変身奇術師
「変態貴公子?」
「違う。変身奇術師だ」
ロナの耳には、どうやらゴミが詰まっているようだ。
「それで、その変身奇術師という人がどうしたんですか?」
「あぁ、その人が今日うちの学園に来て、授業をしてくれるらしいんだ」
そうルアンナ先生に伝えられた。
「変身奇術師の名は、私も聞いたことがあります。過去に一度だけ魔術を披露して下さったのですよ」
さすがはイリス。
すごい人のだいたいは、イリスが会ったことのある人だ。
「すごい人でした」
うん。イリスの言葉だけでは全く伝わらないだろうから説明すると、変身奇術師というのはその名の通り、変身する人だ。
俺のいた世界で言うところの、マジシャンのようなものだ。
どんな魔術を使えるのかは知らないが、変身魔法は魔法なので、おそらくいくつかの魔法は使えると考えられる。
つまり凄腕のエンターテイナーということだ。
文化祭が出来なかった分、ここで大いに楽しみたい。
「しかし、授業ということは、芸をやって下さるわけでは無いのですね」
たしかに......俺はルアンナ先生から授業をやると聞いた。
誰も芸を披露するとは言っていないのだ。
だがさすがにエンターテイナーとして、少しくらいはやってくれるだろうと、俺は密かに期待していた。
特別集会。
ホールにて。
「どうも〜皆様こんにちは〜僕が変身奇術師の、ジルダ・カスケーロです〜」
俺の期待は見事に裏切られた。
奇術師は、挨拶代わりに自分の帽子から鳩を出してみせたのだ。
少しどころかガッツリ披露してくれた。
ちなみに、これは鳩に似た鳥ということで、この世界の立派なモンスターである。
ただ、どの世界もマジックショーには鳩がかかせないらしい。
一気に歓声が上がる。
「どうもよろしくです〜」
なんかちょっと関西弁チックで、親しみやすそうな人だ。
これから少しだけ先生になるので、ジルダ先生と呼ぶことにしよう。
「やぁ、君がライル君やね?話はルアンナから聞ぃたよ。変身魔法が使えるんやろ?どうや、僕と勝負しないか?」
集会が終わり、俺が教室へ戻るやいなや、ジルダ先生が話しかけてきた。
前言撤回。
初対面で勝負を提案してくる人に、親しみもクソもない。
というかこの人いつからついてきていたんだ?
「変身魔法や。得意言うたろ?あれ、言ってなかったっけ?」
俺の反応を読んで、質問される前に答えたのか。
まぁ、どの人も同じような反応をするからな。それだけ人を見てきたという証拠だろう。
この人は本物だ。
「その前に一つだけ聞かせてください」
「なんや?」
「ルアンナ先生から聞いたって、なんて聞いたんですか?」
それだけが気になった。
俺は、ルアンナ先生には口止めしておいてもらっていたつもりだったが、まさか俺の変身魔法がバレているとは。
後で問いつめる必要があるな。
「んで、闘ってくれんの?」
「なぜ俺が先生と......」
闘わなくちゃいけないんだ。
まぁでもマジシャンだし、格闘は強くないと見た。
なら、俺が勝ってもおかしくはないのか。
いやしかし、こうして先生となっている以上、俺達に教えられるほどの実力は兼ね備えているのか?
一度闘ってみるのも悪くない。
「その顔は......決心したって顔やな」
「ええ、いいでしょう。闘いますよ」
「ほな決まりや、早速始めよか。変身勝負を」
え?
変身勝負?
「え?変身勝負?って顔をしとるな。当たり前やろ。僕が勝てるわけないやんけ」
なんてこった。
同じ変身魔法の使い手として、負けられないってところか。
俺はこの人と闘って、例え勝ったとしても何も得るものは無い。
無論負けてもだ。
きっと面白い攻撃とかしてくるんだろうなぁと期待していた自分が馬鹿みたいだ。
一気にやる気が冷めてしまった。
「まぁ......やるって言っちゃったんで、やりますけど」
「ほなルールな。お互いに交互に変身して、相手の変身を真似られなかったら負け。相手の変身出来ないものに化けられたら勝ち。どや?」
「いいでしょう。負けませんよ」
「僕も負けへんで」
こんなふうに、俺と変態......じゃなくて変身奇術師のバトルが始まった。
出会って話をしてから数秒でだ。
「まずは僕からやらして貰います。ほいっ」
ボンッと、漫画みたいな爆発が起こった。
そんな面白い変身の仕方があるのか、どちらかというと変化って感じだな。
「手始めにゴブリンはどうや?」
ジルダ先生は一瞬で肌が緑になり、背が縮んだ。その姿はまさにゴブリンそのもの。
俺は人の変身魔法なんて見たこと無かったから、新鮮に感じた。
俺も対抗してゴブリンに化ける。
たしかにジルダ先生のクオリティも高いが、俺も自身はある。
何せほぼ常に人間の姿だからな。
「ほう、変身魔法は魔力量やその技術によってクオリティが変わってしまうもんなんだが......どうやらおぬし。やりおるな?」
そう、普通の人には扱えないのが変身魔法なのだ。
そもそも魔法自体、使える人は少ない。
「ならこれはどうや?スライム」
スライム。
ゴブリンとは違って人型ではない。
臓器などを透かさなくてはならないし、そもそもの体の作りが違いすぎる。
だがなんてことはない。
「俺も変身出来る」
だんだん楽しくなってきたな。
負けないけどな。
「くっ、ならこれは!」
アシッドスネーク。
のつもりなら、少し違うな。
俺は今まで二回も見てきたんだ。舐めてもらっては困る。
「アシッドスネーク」
「なっ......!?」
遂に少し揺らいだな。
というかいつの間にかルール無視して、俺が変身出来るかの勝負になってるし。
「う〜む。やるね。ならこれでどう?」
......!?
俺は度肝を抜かれた。
その姿にはとても見覚えがあって、しかしすごく違和感がある。
まるで自分が二人居るような。そんな感じだ。
「そ、その姿って......まさか」
「あぁ『エンペラーイーグル』や」
その名前を聞いたのはいつぶりだろうか。
あの魔王以来か?
そう、その鳥の姿をしたモンスターの名前は、エンペラーイーグル。
俺の種類だった。
「エンペラーイーグル......」
こんな顔をしていたのか......あまりにも人間の姿に慣れ過ぎていて、自分が鳥だということを時々忘れてしまう。
いや、前世では人間だったのだから当たり前か。
しかし、それにしても鳥の時の自分の姿は久しぶりに見た。
懐かしい気分だ。
そして俺が、この勝負で負けるはずがない。
「......」
俺は、変身を解いた。
変身勝負だが、変身を解いた。
変身する必要がないからだ。それが、俺の姿だからだった。
「......!?」
俺の姿を見て、ジルダ先生は驚いた表情をした。
「すごいクオリティだ......まるで本物やん」
先生ですら見たことのないと言う伝説級の鳥。
見ることが出来て良かったな。
よって、この勝負は俺の勝ちだった。
まぁ、勝っても特に何も貰えないけど。
その後は普通に授業を受け、ジルダ先生との出会いは終わった。
ジルダ先生のおかげで、俺はモンスターとしての自覚を、再び思い出すことになった。




