思い出のピクニック
夢でいいじゃないか。
夢のどこが悪いんだよ。
現実じゃなきゃいけない理由でもあるのか?夢の方が楽しいんだから、それでいいんだ。堕落なんてしない。
現実なんかに戻らなければいい。
なぜ夢より現実の方が正しいのだ。
正しくなんて無くていいじゃないか。
楽しければ、それでいいじゃないか。
幸せならそれでもいいじゃないか。
例えそれが地獄だとしても、幸せなんて一切無いとしても、それでも現実に戻りたいと思うのか?
今日はピクニックの日だ。
この前、「明日ピクニックに行こう」とは行ったものの、それからしばらく雨が続いて行けなかったのだ。
だから今日は久しぶりのピクニック日和。
快晴だ。
「鳥羽!来たよん」
「おう、今日は久しぶりの晴れだな。良いピクニック日和だと思わないか?リリア」
相変わってから相変わらず、鳥羽の具合は治らない。
元気にはなったものの、私達をまだ別人の名前で呼ぶ。たぶん元気になったのは、悔しくもそのせいだろう。
異世界に帰りたいという衝動は、ここが異世界なんだと思い込むによって消化された。
リリアとかいう人に会いたいということも、私をリリアだと思い込むことによって緩和されている。
いや、思い込んでいるを越して、私がリリアとなっている。
何日か通い続けて、話し続けて分かった。
鳥羽の妄想の中のリリアやロナ、レイラ、イリスなどという人達は、全て私達が素となっている。
私達から作り上げたキャラクターなのだ。
故に、元から同じ。
私とリリアは似てしまっているのだ。
「リリア、久しぶりに魔術でも教えてやろうか?四神は倒したが、次はどんな敵が来るかも分からないし、学園でも上位ランクを保っていたいだろ」
私は、リリアと似すぎてしまっているせいで、もっとこちらに戻すことが難しくなっている。
例えば、思い出だ。
鳥羽が語ってくれた思い出の中に「イリスがみんなと、早く仲良くなってくれるように」と、一緒にクッキーを作ったという話があった。
しかしそれは、小さい頃にも似たようなことがあった。
私が紗栄子と喧嘩をしてしまった際に、鳥羽が「みんなでクッキーを作ろう!」と提案してくれたのだ。
紗栄子は世間知らずのお嬢様。料理はもちろん、クッキーなんて作ったことは無い。まぁ子供だし、料理なをて作らないけれど。
だからこそだろう。私達は、クッキーを作っている内に、自然と仲直りをしていた。
その事を鳥羽が覚えていてくれたのはとても嬉しい。
けれど......それでも......
「なぁ、早くピクニック行こうぜ?そのまま突っ立ってたら、夜ご飯になっちまうぞ?」
私は、もう諦めかけていた。
鳥羽が起きてから約一週間。
二日目から、鳥羽の本格的な異世界脳は始まってしまった。
それから今まで、一度も私を見てくれたことは無い。名前を呼んでくれたことは無い。
いつもリリアばかり見て、いつもリリアばかり呼んで。
私は、眼中にいても見えていない。
「ほら、早く」
パシッと、鳥羽は私の手を掴んだ。
もうとっくに走れるくらいには回復していて、ベッドからも立ち上がれる。
そして、ベッドのそばで突っ立っている私の手を引いた。
鳥羽は、私を引っ張るようにして病院を飛び出した。
私は驚きを隠せない。だって、いきなりの事だったから。
「久しぶりの外だな。いい天気だ」
このままでもいいのでは無いだろうか。
悪魔が私に囁く。
「なぁ、リリア。外で食事だなんて、初めて会った時以来じゃないか?あの時は肉ばかり食ってたけれどな」
鳥羽は、私を好きでいてくれている。
私はリリアだ。鳥羽はリリアが好きだ。
現に今も、こうしてピクニックが出来る。
なら、今でもいいのでは無いだろうか。
「なんだか懐かしいな、お前とロナの二人だけで森まで来てよ。俺が来なかったら危ないところだったな」
鳥羽が事故に遭う前は、私達の関係なんて何でもなかった。ただの幼馴染。友達。それ以上でも以下でもない。
でも、今なら......
「ん、美味しいなこれ。このサンドイッチ。リリアが作ったのか?」
私がリリアである限り、鳥羽は私のことを好きでいてくれる。
「うん、そうだよ。私が作ったの」
私は、ここに来て初めて肯定をした。
今まで、リリアと呼ばれても流したり、否定をしたりしていた。
でもこれで、私はリリアになった。
鳥羽の好きな、リリアだ。
「そうだね。懐かしいね。ライルと会ったのももういつぶりかな」
「お、ライル君じゃなくて、ついに呼び捨て出来るようになったのか?嬉しいぞ」
後悔はない。
だって、鳥羽はもう治る気配がないもの。
だったらこのまま、私がリリアになっちゃえば良いじゃない。
それで解決だった。
「違う!!」
「!?」
「?」
背後から声がした。
私達は木陰で二人きりのピクニックをしていたのに、誰かがこちらに近づいてきていた。
病院の人なわけがない。もしそうだとしたら、叫んだりしない。
私は振り向いた。
「峰香......」
「ん、ロナ!久しぶりだな!」
「私、そんな名前じゃないから!」
!!ビリビリと、全身に雷が走るように響く。
普段はあまり大声を出すような性格では無い峰香。私のもう一人の幼馴染だ。
峰香は小さい時から私に隠れてばかりのような子で、いつも怯えている。
鳥羽と仲良くなるのだって、時間がかかってしまっていた。
しかし、そんな峰香が大声を出して否定している。
「違う、全然違う!」
峰香は、私と鳥羽に向かって怒るように言う。
「燕はリリアなんて名前じゃないでしょ......」
半泣きだ。
勇気を振り絞って怒鳴ったためか、峰香の目には涙が浮かんでいた。
私は慌てて駆け寄り、峰香に抱きついた。
「ゴメン....ゴメンね......そうだね。私はリリアじゃない、燕なんだ」
自分にも言い聞かせるように、峰香に言った。
私はリリアじゃない。燕だと。
峰香のおかげで、目が覚めた。私は、目の前にある、簡単に手に入る想いに飛びついてしまった。
私がリリアであると肯定するだけで手に入る、ただの薄っぺらい愛情。
そんな人のものではなく、私に向けた愛が欲しい。
それを忘れていた。
「ありがとう、峰香......おかげで目が覚めたよ」
私は絶対に諦めないんだった。
鳥羽を、元に戻すため。
リリアじゃなくて、私を好きになってもらうために。
「どうしたんだ?お前ら。急に泣いて抱き合って、何かあったのか?」
「ううん。なんにも無い。ただちょっと懐かしくてさ」
私は平然を装う。特に意味は無いけれど、何となく内緒にしてしまう。
どうせ話してもここを異世界だと思い込み続けるのは分かっているのにだ。
「ねぇ燕、これって......」
「うん。ピクニック」
小さい頃、皆でよくやったピクニックだよ。




