もう一人の【調律者】
バルガナーン大森林の深部で人間の魔力反応を探知した俺達は、戦いが繰り広げられている現場へと急ぐ。
本来、人間が立ち入るには危険が大き過ぎる地域である……というよりも、不可能と言っても過言ではない地域だからだ。
「あそこだ!」
スカウトとして最前列を走るマークが視認した。
そこでは見たことのない装備と装束の一団がオーガ三匹を圧倒していた。
「新手には私が対応する。鬼の討伐を続けなさい!」
最も意匠の施された装備に身を固めた女性が俺達に向き直り構える。
「待て、こちらは戦闘目的ではない!」
全員が視認出来る位置に達した俺達は動きを止めて戦闘の意思がないことを伝える。
「人間がこの森林地帯にいるのか……目的は?」
「俺達はレイスル王国に所属する冒険者のクラン【黒狼】だ。このバルガナーン大森林の探索中にあなた達の魔力反応を察知したので助力を目的として来たが……必要なさそうだな?」
「助力?……この程度の魔物を相手に?」
「こちらは素性を名乗ったんだ。あなた達の素性について名乗らないのは文化の違いか?」
一目見れば解る民族衣装の違い……
俺達が知る地域の人間ではないのだろう。
そんな遠方の人間が何を目的としてバルガナーン大森林の深部にいるのか……
最悪、口封じのために襲いかかって来るかもしれない……と考えるのは相手も一緒か……
「……敵ではないと言うなら、この鬼を討伐するまでその場で待っていて貰おうか?」
「わかった」
俺達に敵意があるなら、魔物を相手に戦力を分散しないといけない今が、襲いかかるには絶好機になるだろう。
そのタイミングを棄てて、相手の戦力が整うのを待つことをするかで、こちらの意図を量るつもりか……
程無くして無難にオーガ三匹は討伐されたが、彼女を含めた一団が使う武器は剣ではなかった。
現物を見るのは初めてだが、スヴェイン道場で聞いたことがある刀という武器ではないだろうか?
「我々の助力に来て頂いたという話だったが……君達はこの森林地帯の住人なのか?」
「俺達はレイスル王国から探索のために来ている」
「君達の国の政情は存じ上げないが、私達は女神様からの神託によってこの場にいる。つまらない政情を持ち込むならそれなりの対処をとらせてもらう」
「女神様?」
「我々の国では数多くの神々がいらっしゃる。その中でも最高位に位置づけられる太陽神だ」
「その女神様の神託がどんなものなのかは知らないが、俺達も女神グラディアス様からの依頼に従って動いている」
「それを証明出来るのか?」
「証明の方法って言われてもな……それはそちらも同じじゃないのか?」
「神託と祝福を受けた私達の力が証明している!」
「すまないが……オーガ程度なら、俺達でも簡単に討伐することが出来るぞ?」
「【調律者】である私と同等だと言うのか?」
「【調律者】!?」
ちょっと待て!
【調律者】って俺のことじゃなかったのか!?
それとも……何人か存在するものなのか?
確認したことは無かったが……
「スキルで【神仙術】を持っているってことか?」
「何故、それを知っている!?」
【神仙術】って言葉に反応した五人が身構える。
それに反応したマーク達も身構えた。
「俺も【調律者】だからだ」
「出任せを!?」
「姫、騙されてはなりません!」
「姫?」
【調律者】を名乗った女性が仲間を眼で咎める。
何処の国かまでは判らないが、この女性の立場が国家元首、もしくは、かなり高位にある立場だと言ったのと同じことだからだ。
「かくなる上は……」
自身の失態を消すために、俺達を消そうとでも?
穏便に済ませたいという態度を崩さなかった俺も、その判断に対し魔力を高める。
礼を失するところまでは事情に配慮するが、不当な理由で俺の仲間に危害を加えるというならば話は別だ。
「『かくなる上は』の続きを言ってみろ」
「……」
「自身の立場を隠したまま、敵対する意思を見せるならば容赦する必要はないな?」
魔力増幅炉を発動させたことでマーク達の魔力も戦闘目的の物に切り替わる。
先程見せた動きが相手の実力なら、今の俺達なら簡単に制圧することが出来るだろう。
「なっ、何だ。この馬鹿げた威圧感は!?」
「姫、後ろにお下がりください!」
「お前達が【調律者】であろうが、無かろうが関係無い。非礼の上に暴虐をもって相対するなら力を示すまでだ!」
『待て、短気をおこすな!』
俺達と相手の間に魔方陣が展開して、そこから古代竜グラノスの声が響きわたる。
『シズカよ、貴様は女神からの依頼を忘れたか?』
「いっ、いえ……」
『ならば、何故この者を敵とする?』
「もっ、申し訳ございません!」
グラノスはこいつらのことを知っているのか?
もう一人の【調律者】といい、どうなってるんだ……
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