情報管理の恐ろしさ
本来の目的、今日こそはギルドへ……
盛り上がった雰囲気の道場を後にした俺達は、ギルド近郊の宿に泊まることにした。
兄さん達は『泊まって行け』と言ってくれてたけど、魔力操作について聞いて来る門下生達の相手をしていると、今晩は徹夜しなければならない雰囲気だったから、逃げ出して来たって感じだ。
「これは、明日のギルドでも大変だろうな」
「覚悟を決めろ、ウォルフ」
「皆さん、自分のことの様に喜んでくれてましたね」
「同輩の活躍は嬉しいものよ、クリス」
『ウォルフ様に悪い虫が寄って来そうですわね……今後のことも考えておかないと……』
ホリーがブツブツと独り言を呟いてたが、そんな会話をしながら宿を決めた。
翌朝、宿の朝食を終えた俺達はギルドへ向かう。
のんびりと朝食に時間をとったこともあり、朝イチの喧騒も終わっていたが、それでも冒険者や依頼を持って来る依頼主はそれなりにいる。
冒険者の交流のために備えられたギルド内のカフェでは、冒険者同士で情報収集を目的とした雑談をしながら、新たな依頼を待つ冒険者が溢れていた。
素材買い取り用のカウンターに向かい歩いていると、受付嬢のレイラが声をかけて来た。
「ウォルフさん、【バルガナーン大森林】から帰って来てたんですか?」
レイラの声に、奥のカフェにいた冒険者達が反応した。
『おい、【バルガナーン大森林】って言わなかったか?』
『半分、子供のパーティーで?』
『実績が欲しくて討伐隊にくっついてたんだろ!』
『それじゃ、お前と同じだな!』
『おっ、俺は主力として参加してたぞ!』
『お前じゃ無理だろ。あそこのオークは洒落にならない強さなのは常識だ!』
面倒事にしかならないので、ギルド内で騒ぎを起こすなと宿で散々念を押してたのに、冒険者達の『子供』って言葉にホリーが反応しそうになったが、クリスがなんとか宥めてくれた。
「レイラ、冒険者の個別情報の秘匿はギルドの義務じゃなかったのか?」
「あっ、すみません!」
こういったことが原因で、冒険者同士のイザコザなんて話はよくあることだが、情報を洩らした人間がギルド職員となると話が違って来る。
ギルド職員の規定は情報漏洩についてかなり厳しい。
登録している冒険者の安全に関わるからだ。
自身の失態に、レイラの顔が真っ青になる。
「とりあえず、ギルド長と会えるか?」
「ウォルフさん、許してください……」
泣きそうな顔で懇願してくるレイラ……
あっ、このタイミングでギルド長って言ったから誤解してしまったのか。
「いや、ただの報告だから」
「迷惑をおかけしたのは私の失態だと解ってます。でも、どうか許して貰えませんか?」
泣き出しそうなレイラの声で周囲の視線が……
ヤバい!
どうやって、誤解を解くか……
『探索許可証の発行をして貰った時に、誓約書を書かされたんだ。それを処理するためだ、レイラ』
小声でレイラに耳打ちすると、レイラの表情に落ち着きが戻ってきた。
『誓約書ですか?』
『ああ、必ずレイスル王国に戻るって誓約書だ』
『冒険者の活動に国境はない筈ですよね?』
『理由を聞かない方が良いと思うぞ。これを口外してしまうと庇うことは不可能な話だから……』
「わっ、解りました。直ぐに確認して来ます!」
いきなり大きな声で返事したレイラが奥に駆けていった。
周囲の視線が胡散臭気なものに変わる……
更に誤解された様な気がするが、無視することにしよう。
「ウォルフさん、さっきのは少し可哀想ですよ……」
クリスが咎める様な眼で抗議して来た。
「クリス、あなたの言いたいことも解りますけど、『優しさ』は同情や哀れみとは違いますよ」
「そうだな、さっきのレイラの言動は明らかにギルド規定に反していた。ウォルフの指摘が正しい」
「情報を扱う人間には、その情報の重さに比例した責任の重さが求められるものですわ」
「勿論、クリスの気持ちは解りますよ。でも、ここで咎められることが無いと、本当に人が死ぬ様な状況を招くことになってしまうかもしれないの。レイラが原因で人が死ぬなんてことが無い様に、ウォルフは指摘したの」
「その場は可哀想に見えるだろうけど、レイラのことを心配したからウォルフは指摘したんだろ」
「そこまで考えてたんですね。ウォルフさん、ごめんなさい!」
「いや、そんな謝ることじゃないよ!」
良かった……
ユリア達が誤解を解いてくれたおかげで、クリスから批難されずにすんだ。
『ウォルフ様が心配してる?』
『こんな所にまで邪魔者が……』
『どうにかして排除しなければ……』
さっき、まともなことを言った筈のホリーが、物騒な表情で独り言を呟いている。
少し見直したとたんにこれだ……
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