間に合え
俺は毒が廻っていて、一旦退かなければならない。
だが、レイラが蛇の気を引いている。俺は不意を打たれたが、レイラはその俺を見てなんとか逃げ延びている。しかし時間の問題だ。一刻も早く助けたいところなのだが、ロナは水から冒険者達を守るので精一杯。リリアはロナの手助け。誰も動ける人はいなかった。
「状況が悪い......」
早くしないと、俺も毒が全身を廻ってくる。
イリスに治して貰わなくてはいけないってのに。
「あぶねっ」
俺が少しでも逃げようとすれば、蛇が躊躇無く攻撃して来る。
オマケに亀は今も進行中だ。しかし幸運なことに、水の塞き止めは完了している。
もうこれ以上ブラータスが進行してくることはないと思われた。
だが甘かった。
「おい、嘘だろ......」
冒険者達が落とした、大きな岩は、大量の水によって浮き上がってくる。
そして、岩は完全にどかされてしまった。
またブラータスの進行が始まる。
「水を操るって、そんなに力があるのかよ」
これでは、王都に侵入するのも時間の問題だ。
誰もが諦めかけたその時、斬撃がブルータスの甲羅に入った。
「俺に任せろ」
アルスだった。
しかし、甲羅には全く傷がついていない。
だがそれでも、蛇が初めて俺とレイラから目を離した。
「ナイスだアルス!それだけで充分逃げられる!」
ロックオンが外れたことによって、俺はなんとか逃げることに成功。
アルスの助けで退くことが出来た。
「ライルさん!」
「イリスか、すまない。毒が盛られてる」
「すぐに治します」
ヒールなら俺も使えるのだが、解毒までは出来ない。
それに、俺よりもイリスの方が治す能力は高い。傷一つないくらいに、一瞬で治せる。
「ありがとうイリス」
毒が廻ってきたのか。気持ちが悪い。
吐き気がするし、目もチカチカする。意識が朦朧としていて、真っ直ぐ歩くことも出来ない。
「ライルさん、安静にしていてください!」
俺は、無理やり引き留められる。
たしかにこのまま行ったところで、俺は何も出来ないな。たまには休ませてもらうとしよう。
そう考えてしまうほどに、調子が悪かった。
「はぁっ!」
キンッ!
弾かれる音がする。
これは、アルスの剣か。ブラータスの甲羅は相当硬い。それに、その甲羅には素早過ぎる蛇が巻きついていて、近づくことがそもそも困難だ。
あの蛇は、動きの鈍いブラータスが、自らを守るために自分で巻き付けたモンスターだと思っていたが、どうやら亀と蛇でブラータスみたいだな。
「アルス、連携して」
「そんなこと言ってる暇はねぇ。さっさと片ずける!」
蛇に向かって飛びかかるアルス。
しかし、蛇はアルスに大口を開けて待ち構える。
そして、
「ぐあっ」
また俺と同じ。
空中では身動きが取れない。つまり、全く避けられないし、防ぐことも出来ないということだ。
だが、アルスはギリギリのところでかわした。
レイラが庇ったのだ。
「うぅ!!ぐっ!」
「お、お前!?」
自分を庇ったレイラに、驚いているアルス。
レイラは、背中に大きな傷を負ってしまった。
「クソ、レイラ!!」
俺は、ボヤける視界の中で立ちあがった。
まだ足はおぼつかない。
「ライルさん!駄目です!いくらライルさんでも、まだ回復しきっては無いでしょう?」
さすがは四神といったところか。
解毒の魔術でも、まだ効果が残っている。
それに、左肩の傷も全く癒えない。
これがヘラルドさんの食らった技だな。
「尚更だ。俺がこのかすり傷程度で死にそうなら、レイラはもう致命傷だ。俺以外動けるやつはいない」
「ライルさん......」
重たい足を無理やり動かす。
そして、左肩を抑えながらもアルスとレイラの元へとたどり着く。
「アルス、レイラを連れてイリスの元へ行け」
「いや、俺は闘う」
「お前を庇って怪我したんだ!お前が看病してやれ!」
俺も少し強く言いすぎたと、後になって後悔した。
レイラを傷つけられて、少し怒っていたのだろう。
アルスも、驚いた顔で黙り込んでしまい、急いでレイラを運んで行った。
「さて......この変身中の姿でも、どれほどの力を出せるのか。限界を試そうじゃないか」
意識を集中させる。
魔力を全身に回すことで、毒の効果は薄れた。
「出し惜しみはしない。全力で行くぞ」
俺は全身自己身体強化の魔術をかける。
高速、強力、防御、全てのステータスを上げる。
『エンペラーウィング』
俺の背中から、二枚の大きな翼が生えた。
魔王の固有魔法の一つ、エンペラーウィングだ。
本当は鳥の状態で発動する、身体強化魔法なのだが、今回は人間の姿で使った。
だから少しだけ効力は落ちるが、充分発揮できるだろう。
この魔法は、爆速が出せる魔法だ。
