンスという男を覚えているか?」
「ローレンス?」
「貴様達に利用されたダークエルフだよ!」
俺はヴィンズの正面に跳び出し剣を構えながら、ヴィンズの背後から魔力の矢を数百本撃ち込む。
「ほう、人間にしては大した魔力だな」
爆煙の中からヴィンズが姿を現す。
障壁や結界で防いだ訳ではない。
魔力の矢が穿っているのはヴィンズの正面だ。
俺が放った魔力の矢がヴィンズの身体をすり抜けた?
俺は……これと同じことを経験している。
リッチが使っていた魔法転送結界と同じものか?
「リッチの結界と同じものを使えるのか……」
「リッチだと?」
「数ヶ月前にレイスル王国のダンジョンで氾濫を興そうとしたから、俺が討伐したんだよ」
「貴様か、我々の邪魔をしたのは!」
「我々の邪魔だと!?」
「あの醜い不死者に魔法転送結界を仕込んでレイスル王国へ撹乱のために送り込んだが、全く役に立たなかったのは貴様が原因か!?」
リッチの一件も、こいつらが関わっていたのか?
ラスガカーン帝国に協力して、レイスル王国や周辺国に工作をしていたというのか?
「ドゥニームもお前達が送り込んだのか?」
「懐かしい名だな。あの貧弱な力しか持たなかった輩はどうしていたのだ?」
「奴も俺が討伐した。次は貴様の番だ」
ドゥニームは予想通り、ヴェレダ達とは袂を分かっていたみたいだな。
しかし、あれだけ危険な魔法を使っていたドゥニームのことを貧弱と言うヴィンズの力は警戒しないといけないな。
スキル【大賢者】を発動した俺は、最大限の身体強化を施した状態でヴィンズに斬りかかった。
袈裟斬りで振るった俺の剣をヴィンズの剣が受け止める。
二つの剣がぶつかる衝撃波で天幕が破れて吹き飛んだ。
「ウォルフ!」
「離れてろ、こいつは俺と同等の力がある!」
俺は駆け付けようとするマーク達を止めて、ヴィンズと対峙する。
幸い、マーク達に手を出そうとすれば、その隙を俺が突くことを理解しているヴィンズは周囲に手を出すことが出来なかったみたいだ。
「貴様、人間ではなかったのか?」
「俺は人間だよ、ローレンスの魔力と記憶を引き継いだ!」
天幕が吹き飛んで、グリッド達諜報員の眼がある以上、リッチを討伐した時の様に時間停止を使う訳にはいかない。
何より、俺の最速の剣をヴィンズは受け止めた。
時間停止を付与した剣で結界を斬り裂くことも容易ではないってことだ……
魔法を転送して無効化するなら、衝撃波そのもので斬るまでだと考えた俺は光刃斬を放つ。
この奥義なら、ヴィンズが剣で受け止めたところを衝撃波が襲うと思っていたが……
ヴィンズの結界は、光刃斬の衝撃波をも防いだ!
「なんという威力だ。少し危なかったぞ!」
リッチの結界と違って、物理攻撃も防ぐのか?
「フハハハハッ、あの不死者が使っていた結界と同じ程度のものを使うとでも考えたか?」
俺の驚いた表情を見たヴィンズが、高笑いしながら斬りかかって来る。
速い!
そして、とてつもなく重い剣擊を俺はかろうじて防ぎ続ける。
グラディアス様の祝福を受けた、俺のスキル【大賢者】と同等の力だと?
グラディアス様が言ってた『今のままでは勝てない』ってのは、こういう意味だったのか。
『魔術でヴィンズの攻勢を止めることは出来ない。なら、純粋にスヴェインの剣術でしのぐまでだ!』
そう考えた俺は、周囲への配慮を頭から振り切って剣に集中することにした。
『マーク達なら、グリッド達をこの場から退避させてくれてるだろう』
仲間を信頼して、俺は俺の役割を果たす!
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