転生できる最後の手段
何も無かった。
俺は生まれてから、個性や能力何てものは何も無かった。
十七年。その事を我慢し続けて来た。
得意なことは妄想と想像。
好きな女の子が、例え俺のことを嫌いだったとしても、俺の頭の中では好き放題。
嫌いな奴でも、自由に殺せるし、何でもかんでも俺の思い通りになる。
俺は妄想が好きだった。
それは認める。
しかし、こればっかりは認めたくはない。
俺が転生して、守ってきたもの。築いてきたものが、全て俺の中でだけの妄想に過ぎなかっただなんて、絶対に認めたくない。
確かに、都合が良かった。都合が良すぎて、まだ俺自身でも疑ってしまうのは事実。
それでも、俺は信じたい。
俺のいた世界と、リリア達仲間を。
いつからだろう。
まるで自我を無くしてしまったかのように、俺はしばらく意識が朦朧としていた。
夢を見ていたようだ。
しかしハッキリと覚えている。
俺は......
「みんなに悪いことしちまったなぁ......」
ここしばらく、俺はずっとここを異世界だと思っていた。
いや、思いたかったんだ。
あまりにも異世界に帰りたくて、帰りたくて帰りたくて、それでも帰ることは出来ない。
その事実に気付いた時、俺は勘違いをする事にした。
意図的では無かったが、ほぼ気を失っていたようなもので、俺は勝手にここを異世界だと思い込み、現実から逃げていた。
直視するのを避けていた。
「だが今気付いた。ここは異世界では無い」
現世なのだと。
しかし俺のいた異世界を否定するわけではない。
異世界は確かにあった。あれを俺の想像や妄想だと言い切ることは出来ない。
それは認められない。
しかし、戻れないのは事実だ。
それはどうしようもない。
いや、一つだけある。
一つだけ方法を見つけたのだ。異世界に帰る方法を。
まずは異世界に転生した時を振り返ってみる。
俺は、なんでもない普通の高校生だった。
だがある日、事故にあった。
なんてことはない。ただの事故だ。
歩道の信号は青。歩行者は渡ってもいいということだ。
そして俺は渡った。それなのに、トラックに引かれてしまったのだ。
そして......待てよ?
俺が転生する瞬間、確か女の人の声がしたな......ということは。
神、もしくは女神が俺を転生させたということになる。
俺は、ダメ元で呼びかけてみた。
「おーい!女神様!俺だよ!!転生させたんだろ?」
......しかし返事はない。
ダメ元とは言ったものの、少しガッカリしてしまった。
当たり前のように、神様からの返事があるわけが無く、俺はまた静かな空間を味わう。
リリア......やはりこれしかないか。
俺は、前々から思っていた方法を試すことにした。
場所は屋上。
もちろん病院内なので、普通に屋上へ行けるはずがない。だから、無理やりドアをこじ開けたのだが。
誰もいない。そりゃそうか。
空気が澄んでいて、とても気持ちがいいな。
いい天気だし。実に異世界転生日和だ。
異世界転生日和ってなんだよ。と、俺は思わず失笑してしまう。
「はぁ......」
最後の手段。
これを試してしまうと、他の方法が試せなくなるので、本当に最後の手段にはなるのだけれど。というか、最期の手段だ。
俺が転生したきっかけ。
そう、死だ。
死があってこそ、転生をする事が出来る。
なら、それと同じことをすればいい。だからといって、別にわざわざ同じトラックに引かれることは無い。
もっと方法は簡単だ。
「すぅ」
俺は大きく息を吸って
「はぁ」
吐く。
覚悟を決めた。心の準備はオーケーだ。
屋上の屋根の端っこに立つ。足の指を掛けて、飛び降りやすくする。
風も俺を手伝ってくれるように、背中を押す。
「やっぱり、この世界にお前達はいないんだな。待ってろよ、今から行くからよ」
俺は、足を蹴り出そうとした。
そのときだった。
「待って!」
あと少しだったのに。
俺を止めに来たのか、屋上のドアから人が来た。
なんだ、止めに来たのか。
「そういうのはやめなさいよ」
クラスメイトの女子二人だ。
よく見た事のある、俺の知り合い。
病院の先生よりも先に止めに来た。
「ほら、何か言わないと......」
「峰香、ごめん......もういいの......鳥羽がそうしたいと言うのなら、私は止めない」
「何言って......ッ!」
なるほど、ここまで来たのは自分の意思では無いのか。繋がれた手から察するに、無理やり連れてこられたのだろう。
「とにかく、ダメったらダメなの!その......異世界なんて無いし、死ぬのは良くない!」
「あるよ」
誰がなんと言おうと、異世界はある。
