ギルド長の指名依頼
「トガチ村への商隊が護衛を含めて全滅、もしくは行方不明になる事案が相継いで起こっている……」
「それは魔物の襲撃ですか?……それとも盗賊?」
「魔物なら荷が散乱してるはずだが、荷は全て持ち去られている。……しかし、全滅が確認された商隊は全員が奇妙な死に方をしているのだ……」
「奇妙な死に方?」
「とても、人間の仕業とは思えん……」
「具体的に言ってくれないと判断出来ませんよ?」
「解っている。着いてきてくれ……」
応接室を出たギルド長は俺達を解体場に設置してある、冷蔵の魔道具の中へと案内した。
ギルドが所持している冷蔵の魔道具はかなり大きく、先ほどまで居た応接室くらいの広さがあった。
様々な魔物の素材を保管する必要があるんだから、広くて当然なんだろうけど、ギルドって金を持ってるんだな……
冷蔵の魔道具の中……その一番奥で布に包まれていた冒険者らしい遺体をギルド長が俺達に見せた。
「うっ!」
「「「「………」」」」
口を抑えて顔を背けるクリス。
そこには、頭から股間にかけて僅かに斜めに両断された遺体があった。
流石にマーク達とホリーは軍に所属していただけあって、遺体から死因を探ろうとしていた……
「大剣か?」
「ここまで綺麗に人間を両断出来るものですか?」
「風の魔法でも……この断面は無理ですわね……」
「ウォルフ、お前の光刃斬ならどうだ?」
「背骨まで綺麗に斬っているな……衝撃波で斬ったらこんな断面にならないと思う……」
そう、この遺体の断面から見える斬り口は、被害者の背骨を縦に両断したとしか思えないものだった。
袈裟斬りに頭から両断出来る人間なんて殆どいないが、そんな達人でも背骨まで綺麗に両断なんてことは不可能だ。
「袈裟斬りでもない……正面から衝撃波でもない……」
「魔法でもあり得ませんわ……」
この世のものとは思えない遺体を前に俺達は悩む……
「トガチ村の物資が限界に来ているのだ。君達のクランで商隊の護衛を引き受けて貰えないだろうか!?」
ギルド長の表情は事態の切迫具合を表していた。
しかし、余りに危険な依頼なのは間違いない……
「相談して……明日返事します」
俺達は一度、拠点に戻り相談することにした。
「どんな攻撃をして来るのか解らないのでは、余りにも危険過ぎますわ」
「荷が無くなってるなら、魔物じゃなく人間だよな」
「人間に可能な殺し方じゃないですけど……」
「ウォルフはどうするつもりなの?」
「かなり危険な依頼だけど……俺は受けようと思う……」
正義感だけで、そう考えた訳ではない。
勝算どころか……どんな相手がどんな攻撃をして来るのか予測すらつかない。
しかし、俺の中に予感があった……
これは避けて通っては駄目だという予感が……
「本気か?」
「何か勝算が?」
マークとユリアは信じられないって顔をしている。
「今回はマークにも中衛を担当して貰う!」
「前衛を減らしてどうするんだ!」
「そうよ、発見が早いほど対策を考えられるわ!」
「マークはホリーを、ユリアにはクリスを護って貰う」
クリスとホリーの回復魔法があれば、多少の傷を負っても回復して貰うことが出来る。
そして、本当に危なくなれば【ゾーン】のスキルを持つ俺の方がマークよりも生存率が高い。
自己犠牲じゃなく、生存率と勝率を上げるためってことを説明して説得する。
「ホリーとクリスの回復魔法が生命線になる。俺が相手をしている間に二人を護りながら討伐方法を考えるなら、経験豊富なマークとユリアが適任だ」
「ウォルフ様、絶対に死なないって約束して下さい!」
「俺が死ぬって想像出来るか?」
「ウォルフさん、真面目に答えて下さい!」
「俺は死ぬつもりはない。そのために二人を頼りにしているんだ!」
「必ず力になってみせますわ!」
「生きていてくれれば、必ず私とホリーさんが回復してみせます!」
二人の決意を見てマーク達も覚悟を決めてくれた様だ。
「ウォルフ、俺達が二人を護ってみせる。背中は気にせずに戦えよ!」
「可能な限り援護もするわ!」
全員一致で依頼を受けることに決まった。
俺達は冒険者だ。
危険を回避するのは重要だけど、前に進む時には勇気で一歩を踏み出す必要がある。
「昨日の依頼の件ですが、受けます!」
ギルドの応接室でギルド長に伝える。
「本当にすまない。【竜の巣】の探索を見ても、危険を察知して対応する能力で君達【黒狼】を超える冒険者はいない。君達が最後の砦なんだ……」
深々と頭を下げるギルド長……
ギルドにとっても深刻な状況ではあるが、ギルドに依頼してくれる商隊を護れなかったことを悔やんでたんだろう……
その二日後に俺達は商隊の護衛としてハルムントを出発した。
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