既成事実?
「いや、治療してたんであって……包容している様な状況じゃなかったと思うぞ?」
「最低な男だなっ!」
ちょっと待て、ボンボン!
あの状況を見てないお前に言われることじゃねえよ!
「それについては後で話をしましょう、ウォルフ君」
いや、エリー様?
この流れで話題を変えると既成事実みたいになってしまう恐れが……
「それよりも、クラウディアの腕を傷痕もなく治療した魔法について教えてください」
「傷口を繋ぎ合わせて『再構築』をしました」
「『再構築』!?」
魔導師団長として様々な情報に触れ、自身もかなりの経験を持つエリー様は一瞬で理解された。
「確かに凄い魔法だと思うが、エリー程の者がそれほどに驚く魔法なのか?」
「陛下、通常の回復魔法とは『対象者の回復力を強め、体力を回復させる』ものです。ウォルフ君がクラウディアに施した『再構築』の様に千切れた腕を元通りに繋ぎ合わせるなんてことは不可能とされて来た魔法なんですよ!」
エリー様の説明を受けた面々は、エリー様の表情から『再構築』の異常性を理解した。
「ウォルフ君、その魔法はどこで覚えたんですか?」
「グラディアス様の祝福の『オマケ』?」
グラディアス様の名前を出せば、キツい追及は出来ないだろう。
「クラウディアに教えた魔法の様に、その魔法を魔導師団に教えて貰うことは可能ですか?」
「【大賢者】の魔力操作の精度がなければ……使うことは出来ないと思います」
「残念です……クラウディアは魔法の才能だけは有りますので、この娘に教えるだけは教えて貰えますか?」
「一応、魔力操作の鍛練中です。使える様になるかは保証出来かねますが……」
ホリーに教えてることを伝えると、エリー様は満足気に微笑んだ。
「クラウディアが逐電した時は『ただの言い訳』と思っていたが、ウォルフの魔法は本当に国家機密足り得るものだったんだな……」
「アル兄様は、私を疑ってらしたのですか!?」
「お前は子供の頃から『ウォルフ』の名前を聞くと、目の前が見えなくなってたからな!」
そうだったのか?
っていうか、ホリーが逐電した時は俺の魔術のことを知らなかった筈なんだが……
「殿下、そろそろラスガカーン帝国の侵略行為の対策に話を戻したいのですが……」
とうとう、宰相様が痺れを切らしてしまった。
グダグダだったからなぁ……
結局、エルフの補給を待ち構えて捕縛、それが不可能なら討伐するということで話は決まった。
念のために諜報部隊を派遣するとアルフレッド殿下が言い出したが、捕虜を引き取るための部隊を派遣する様にお願いした。
グリッドの部隊と俺達【黒狼】で対応するってことを上層部が了承してくれたのは意外だったが、それだけグリッドが信頼されてるってことなんだろう。
「では、ウォルフ君とクラウディア、スヴェイン卿にはお話が有ります」
会議室で解散が告げられた時、エリー様が俺達を呼び止めた。
王族と宰相様が出て行った会議室に防音結界を張り直して、エリー様が語り始めた。
「スヴェイン卿、ウォルフ君の勘当を解くには条件が悪過ぎるとお見受けしますが?」
「エリー様の仰る通りですな。勘当を解いて家に戻すには、愚息の手柄と実績が大きくなり過ぎました」
「そうですね……しかし、ウォルフ君は平民の冒険者にしたまま、国家の統制外に置いておくことの出来る存在ではなくなってしまいました」
「仰る通り……」
「そこでスヴェイン卿に提案ですが、ウォルフ君をクラウディアの夫としてリーヴァル家が後ろ楯になるというのは如何でしょうか?」
「エリー様!?」
「叔母様、名案ですわ!!」
「エリー様の御提案、誠にありがたいお申し出と思われますが……愚息ウォルフの性格は御存知でしょう?」
「『天の邪鬼』、『権力欲は皆無』、『優柔不断』、『面倒くさがり』……といった性格でしょうか?」
否定はしませんよ、否定は!
でも、本人を目の前にして言うことじゃないでしょ!
「ちっ、ちょっと待ってください!」
「ウォルフ君、何か?」
ヤバい、エリー様の眼が笑ってない……
静かな微笑で、眼が笑ってないエリー様は本気でヤバいってホリーが言ってたよな……
「クラウディアから聞いてますよ、『クリスティン』って娘を側室として一緒にってことですよね?」
なっ、何を言ってんだホリーは!
「ウォルフ、色に溺れたか!?」
「違いますよ!」
「ウォルフ君、あなたがどう言おうと『貴族の娘を傷物にした』のです。責任は取って貰いますよ?」
「傷物!?」
「未婚の公爵家令嬢の肌に傷をつけたのです。その責任を取ってクラウディアの夫になって貰います」
「肌の傷痕は完全に『再構築』して残ってない筈……」
「ウォルフ君?」
笑顔がこれだけ怖いって……
エリー様っていったい何者?
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