因果律の歪み
『一先ず……』
古代竜グラノスが俺とシズカという女性を転移させた。
グラノスの領域……
ここに来るのは三度目なので慌てることもないな……
「こっ、此処は!?」
俺とは対称的にシズカが驚いている。
いきなり強制的に転移させられて、目の前には巨大な古代竜がいるんだ。
そりゃ、普通は驚くよな……
『全く……貴様らは手を掛けさせてくれる……』
「俺の対応は間違ってなかったと思うぞ?」
『貴様は自身のことには無頓着だが、周囲の人間を巻き込み兼ねない状況では危うい性格なのだな』
「あっ、あの……神竜様でいらっしゃいますか?」
『貴様らの国では、その様に呼んでおるな』
シズカの口調が先程までと全く違うな……
そんなに尊敬した口調だと、古代竜が調子に乗ってしまうじゃないか……
『このアホは未だに我を軽視しておるが、貴様は見所が有りそうだの』
「ありがたき幸せです!」
「【調律者】が一人じゃないなら初めから言っておけば、こんな面倒なことにならなかったんじゃないのか?」
「この、無作法者が!」
「いきなり俺のことを疑って戦闘態勢をとった人間に言われてもなぁ……」
「貴様は何者だ!?」
「平民の冒険者?」
『シズカとやら、止めておけ。このアホをまともに相手するのは無駄でしかない』
「国によって文化は違うが……貴様の名前は『アホ』だったのか。名は体を表すとはよく言ったものだ」
「全く『静か』じゃない奴に言われてもなぁ。それと、俺の名前はウォルフ=マークスだ」
「貴様、平民の分際で私を愚弄するのか!?」
「文化の違いか、教育の違いか知らないが、俺達の国では『高貴なる者達の責任』の精神こそが重要になる。立場で人を見下す人間は、俺からすれば見下げ果てた人間でしかないんだ」
「責任を持たない平民が言うことか!」
『いい加減にしろ!!』
目の前での言い争いが不愉快だったのだろう。
グラノスが怒りの声をあげる。
『東の【刀神】、西の【大賢者】、二人の【調律者】が歪み合うなどとは……』
『歪み合う』ってのは心外でしかない。
元々、俺達は心配して助けに行ったところを絡まれた立場でしかないんだ。
『シズカよ……貴様達がウォルフ達に対し無作法を働いたことが原因なのは我から見ても明らかだ。これ以上のことを我に口にさせるではない』
「申し訳ございません……」
『その言葉は我に対するものでは無かろう』
「ウォルフ殿、無作法申し訳ない……」
「謝罪の言葉、受け入れました」
グラノスの言葉で頭が冷えたのか、先程までと違い素直な表情での謝罪に悪意は感じられなかった。
言葉遣いも一転して礼に乗っ取ったものであり、育ちの良さを感じさせる。
「改めてお聞きしますが、バルガナーン大森林に来られた目的をお伺い出来ませんか?」
「それは……」
『そこは我から説明しよう』
女神様の神託と言っていたが、その内容を伝える程には俺の信用がないということか……
初対面の人間を信用しろって言っても無理があるしな。
『【調律者】の存在は本来なら一人なのだ。しかし、ヴェレダとかいうエルフ達が因果律を狂わせた結果、二人の【調律者】が存在することとなった』
「また、奴らが原因か……」
『この大陸とは別の島国に産まれた【調律者】シズカも、その役割を果たして貰うために呼び寄せたのだ』
「ってことは……俺と同等の力を?」
『本来ならそうだった……しかし、貴様は本来の【調律者】を超越してしまったがな』
「そうなのか?」
『ローレンスとかいうダークエルフの力……それが貴様のスキルに影響した結果である』
成る程、【魔力増大】のスキルや無詠唱を可能にする魔術、更にエルフの魔法に対する知識……
本来なら、俺が持ち合わせていなかった筈の要素だ。
「では神竜様、この者……いえ、ウォルフ殿の力は私達を超えるということでしょうか?」
『剣と刀の違いはあるが……ウォルフの剣は【剣聖】のスキルを持つ者と同等だろうな。その上で【大賢者】のスキルを得たことでエルフを超える魔法を操ることが出来る』
「化け物か……」
「誰が『化け物』だ。失礼だな?」
『シズカが女神様と呼ぶ存在、グラディアス様の戯れの結果だ。事態を鑑みれば、戯れとは言えんか……』
「結局、俺達に協力させようとしてたってことか?」
『【調律者】は自身の意思で生きて行くものだ。そこで協力するかどうかは関与する気はない。ただ、貴様達が争うことだけは許されないと知れ』
つまり、一緒にヴェレダを追えって訳ではないんだな。
協力しようが、競争して奴らを討伐しようが……型は問わないから世界樹を護れってことか……
「状況は理解した。彼女達と争わないことは約束する」
「私は女神様の御心のままに……」
無駄な戦いは避けられそうだな。
ホリー達がキレてなければいいが……
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