だって、俺がいたのだから。
異世界に行ったのだから。
「異世界はある」
「......ッ!な、無い!!」
ゴリ押しか。
「無駄だ。例えお前がなんと言おうと、俺は転生する。その先に異世界が無かっとしても、俺は行かなくてはならないんだ」
絶対に。
「......ほら、本人もそう言ってるんだし。もう止められないよ。私は、本人の意思を尊重する」
「そんな......」
物わかりが良くて助かった。
これで二対一だ。どうしても勝ち目はない。
俺は負けても飛び込む。ここから落ちて転生する。
もうそう決めたんだ。
「そういうことだ。そろそろ俺は、異世界へ行かせてもらうぞ」
「え、ちょ、ちょっと!」
「じゃあな、燕」
「......ッ!!」
俺は、今度こそ飛んだ。
足に力を込めて、精一杯蹴りたかったのだが、ほぼ落ちたようなものになってしまった。
まぁ、確実に死ねるけどな。
浮遊感が、全身を覆った。
変な開放感と共に、走馬灯のようなものが見える。
あぁ、これが転生か。
良いものだな。
俺は落下していく。
と思っていた。
「待った!!!」
ガクンっと、体に重力がのしかかる。
腕を引っ張られた。いや、掴まれた。
あの距離でここまで来たのか......なんて瞬発力だ。
「今、燕って呼んだよね」
「それがなんだ?俺は転生するんだ。邪魔をするな」
「いいやするね。私の名前を呼んだからには、死んでもらう訳には......いかない......よっ!!」
無理やり上げられた。なんて馬鹿力。
栄養不足の軽体重な俺とはいえ、女一人で男を持ち上げるのは凄い力だ。
俺は呆気なく屋上まで戻された。
「はぁ、はぁ、叩いてやりたい気分だけど、もしまたおかしくなられたら困るからやめとく」
「あぁ、そうしてくれると助かるよ」
俺は、なんだか疲れてしまった。
「それでもまだ死ぬ?」
「いや、なんかやる気失せた。もういい」
これは本音だ。
本当にやる気が無くなってしまった。
何故だろうか。
たかが女子に助けられたぐらいで、俺の思いが止められるとは。
我ながら単純な男だ。
「......なぜ助けた?」
名前を呼ばれたぐらいで、急に意思が変わるとは思えない。
何か特別な理由でもあるというのか。
「べ、別にそんなのないよ。ただ......ちょっと嬉しかっただけ」
嬉しかったか。
俺も、実の所は嬉しかっただけなのかもしれない。
自殺を、こんなにも全力で止めてくれたのが。
俺のことを何度も何度も構ってくれたのが。
俺は、燕が毎日会いに来てくれていたことを知っている。
俺は、燕が毎日俺に付き合ってくれていたことを知っている。
その時間は、親よりも長かった。
親は「こんな息子の姿、見たくない」と言って、すぐに俺から去っていってしまった。
だが燕は、ただ一人燕だけは、諦めてはいなかった。
あいまいな存在である異世界よりも、身近なところで必要とされたことが、ただただ嬉しかったのだ。
「燕」
「うぇッ!な、なに!?」
俺は、今思っていることをありのまま伝えた。
気持ち悪いって言われるかもしれない。
意味が分からないかもしれない。
それでも、言いたかった。
「ありがとう」
「────ッ!!?」
俺は、転生するのを諦めた。
それからというもの、俺達はほぼ毎日会うようになった。
もう退院しているのだが、家まで燕が来るのだ。
「やっほー!おっはよーう!」
「あぁ、おはよう」
俺は完全に異世界に行くことをやめ、この世界を楽しんでいる。
こっちの世界にはモンスターなんていないし、食料も簡単に手に入るし、何より燕がいる。
ロナもリリアも、レイラもイリスも、ここには誰一人いないけれど、それでもいい。
「ほら早く学校行くよ」
「分かってるって、そんなに慌てなくても間に合うよ」
今は学園ではなく、学校に通っている。
異世界に比べたら命の危険なんてないし、あの四神に比べたら、人なんて全然怖くない。
おかげで友達も増えた。仲のいい人が多くなった。この世界も楽しく思えた。気がする。
まぁそれでも、異世界が無かったとは思っていない。
未だにまだ、俺は異世界を信じている。
だって......
「能力は健在だからな」
俺は片手に火を灯す。
やはり使えるな。
まだ誰にも、燕にさえも話していないが、俺は魔術が使える。
今わかっているだけでも、火、氷、雷を放つことが出来る。
さすがに変身や、空を飛ぶことは出来ないが、ソニックブレードで手刀のようなことが出来たりする。
威力はまさにチェーンソー並だし、他の魔術も家電製品程度だが、これは明らかに以上だ。
俺の物語は、まだ終わりそうに無かった。