爆発音。
のような音は、俺が地面を蹴りあげると同時に発生した。
一度地面を離れれば、後は地面に着くことが無い。宙に舞う。
俺は、蛇の周りをグルグルと高速で回る。
「どうした?目が追いついていないぞ」
蛇は、見るからに戸惑っている。
俺の速さについていけてないようだ。
俺は飛びながら剣を抜き、蛇の方へと突進した。
「スラッシュ!!」
しかしさすがは高速の蛇。
ギリギリでかわされた。
こちらとしても、ウネウネと動かれては、動きが読めずに狙いが定まらない。
だが、この蛇は速いのが強み。
なら、その速ささえ取ってしまえば後は簡単だ。
「ヘビクイワシって知ってるか?」
俺の世界にいた鳥だ。
ヘビクイワシはその名の通り、ヘビを食う鷲。その狩の仕方は、
「キックだ」
俺はその速さに乗せて、思いっきり蛇の顔面を蹴った。
蛇は、今までずっと身体の方に攻撃をされていて、ここに来て顔に攻撃されるとは思っていなかったようだ。
命中すると、少しぐらついた。
その隙を俺は見逃さない。
すぐさまその顔面をタックルするようにして、亀の後ろ側へと押し倒す。
そして、片足も変身を解除する。
鳥の足にらなった左足で、蛇の顔を鷲掴みにして押さえつける。
蛇は動けない。
それに、この距離ならかわせないだろう。
俺は剣を振り上げて、一撃。
斬った。
ズシャッという音と共に、血が吹き出す。
「まずは厄介なのを倒せたな」
次は亀の方。こいつは甲羅が硬くて、全く攻撃が通じていない。だが、蛇に攻撃は任せていたようで、亀自体の戦闘力は低い。
「隙間を探すか」
俺はもう一度高速で飛び、亀の甲羅を隅々まで斬る。
だが俺の剣でも甲羅に傷一つつかない。
するとその時、亀が動き出した。
前足の片方を大きく上げた。
「なんだ......?」
そして......勢いよく落とす。
踏み潰すようにして落とす。
その衝撃で、亀の正面の地面には亀裂が入った。まさに文字通り亀裂。
亀裂だけではない。地面が盛り上がったのだ。
まるで地面の下から、強風でも吹き上げたのではないかと思うほどに、砂埃と土が舞い上がった。
その衝撃によって、冒険者の大半がやられてしまった。
光線とは違って、地面そのものからの攻撃なので、防ぎようがない。
「クソ!」
なんて威力だ。
動きこそ鈍いものの、こんなにも威力が高くて、さらに防御が徹底しているとはな。
だがそれでも、俺は負けない。
「鳥は亀だって仕留める。その方法は......」
上から落とす。
そう、亀を持ち上げて空中から落とすのだ。
そして地面の石などにぶつけて、甲羅を割る。
だが、そんな落とす程度ではこのブラータスの甲羅を割ることは出来ないだろう。
だから剣を使う。
「アルス!俺の剣を逆さまに地面に刺せ!!」
俺は、イリスの所にいるアルスに向かって叫んだ。
剣を地面にさして、飛ぶ。
両足とも変身を解除し、大きな亀を鷲掴みにする。
「重たいな......だが、持ち運べない程では無い!!」
翼を全力で羽ばたかせる。
両腕も使って、ブラータスの甲羅を掴む。
そして、空へと運ぶ。
「うおおおおおお!!!!!」
少しづつ。ほんの少しづつだが、ブラータスは宙に浮いてくる。
地面に目をやると、俺の剣をとても重たそうに持つアルスの姿が見える。
「アルスうううう!!!限界だ!!全員!!離れてろ!!!!!!」
もうほぼ叫んでいて、何を言っているのか伝わったか分からない。
だが、こっちの力も限界だ。
全員が逃げたと信じて、ブラータスを落とす。
「どこでもいい、剣が刺さればそこから傷を作ることが出来る」
俺は安心した気持ちになっていた。
アルスにお礼を言おうと思い、アルスを探した。
あれ?アルスがいない。
アルス?
「まさか!?」
まだ下に!?
「クソ!」
俺は全速力で下に向かう。
ブラータスが落ちるよりも先に、速く飛ぶ。
「間に合ええええええ!!!」
地面ギリギリで急ブレーキ、やはりアルスがいた。腰を抜かしていて、動けないようだ。
「アルス!!」
俺は、一瞬で方向転換をし、ほぼ突進してアルスを掴んだ。
ブラータスの面積は広い。
速く、速く、速く、速く、速く、速く!!!
「うおおおおおお!!!!!」
本当にスレスレのところで、間に合った。
俺はブレーキが出来ず、そのまま壁へ飛び込んでしまったが、アルスはなんとか守れた。
俺が壁にぶつかると同時に、ブラータスも地面に落ちた。
「ライル!?」
「ライルさんっ!!」
みんなの姿が見える。
心配そうな顔しやがって......俺は大丈夫だと、親指を立ててみせる。
それを見て、リリア達はほっとしていた。
「俺達の、勝ちだ」
自分の中では、神作画でした。




