スヴェイン道場
王城で時間をとられたウォルフ達は、ギルドに行くことを諦めてスヴェイン道場へ……
「これは、素材の売却は明日にした方が良さそうだな」
午前中に冒険者ギルドに出向くつもりであったが、レイスル城を出た時には既に夕方になってしまっていた。
ギルドは一日中開いているが、素材の鑑定や処理に携わる職員が常駐している訳ではない。
特に、今回俺達が持ち込む予定の素材は土竜をはじめとした大型の魔物素材なので、それなりの人数を必要とする。
転移で【ハルムント】の拠点に帰ることも考えたが、先程までの話の内容が内容だったので、俺達に内偵がついている可能性もあった。
「明日まで何をする?」
「久しぶりに道場に行きませんか?」
「それは面白そうだな。ウォルフの腕を見た奴らの驚く顔が楽しみだ!」
「私は門下生じゃないけど大丈夫ですか?」
「クリスの剣は私が保証しますわ。ウォルフ様が教えただけあって、私達の剣筋と変わりませんから」
正直、乗り気じゃなかったけど、クリスに道場の鍛練法を見せるのは、今後のために好材料だな。
仕方ない、道場に行こうか……
「おお、久しぶりだな、ウォルフ!」
「剣が錆びてないだろうな?」
道場に入ると、長男のラルフ兄さんと次男のゲイン兄さんが声をかけてくれた。
「久しぶり、兄さん」
「リッチ討伐の時以来だな。こちらのお嬢さんは?」
「ああ、クリスはクランの一員なんだ」
「はっ、初めまして、クリスティンです。ウォルフさんと冒険者をさせて頂いてます!」
「ようこそ、道場へ。俺はウォルフの兄のラルフ、道場で師範代をしてます」
「次兄のゲインです。ウォルフが迷惑をかけてない?」
「め、迷惑なんて……」
初めてスヴェイン道場を訪れたクリスは緊張でカチカチになっている。
鍛練に入る前に緊張を解す方法はないかと考えていると、
「お二人共、クリスにちょっかいを出すことは許しませんわよ!」
「ホリー、お前も一緒だったのか?」
「すまん、小さ過ぎて視界に入ってなかった!」
「失礼ですわね。ウォルフ様、このお二人の性根を叩き直してくださいませ!」
いつものノリになったことで、クリスの緊張も少し解れてくれたみたいだ。
ストレッチをしながらクリスに道場の鍛練法を説明していた俺達に気づいた門下生達が声をかけて来る。
「ウォルフ、外で鍛練してたのは剣じゃなくて、女の口説き方か?」
「こんな可愛らしい娘と一緒に冒険者してるのか?」
「俺はドギルってんだ。ウォルフよりも俺と一緒に冒険者しない?」
「あんた達、ユリアさんとホリーさんが睨んでるわよ!」
「ごめんなさいね。ここの雄どもは節操が無くて……」
勘当されて家を出た俺に対しても、以前のままの態度で接してくれるのが少し嬉しい。
「同じ釜の飯を食った絆が変わる訳ないだろ?」
俺の表情から察したマークが呟く様に言った。
身体が解れたところで、俺達は素振りをしながらお互いの剣筋をアドバイスし合う。
道場で習う型を実戦で使う時には、それぞれの身体的特徴で僅かだけど違いが出る。
それを客観的視線から分析するためだ。
ホリーはクリスに付きっきりで型を基本から教えている。
魔導師団長って立場になってただけあって、ホリーは人に教える時の教え方が俺達よりも上手い。
「ウォルフ、お前がリッチを討伐したって話は聞いたが、俺も腕を上げたつもりだ。久々にやろうぜ!」
道場にいた頃、ほぼ互角だったジーグが組み手に誘う。
「面白い。ウォルフ、やってみろ!」
ラルフ兄さんの一声で道場中の注目が集まってしまった。
リッチ討伐の時、報告だけ聞いていた兄さんも俺の剣に興味があるんだろう……
「そうだな、やるか!」
木剣を持って向き合う俺達を、他の門下生が囲む。
「ウォルフの勝ちに一票だ!」
「ジーグも最近力をつけてるぞ、俺はジーグに一票だ!」
「お前らは知らないからな、ウォルフに一票だ!」
「マーク、不謹慎ですね……ウォルフに一票」
マークとユリアまで参加してやがる……
「ウォルフ様に挑むなんて、身の程知らず知らずですわねジーグ!」
こいつについては……もう何も言うまい……
ジーグと向き合った俺は試してみたい技のことを考えていた。
城で父と打ち合いながら、身体強化のバランスについて思うところがあったからだ。
脚の身体強化を特に強化する……
お互いの気が高まった瞬間に俺は足元に展開した障壁を足場にして、ジーグに向かって跳んだ。
俺が横薙ぎに祓った木剣を、ジーグは辛うじて木剣で受ける。
その瞬間にジーグの後方に障壁を展開した俺は、その障壁を足場にしてジーグに向かい跳ぶ。
普通ではあり得ない速度で後方から斬擊を放つ型になった俺の木剣が、ジーグの横腹に後方から入った。
「「「「……」」」」
道場を沈黙が包む中……
「ウォルフ様、素敵ですわー!!」
ホリーの声だけが響いていた。
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