詠唱?ナニそれ?
新たな魔術をホリーとクリスに教えるウォルフだが、残念ぶりを発揮する……
新しい魔術で討伐したリザードマンを収納袋に収納していく。
魔力探索を使い、リザードマンの眉間を狙って放った矢の命中率は五割程度だった……
「魔力操作の精度を上げないと……」
独り言を呟きながら収納を続けていると、
「全部命中してるんじゃなかったのか?」
マークが『何を言ってるんだ?』って顔で聞いて来た。
「魔力探索で魔物の動静は把握してたから、眉間を狙ってたんだよ。外してるのが結構いるだろ?」
「そんな精度で考えてるのか?」
「そうじゃないと、乱戦状態になったら使えないからな」
そう、『数の暴力』には『数の暴力』で対抗する……
そのために考えた魔術なんだから、乱戦状態になってしまった時に使えないんじゃ意味がない。
前衛の俺が前方の敵を殲滅出来たとしても、後方から数で圧されるとクリスとユリアの負担が大きくなってしまう。
「お前が全部背負う必要はないと思うがなぁ……」
マークの言うことは解る……
でも、俺の【調律者】っていう訳の解らない運命の謎を解くために、みんなを危険な場所に引き込んでしまっているって負い目があるんだよ……
「お前は昔から変な所に拘るからな、あんまり無理するなよ?」
「マーク、ありがとな」
「おう!」
昔から兄貴分だったマークは俺の性格もよく知った上で、冒険者として付き合ってくれている。
心配してくれているマークには悪いが、俺の大事な仲間を護るためなら全部背負う覚悟なんだよ。
リザードマンを収納した後は、十階層のマッピングを開始する。
クリスとホリーの魔力探索の鍛練を兼ねて、二人が魔物を避けた道を探して進む……
「さっきの魔術を私が使えるって本当ですの?」
「私も使えるかもってユリアさんから聞いたんですが?」
ホリーとクリスが新しい魔術に興味を示してるな。
「魔力操作の鍛練が必要だと思うけど、二人の魔力量なら矢の本数を減らせば使えると思うよ」
「魔力操作の鍛練ですか……」
「具体的にはどんな鍛練が必要なんですの?」
「じゃあ、その説明を兼ねて昼飯にするか!」
普段ならホリーが結界を張って、安全を確保してから昼飯にするところなんだけど、魔力探索を続けているホリーの疲れを考えて俺が結界を張った。
今日の昼飯はサワークリームの効いたスープと、焼いた牛肉とチーズ、葉野菜を挟んだサンドイッチにした。
このスープはユリアの得意料理だ。
異空間収納からスープとサンドイッチを取り出すと、クリスがそれぞれの皿に盛付ける。
「このサンドイッチ旨いな。ホリーも料理上手になったもんだ!」
「当然ですわ。私の女子力を思い知りなさいマーク!」
たかがサンドイッチではない!
ほんの半月前まで、包丁を持ったことがなかったホリーがメイン料理を作ってるんだ。
本当に努力したんだと思う!
「ユリアとクリスちゃんの教え方が良いんだろ?」
「ホリーさんは本当に頑張ってますよ!」
「マーク、料理は愛情ですよ?」
「おっ、おう……」
当のホリーはマークへの興味を失って、俺が食べる姿をガン見している。
いや、本当に旨いけど、真正面からじっと見られてると食べ辛いんだけど……
「本当に料理が上手くなったんだな、ホリー」
俺が褒めるとホリーは本当に嬉しそうな顔をした。
昼飯を食べ終わった俺は、ホリーとクリスに新しい魔術についての説明をする。
「純粋な魔力を矢の型に形成していくんだけど、小さな障壁を圧縮するイメージで形成してみて」
「障壁を圧縮…………むっ難しいですね……」
「魔力量を増やせば障壁を厚くすることが出来ましたが……圧縮って……こんな感じですの?」
放出した魔力の圧縮って方法は、普段使っている障壁を形成する時とは魔力操作が全く違う。
俺はローレンスの経験が身体に染み込んでいるから当たり前に出来るだけで、普通は難しいよなぁ……
「イメージは人それぞれだし参考にしかならないと思うけど、ゆっくりやるとこんな感じかな」
俺は二人の目の前で小さな障壁を展開した後、障壁を形成する魔力そのものを圧縮するイメージを説明しながら矢の型にしていく。
「なるほど、障壁を圧縮するのではなく……魔力そのものを圧縮するんですわね……」
「外から圧縮するイメージとは……違って、内側から圧縮する……」
魔力の圧縮なんて簡単に出来る訳ではない……
悪戦苦闘する二人だったけど、今日は探索の途中ってことで切り上げて貰い、探索を再開することにした。
「今、気付いたんですが……詠唱する必要があるんじゃ?」
地中から襲って来た『グランワーム』をホリーが炎の魔法を使って討伐した時にクリスが呟いた。
「詠唱か、忘れてた!」
「「ウォルフ(さん・様)……」」
ジト目で俺を見てくる二人から目をそらした俺を、マークとユリアが渇いた笑みで見詰めていた……
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