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私が元に戻す

私は須田知(すだち) (つばめ)

普通の女子高生。

だと思いたいのだけれど、二年前、ある出来事が起こってしまった。

好きな人が、事故にあってしまったのだ。

羽鳥(はとり) 鳥羽(とば)。私の幼馴染。

横断歩道を渡っている途中、トラックに轢かれてしまい、意識不明の重体。

その後なんとか回復するも、意識は戻らないままだった。しかし生きてはいた。

いわゆる、植物状態と言うやつだ。

ほぼ寝ているのに近いが、ずっと起きない。

でもいつか起きるかもしれない。

そんな葛藤を、ご家族の人は繰り返したそうだ。

しかし、それも昨日で終わった。

ついに、やっと鳥羽が目覚めたのだ。

約二年。

この時を、ずっと、待っていたのだ。

扉を開けると、鳥羽は病室の真っ白なベッドの上に寝ていた。

首だけで横を向いて、窓の外の鳥を見つめている。


「来たよ。鳥羽」

「やぁ」


なんだか久しぶりで、嬉しい。

まぁ、昨日も来たんだけどあまり話せなかったからね。

昨日はずっと、帰る帰る言っていたし、異世界?とか、なんだかよく分からないけれど、夢の話をしていた。

でも今日はゆっくり話せる。

鳥羽と話せるという喜びを噛みしめに来た。


「リリア」

「!?」


はずだった。

知らない名前。

リリア......?


「リリアって、誰?」


医者に聞いた話だと、重度の現実逃避のようなものらしい。

長い間眠っている間に、自分の想像、つまり妄想の中で生きていたらしい。

その後遺症のようなものが、今でも残っている。

現実と妄想の区別がつかないのだ。

鳥羽は昔から想像力豊かで、こと細かく世界を作り上げていた。


「ねぇ、鳥羽?私はリリアって人じゃないよ」

「あはは、何を言ってるんだ。リリアはリリアだろ?」

「......」


鳥羽の口から、全く知らない人の名前が出る度、私は唇を噛み締めた。おそらく、名前からして女の子。

なんだかやるせない気持ちになって、なんというか、すごく嫌だ。

私が異世界で言うところのリリアって人に似ているのか知らないが、私は燕。須田知燕だ。他の誰でもない。


「久しぶりの休日だ。今日はピクニックにでも行ってみるか?」


明らかに昨日よりも悪化している。

昨日の時点では、自分の夢だということを認めないにせよ、ここが現実世界だというのを理解していた。

しかし、今日は違う。

ここが異世界だと完全に思い込んでいる。

一晩開けただけで、幼馴染馴染みが変人になっているなんて、初めての経験だった。


「ピクニックね......リリアって人じゃなくて、私と行こ?」

「ははは、だからリリアと行くって。いい加減それやめろよ」


鳥羽は認めない。

絶対に私をリリアって人に仕立てあげたいようだ。


「でも残念ながら今はちょっと疲れているからな。昨日の闘いがまだ響いているようだ......まともに動けるようになったら、行こう」

「......うん」


鳥羽の中では昨日、闘い?のようなものがあったことになっているらしい。

鳥羽の目は、私を見ているようで、リリアという人を見ている。私を透して見ている。


「鳥羽......」

「おいおい、いつもみたいに呼んでくれよ。ライルってさ」


ライル。

それはたぶん、あちらの世界でも鳥羽の呼び方。


「そうだな......ロナもレイラもイリスも誘って行くか」


ん??

また知らない名前が出てきた。

けど、おそらく私の友達だ。

鳥羽の中で、勝手に名前が変えられているだけ。


「オッスオッス、元気か?」


と、いきなり入って来たのは、クラスメイトの青山(あおやま)君だった。


「どうも」


それと、後に続いて古木(ふるき)君も入って来た。

二人は鳥羽の友達で、いつも三人で仲良くしていた。


「あちゃー、一番は須田知さんにこされちゃったな」

「へっへー。いえーい」


ブイサインをしてやる。

青山(あおやま) 隆夫(たかお)君。親しみやすくて、男子も女子にも友達が多い。


「りんご持って来たんだけど、食う?」

「いやそりゃ食うだろ」


鳥羽と話す前にりんごを剥き出したのは、古木(ふるき) 吉永(よしなが)君。

明るい青山くんに比べれば、そこまで元気じゃないけれど、結構明るめの人だ。

やることなすことが少し特殊で、青山君や鳥羽のような物好きとよくつるんでいる。


「いやぁ、それにしても久しぶりだな、鳥羽」

「あぁ、ランベルトさん。お久しぶりです」


しまった!まだ青山君は、この鳥羽を知らない!


「......ん。元気?」


私は驚いた。

少し間はあったし、青山君の表情も固まってしまっていたが、すぐに調子を取り戻した。

さすがは青山君。一瞬で状況を理解してくれたみたいだ。

古木君もまるで何も聞いていなかったかのようにりんごをシャリシャリと向いている。


「ん、あ!ちょっと!手ごと切ってる!」

「え?あぁ!やべ、ごめんよぉ......りんごの皮剥けてるのに、まだ赤くて」


あはは......古木君は相変わらずだ。

こういうちょいグロのせいで、関わる人を選ぶ。

まぁ、クラスメイトの大半はもう慣れていると思うけど。


「ははは、相変わらずだよな。覚えてるか?こいつが作った料理が、妙に赤かったの。それにしても異常な回復速度だよな」

「はは、ヘラルドさんにはいつも驚かされますよ。初めて会った時も、まさか肩に剣が刺さっているとは」

「......」


そんなシーンは一度も無い。

また鳥羽の、頭の中だけで起きた出来事だ。

また変な空気が漂った。


「ま、まぁとりあえず食いなよ」

「いや食わそうとすんなよ。そんな血塗れのりんごなのに」


古木君はその真っ赤なりんごを鳥羽に差し出そうとしたが、青山君が普通に止めた。

まさか本気でやってないよね?冗談だよね?

古木君は「え、なんで?」みたいな顔をしているから、どうしても心配になってくる。

相変わらず。

その言葉は私の胸に突き刺さる。

私や、他のみんなは変わっていないのに、鳥羽だけ変わってしまった。

相変わってしまったのだ。


「ねぇ、鳥羽」

「だからライルだって」

「もし良かったら、明日にでもピクニックに行かない?」


もうとっくに、体力の方はあまり問題が無いようだ。だから病院の近くなら、外に出ても大丈夫だと聞いている。

鳥羽もピクニックに行こうと言っていたことだし、もしかしたら元の鳥羽に戻ってくれるかもしれない。

そんな期待をして、鳥羽を誘った。


「あぁ、いいよ。もちろんだとも」


案の定、鳥羽は了承してくれた。

片想いのこちらからしてみれば嬉しいことなのだが、その反面、悲しさもあった。

ピクニックに行くのはもちろん私なのだが、鳥羽にとってはリリアとかいう人なのだ。


「それじゃあまた明日くるね」

「おう、俺達はもうしばらく話すよ」

「うん。バイバイ」


私は病院を出る。

これから鳥羽と会う度にこういう気持ちになるのだろうか。

そう思うと、涙がこみ上げてくる。

それでも私は負けない。

必ず鳥羽を、元の鳥羽に戻してみせる。

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