襲撃
ピュィッ、ピイィィィィィー!!
夜明け直前の薄暗闇にマークの指笛が響き、夜営用のテントから俺達は飛び出す。
商隊の夜営に選んだ場所は、街道を少し逸れたところにある崖の下だった。
ここなら、襲撃を受ける方向も限られるので対処が楽と判断した俺達がグリッドに提案したからだ。
俺は直ぐに魔力探索で周囲の索敵をする。
前方……街道方向から四十人。
左右にそれぞれ二十人。
盗賊にしては人数が多過ぎる!
盗賊は当然のことだが固定収入を持たない。
それだけに、大人数が集まっていられる様な食料、生活物資を安定して貯蓄しておくことは不可能だ。
この人数は明らかに盗賊の常識ではあり得ない。
収入のない八十人が生きていくためには、近隣の村を襲って食料等を奪う必要がある。
しかし、ここに一番近い村は昨日まで俺達の商隊が立ち寄っていた村であり、襲撃を受けた形跡はなかった。
「マーク、人数がかなり多いぞ!」
「だよなぁ……もしかすると軍か?」
やはり、軍人経験のあるマークもそう判断したか……
魔力探索で察知した布陣は軍の動きとしか思えないものだった。
素人には、
『軍経験者が盗賊に身を落とした場合、軍の動きをする盗賊が出来る』
と考える人がいるが、元軍人でも半端者の集まりに訓練を施し、統制をとるなんてことが出来るものではない。
この統制された動きは、明らかに軍だ……
「軍が商隊に奇襲をかける……破壊工作か?」
「同士討ちを避けるために夜明けを狙ったなら、陽が昇ると同時に突っ込んで来るわね」
「何か策は?」
「ウォルフ、この人数じゃお前の魔術やスキルを隠して戦うのは難しいぞ」
いくらスヴェイン道場の上位に名を連ねる人間ばかりの俺達【黒狼】でも、正規の軍人八十人を相手に五人はキツい。
どうしても……本気になる必要がある。
「ホリー、崖の上を警戒しながら結界を……」
ホリーの結界で商隊を護りながら、念のために崖の上からの襲撃を警戒して貰うつもりだったが、
「我が身体を巡る魔力の渦よ、無数の矢となり敵を穿て!【魔力矢乱舞】」
詠唱と同時にホリーが数百本の魔力の矢を放っていた。
凄まじい轟音と共に、吹き飛ぶ盗賊擬き達。
その隙を見逃す筈もなく、俺は第二波の【魔力矢乱舞】を叩き込む。
「マーク、ホリーと左を、ユリアとクリスは右、正面は俺が行く!」
ホリーの【魔力矢乱舞】で半数近くの兵が負傷した直後に、俺の第二波攻撃を喰らい、一瞬にして壊滅に近い状態に追い込まれた盗賊擬きに俺達は突貫した。
まともに動けるのは数人、しかも混乱した状態で俺達の相手を出来る様な達人がいる訳もなく、驚くほど呆気なく勝負は決まった。
「武器を棄てて降伏するなら生命は保証する!」
形式的に降伏勧告をしたが、怪我なく動ける敵は一人もいない状態だったので、全員が直ぐに武器を棄てた。
降伏した兵士達を一ヶ所に集めた上で、
『逃げ出した人間は先程の魔法で死んで貰う』
と念を押してから、マーク達に縄で縛って貰う。
俺とホリーは逃げ出す兵士を警戒した状態で睨みを効かせた。
「ホリー、いきなり【魔力矢乱舞】なんて名前まで付けて先制したのは驚いたぞ」
俺が教えた魔術の一つだけど、詠唱等の鍛練してる最中と思っていたのに、既に実戦投入するレベルにしてる。
ホリーの『魔導師団長』って役職は伊達じゃないと、改めて思い知らされた。
「魔法のイメージに合わせて詠唱すれば、他の魔法と同じ要領ですわ。魔力量は桁違いですけど」
「ホリーが魔導師団長クラウディアってことをグリッドは知ってるから、ウォルフが異常って思われることはないだろうな」
「ホリーさん、そこまで考えて……」
なるほど、俺の魔術が目立たない様に同じ魔術をグリッドの目の前で使ってくれたんだな……
「睡眠不足は美容の敵ですのよ。乙女の敵に容赦は不要ですわ」
それだけの理由であの規模で八つ当たりしたのか?
仮にもレイスル王国の最高位の一人だぞ?
他の国の貴族には、そういった暴虐な人間も存在すると聞くけどレイスル王国の貴族……あのエリー様の後継者が?
「『痛い娘』ってエリー様が言ってた訳だ……」
「ホリーさん、気持ちは解りますが建前も……」
いや、クリスそれは違うんじゃないか?
「結果オーライですわ!」
「「「「はあ……」」」」
思わずため息が出る……
「皆さん、これだけの捕虜の扱いについて……そろそろ議論しませんか?」
呆れた……というよりも諦めた表情のグリッドが提案してきた。
「まず、尋問させて頂きたいのですが?」
そうだよな。
諜報員であるグリッドにとって大事なのは、『何処の国の軍隊』とその『目的』が大事なんだろう。
「お手並みを拝見させて頂きます」
俺達に異論がある筈もなく、グリッドの提案に応じた。
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