諜報依頼
「早速だが……最近、ラスガカーン帝国の動きがキナ臭いのだ……」
一介の冒険者を相手に、いきなり政治的な話……それも国家の重要案件の話ですかぁ!?
「我が王国とラスガカーン帝国、両国と国境を接するコーラル王国に対し、帝国が圧力を強めている」
「あの……俺達は冒険者であって、政治家や軍人って訳ではないんですが……」
レイスル王国の南西、ラスガカーン帝国からすると南に位置するコーラル王国は……剣聖ガーランド=スヴェインが活躍した時代より、ラスガカーン帝国の侵略に対してレイスル王国と連合した帝国包囲網の一画をなす小国の一つだ。
「ラスガカーン帝国に関して、スヴェイン伯爵家に繋がる人間が無関心でいられるのか?」
「そういった教育は受けてますが、国家機密に触れる立場にはないと自負しています」
ガーランド=スヴェインが爵位を賜る武勲を挙げた戦いの相手国こそがラスガカーン帝国であり、帝国の侵略を防ぐことがスヴェイン伯爵家に課せられた使命である。
勘当されたとはいえ、俺自身はスヴェインの血脈に連なる存在であり、クランの一員であるホリーは最高位の貴族リーヴァル公爵家の人間だ。
この要請は断れないのが前提となる……
「国家の中枢に連なる者の使命だ……解るな?」
あっ、これはかなりキナ臭い状況だ。
茶化して誤魔化せる雰囲気じゃない……な。
無言で頷く俺に満足した殿下は続ける。
「『冒険者には国境は無い』という冒険者ギルドの理念は、我が国の情報を探られる温床となっているが、こちらが探る側となることも拒否出来ないということだな?」
いや、俺は冒険者ギルドの人間じゃないんだけど……
「そこで、君達には商隊の護衛としてコーラル王国に潜入、情報収集を依頼したい」
ちょっと待て、一介の冒険者が集めることが出来る情報なら、国の諜報機関が探ってるだろう!?
俺達に何を求めてるんだ?
「冒険者が集めることが出来る情報程度なら、情報部で掴んでるのでは?」
「諜報戦なのだ。様々な角度、視点からの情報を精査する必要がある。これ以上の説明は必要か?」
これだから、世間知らずのボンボンは……
俺達を情報戦の真っ只中に放り込むって言ってるんだぞ?
俺達は冒険者のクランだ。
気楽に『死んでこい』なんて命令される謂れは無い!
「殿下、必要とされている情報は?」
断るって選択肢は無いのか、マークゥゥッ!!
「欲しい情報は既に集まりつつある。君達には、ラスガカーン帝国の諜報員の撹乱、妨害を中心にしながらの情報収集を頼むつもりだ」
更に危険な依頼じゃねえか!
「ウォルフ=マークス、リッチすら討伐した君達なら簡単な任務だろう?」
とうとう、『依頼』じゃなく『任務』って言いやがったぞ、この王子様は!
「殿下、クラン全員の命を賭けることを『簡単』とおっしゃいますか?」
「言葉尻を捉えて……どうするつもりだ?」
「殿下は近衛師団長の役職をお持ちの王族です。命を賭けて任務に向かう近衛騎士にも同様の言葉をかけられますか?」
「……軍事顧問たるスヴェイン伯爵家の者としての諫言か。感謝するぞ、ウォルフ!」
おおっ、皮肉として捉えてないのか?
アルフレッド殿下は、王族としての自尊心が良い意味で出てるんだなぁ……
ラルフ兄さんから聞いてた通りの人柄だ。
俺みたいな天の邪鬼は別として、こういう素直な性格に心酔する騎士は多いだろう。
「殿下、自分達はクランです。いくら国家の要請とはいえ、報酬の話もなく依頼を受けると……後々の活動に差し障りが出ますので、型として報酬をお聞きしてよろしいでしょうか?」
今後の付き合い方にも関わって来ると思われる点なので、殿下の心証は悪くなると思いながらも聞いてみた。
「フム、今回の依頼では『商隊の護衛』に対する報酬をギルド経由で、『情報収集』に関しては……持ち帰った情報の価値に応じて国庫から支払うという型ではどうか?」
「ラスガカーン帝国の諜報員に対する撹乱、妨害の報告はどの様にすればよろしいでしょうか?」
「既に潜入している諜報員がいる。その者に関する情報を含め、商隊を指揮する【グリッド】という者に説明する様に申し渡しておく」
なるほど、普段から諜報員を商隊として送り込んでいるって訳だ。
下手に素人を使わない辺りは、ただのボンボンって訳じゃないんだ……
「『任務』を承りました。それでは、商隊の出発に合わせて使命依頼をギルドの方へお願いします」
「では、任せたぞ!」
面倒な依頼だから断りたかったっていうのが本音だったけど、スヴェインの名前を持ち出されるとどうしようもない。
魔物が相手なら叩き斬れば終わりだけど、人間を相手に騙しあいなんて依頼は初めてだ。
海千山千の諜報員を相手に……俺達で大丈夫か?
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