○○捕縛作戦
コーラル王国の街道傍で待機していたグリッドの商隊と合流した俺とホリーは、レイスル王国上層部の決定を伝える。
「エルフの動きを待って『捕縛』、それが不可能な場合は『討伐』すること。捕虜の安全の確保は保証する。そのための護送部隊を派遣して下さる。これが決定した」
「アルの性格なら『諜報部隊を派遣する』って言い出しそうなところを、よく実務的な判断で終わりましたね」
幼少の頃からアルフレッド殿下の御学友を勤めて来たグリッドは、殿下の性格を把握しているな……
「ウォルフ様、大事なことが抜けてますわよ!」
「他に何かあったか?」
「叔母様とスヴェイン伯爵を証人として、私とクリスさんがウォルフ様に嫁ぐことが決まりましたの!」
「決まってねえ!!」
「あらっ、ウォルフ様は叔母様とお父上様でいらっしゃるスヴェイン伯爵に逆らえますの?」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……」
「ウォルフさん、本当ですか!?」
クリスまで何を言ってるんだ!
今は作戦行動に入るための時間だぞ!
そういった話がエリー様から出たということを伝えてその場の空気を変えようとしたが、上気したホリーとクリスのテンションが落ち着くまでにかなりの時間を要した。
「ラスガカーン帝国軍の物資の集積所は確認しています。そこで待ち受けるのが一番でしょう」
「八十人全員がいる必要はないけど、余りに人数が少ないと警戒されるだろう?」
「ウォルフ、その辺りはグリッド殿が捕虜の内から協力者を選んでいるぞ」
諜報部隊を率いているグリッドと、近衛師団の部隊長を勤めたマークとユリアが残ってただけあって、大まかな作戦準備は既に完了していた様だった。
「それで、どの様に捕縛するつもりですか?」
グリッドが作戦の骨子を聞いて来る。
「物資を置く予定の天幕の中で待ち受けるつもりです」
「それで……エルフの魔力探索を誤魔化すことが出来るのですか?」
グリッドの心配は当然だ。
隠密作戦中の軍に物資を届ける役目を負うエルフが相手なのだ……
当然、警戒しながら行動してくることになるだろう。
俺はスキル【大賢者】を発動した後、ローレンスの隠密結界を展開する。
この結界は、結界内の魔力、音、匂いを完全に遮断して、ヴェレダ達を待ち受け、奇襲をかけるためにローレンスが開発していた超常的な効果を持つ結界だ。
警戒しながら物資を運ぶエルフでも、人間がこの結界を使えるなんて考えるとは思えない。
「凄いですね、視界にはウォルフさんが入っているのに……気配を全く感じませんよ……」
「この状態で待ち受けて、一気に無力化します」
グリッドがため息を吐きながらマークの方を向く。
「マークさんが『ウォルフの本領は剣じゃなく魔法だ』と仰ってた意味が解りましたよ。これは魔導師団を超えてますね」
「出鱈目でしょ。これがウォルフって生き物です」
「ちょっと待て、『生き物』ってなんだ!」
マークの説明の中に不穏当な表現があるぞ!
「あはははははは……」
グリッドの乾いた笑いが響いた……
「ウォルフ、さっきホリーが言ってたことは本当なの?」
夜営の準備をしてたらユリアが聞いて来た。
「エリー様がそう仰っただけで、何も決まってない!」
「エリー様が仰ってるってことは、その決定に口を挟める人っていないんじゃないの?」
「そっ、それは……」
そうなんだよ……
エリー様に逆らえる人間なんて王国にいないんじゃ……
いや、決してエリー様……勿論、ホリーとクリスのことが嫌いって訳じゃない。
でも、俺は【調律者】なんて訳のわからない立場になってしまってるんだ。
自分自身の今後すら想像することが出来ないのに、ホリーやクリスを巻き込める訳がない……
「童貞君のクセにヤるじゃないか、ウォルフ」
「マーク、茶化すところじゃないでしょ!」
「悩み過ぎなんだよ。昔からホリーの行動はお前を中心にしてただろ。クリスちゃんの存在を知ったホリーがクリスちゃんに嫉妬したりしたか?」
「仲良くしてるな……」
「幼い頃からウォルフ一筋だったホリーがクリスちゃんの存在を容認したのは、お前の気持ちを自分の気持ちよりも優先させたからだろ、健気じゃないか?」
恋愛経験に疎い俺にでも解る……
自分が好きな相手の眼が、自分以外にも向いてるなんて考えただけでも胸がモヤモヤする。
ホリーはそれでも受け入れてるんだ……
人間として、俺よりも立派だと思う。
「小柄でチッパイロリ体型のホリーと、小柄だけどボン・キュッ・ボンのクリスちゃん……羨ましいくらいだよ」
ん?
見た目だけで人間性が含まれてない様な……
「マークは昔から……小柄な女の子の方を視てると思ってたけど、やっぱり好みだったのねぇ!!」
「いっ、いや、俺はお前が…………ギャアアァァァッ!!」
夫婦喧嘩は犬も喰わないというが……
普段、俺を童貞君扱いしてるマークがユリアにボコボコにされてるのは胸のすく光景だな。
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