偽物
俺が必死に頑張ってきたものを、「ただの夢」の一言で終わらせるな。
俺の想像だったとしても、そこに俺はいたんだ。仲間がいたんだ。
だったら、そいつらに会いたい。会わしてくれ。じゃないと俺は......
お前らなんかに「ただの夢でしょ?」と言われた人の気持ちなんて、一生分からないだろうな。
日曜日。
ピクニックをやりたかった。
しかし、雨だったので出来なかった。
代わりに、鳥羽の話を聞いた。鳥羽は、魔王のことを教えてくれた。本当は話すつもりは無かったようだけど、この際だからと言って話してくれた。なんだか聞いていて、いい気分とは言えなかった。
月曜日。
今日も異世界の話を聞いた。
イリスとレイラを最近見ないという話だ。
イリスというのは、たぶん紗栄ちゃんこと紗栄子で、レイラはきーちゃん。つまり清子のことだと思う。
火曜日。
座って出来ることなら、ほとんどのことが普通にこなせるほどに回復してきた。
鳥羽と久しぶりにトランプゲームをした。
ゲーム中は、いつもの鳥羽となんら変わりなくて、とても楽しかった。けれど、時々私を呼ぶ時に、リリアというのが少しまだ気になる。
水曜日。
紗栄ちゃんときーちゃんが来た。
あまり会わせたくは無かったけれど、もしかしたら二人に会うことで何かが変わるかもしれないと、私はわずかながらの希望を持っていた。
しかし、逆効果だった。かもしれない。
やはり私の読みは当たっていて、二人のことをイリス、レイラと呼んでた。
私達は、魔術の話をされたけれど、そもそも魔術なんて使えないし、教えられても仕方が無かった。
木曜日。
鳥羽は、鳥の話をしてくれた。
私が鳥羽を訪ねるたびに、必ず鳥羽は窓の外を見ている。鳥を見ているのだ。
でも外はあいにくの雨で、鳥は見ることが出来ない。
昔からそんなに鳥好きだったっけ?
金曜日。
やっと雨が止んだと喜んだ。
けれどまだ地面は濡れていて、ピクニックには向いていない。
土曜日。
ついに今日はピクニックだ。
空は快晴。鳥羽も外に出られるようになって、ピクニックをした。
峰香に怒られちゃった。
「今日は日曜日」
クラスの皆が会いに来る日だ。
でも、私だけ一足先に来た。
皆よりも、少しでも長く鳥羽と話していたいのだ。
「ん?」
「ううん。日記」
どうかいつか、鳥羽がこれを見て何かを思ってくれるようにと、私が付けた日記。
何を思って欲しいかは、自分でもよく分からないけれど、まぁ、とりあえず今は元の鳥羽に戻って欲しいなと思う。
「日記か......懐かしいな」
「え?」
まさか......元の鳥羽に戻るきっかけ!?
「いや、学園に通い始めた頃に、日記でも書こうかと思ったことがあってな。結局、書けなかったんだけどな」
鳥羽は少し笑い気味で言った。
私もハハハと笑い飛ばす。期待した自分を誤魔化すように。
「そう言えば、リリアは学園に通ってから好きな人とか出来たのか?」
「!?」
それは、ただの質問。
ただ聞かれただけ。
それだけだったのに、私の胸はズキズキと痛んだ。
張り裂けそうなほど鼓動が高まった。
これは私に聞いているんじゃない。リリアに聞いているんだ。
私には関係ない。
だから、ここで答えてはダメだ。ここで答えたら......昨日と同じになる。
「なぁ、リリア。実はな、俺は出会った時からずっと......」
パンッ
部屋に響き渡る音。
私は、気付いた時にはもえ鳥羽を叩いていた。
頬に一発。
「いい加減にしてよ!あなたは死んでないし、転生もしてないっ!リリアなんて人もいなければ、モンスターだっていないの!早く現実に帰ってきて!!」
もしかしたら、その先の言葉は私の考えていることと違う事だったのかもしれない。
ただの思い過ごしだったのかもしれない。
けれど、許せなかった。
鳥羽の口から、これ以上私に被せた私のことを言われるのは。想われるのは。話されるのは。呼ばれるのは。見られるのは。
もう嫌だった。
限界だった。
「......お前......」
鳥羽は、私の方を見つめて、どこか驚いた表情をしている。
真っ赤に腫れた頬を手で抑えて、目を丸くしている。
「誰だ?」
え?
「リリアじゃないな!俺を騙してたのかお前!このっ!!」
鳥羽が殴りかかってくる。
私の腕を掴んで、顔を、頭を、体を拳で殴ってくる。
「いや!やめて鳥羽くん!」
痛い。痛い。痛い。
いくら今まで寝たきりだったとはいえ、男の人の力には適わない。いや、こんなにも本気で殴って来る鳥羽が、単純に怖かったのだ。
「何をやってるんだ羽鳥!!」
声が聞こえたのか、クラスの皆が勢いよく扉を開けて来た。
男子達が力づくで鳥羽を止めてくれる。
「落ち着け!落ち着けって!」
「大丈夫?燕ちゃん」
「う、うん......」
後から病院の先生も駆けつけて来た。
「クソ!俺はあの四神をも倒したんだぞ!!ソニックブレード!!」
鳥羽は、謎の横文字を叫ぶ。
何かのゲームの技名のようだ。しかし、何も起こらない。
当たり前だ。ここは現実なのだから。
「やはり魔術は使えないか、なら!変身解除!!」
しかし何も起こらない。
なぜなら変身なんてしていないからだ。
「なんでだ!!」
鳥羽は呆気なく抑え込まれ、静止を余儀なくされる。
少しは落ち着いたようだ。
「なぜ......魔力が使えないんだ......」
鳥羽は私を睨む。
怖い。
今までそんな顔を、私は見たことがない。
そしてその顔を向けられているのが自分自身だという事実に、今にも泣きそうになってしまう。
「リリアのふりをして......何が目的だ!!」
ビクッと、私の体が驚き飛び上がった。
もちろん私になんの目的もないし、強いて言うなら鳥羽を元に戻したいのだが、それは別にリリアになりすまして出来ることではない。むしろリリアでは出来ないことだ。
それなのに、勝手に鳥羽は私がリリアだと思い続け、今勝手にリリアじゃないことに気がついたのだ。
私は何もしていない。
......けど、私からも聞きたいことがある。
「私はリリアなんかじゃない!なら、今鳥羽には、私は誰に見えてるの!!?」
鳥羽が怒鳴ったのに対して、私も怒鳴り返した。そんなに大声は出せていなかったかもしれないけれど、だんだん私にもイラつきが出てきた。
鳥羽を叩いた時と、同じくらいに。
「お前は......」
私は、鳥羽の言葉を待った。
もしかしたら、またリリアと言うかもしれない。
いや、他の誰かかも。
ちゃんと「燕」と呼んでくれるとは全く期待していなかった。
だけど。
「誰だ?」
「......ッ!!」
怒りより、悲しみの方が上回った。
高校生になって、初めて泣いた瞬間だった。
私は頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。
もう嫌だ。
もう、鳥羽とは話したくない。
そう思った。
「行こ、燕」
友達に連れられて、病院を出て行った。
しばらく私は、鳥羽とは会わなかった。




