水亀ブラータス
前話に、加筆があります。
読んでいない人は、そちらから読んで下さることをお勧めします。
「水亀ブラータス」
それがやつの名前だと、ルアンナ先生が言った。
四神の一体、ブラータス。
見た目は玄武そのもので、とても大きく、真っ黒な体はまさに災害をもたらすものと言えるだろう。
だが、前回のアジュードラとは違い、空を飛んでいないというのが救いだ。
それに、今回は早めに気付くことが出来た。
水路にいるというのにも、おそらく理由があるはずだ。そこから読み取れるのは、水辺にしかいられないということ。
例えそうでなくても、アジュードラのように早い移動は出来ないはずだ。
「まだ打つ手はある」
作戦を練ろう。と、俺は提案した。
しかし、皆はあまり乗り気ではない。
諦めかけたような雰囲気だ。
「どうした?」
「......ブラートスはアジュードラよりもはるかに強い」
それは、ヘラルドさんによく聞いていた。
何を隠そうヘラルドさんは、四神の中でもブラートスと闘って敗れたのだ。
あの永久リジェネはそのせいだ。
「しかし、その強さを知っている」
技を知っている。
アジュードラの時とは違い、闘いの経験者がいるのだ。
ヘラルドさんに事前の情報は聞いている。ある程度の技なら把握出来た。
「俺は奴の手の内を知っている。だから、まだ勝機はある。どうか諦めないで欲しい」
「......」
皆は少し考えると、だんだん表情が明るくなってきた。
「そう......だよね。ライルは一度倒してるんだし」
「そうですよね!ライルさんならまた倒せます!」
「もう一度、私も手伝う」
ロナもリリアも、レイラも自信が戻ってきた。
すると
「ん?一度倒した......?」
「あれ?王様知らないんですか?アジュードラを......あ!」
しまったと思ってももう遅い。
王が察するには充分すぎるほど、話してしまったのだ。
だが、それでもまだ信じられないというような表情をしている。
「まさか......アジュードラはライルさんが?」
これはもう隠しようがないな。
まぁ、無事入学もでにてることだし、今更隠すことも無いか。
「ええ、まぁそうです。俺、というか俺達で倒しました」
「本当に!?」
イリスも、驚きを隠せないでいる。
「証人と言っちゃあなんだが、ルアンナ先生が知ってるぞ」
「えぇ、本当よ」
今すぐにでも表彰式を上げたいと言われてしまった。
今はそんな時ではないだろう?
「今はブラータスを倒すのが先だ。作戦を練ろう」
本当は、もっと早くに対策しておくべきだった。
学園祭なんて呑気なことしてないで、危機感を感じていなければならなかったのだ。
だが来てしまったものは仕方がない。
ブラータスは今も、刻一刻と迫って来ているのだ。
「伝説級のモンスターに、作戦も何も通用するのか?」
アルスが真面目だ。
さすがのアルスも、今回だけは突撃しないそう。それと、俺がアジュードラを倒したと知って、信用してくれているようだ。
「下手に攻めて死ぬよりは、勝率が上がるだろう。それに、絶対に誰一人として死なせたりはしない」
作戦はこうだ。
まずは。ブラータスのいる水ごと塞き止める。それ以上の進行を止めるのだ。
そして壁か何かに登り、上から攻撃をする。
おそらく、亀の方が本体なのでそちらからの攻撃は受けないようにできる。
上の蛇も、俺が近くで気を引く。その間に魔術で遠距離からの攻撃。
問題は、アジュードラが木々を操ったように、ブラータスも水を操れると予想できる。
そこで、水を抜く。
俺がヘイトを買っているうちに、アルスに穴を開けてもらい、水抜きをしてもらう。
それによってどんな影響が出るのかは不明だが、何らかの弱体化にはなることだろう。
「よし、皆行くぞ!」
おう!
ギルドに居た冒険者達も連れてきた。
今回の作戦担当は、ギルドで一番の策士らしいので期待できる。
作戦実行だ。
まずは筋肉モリモリの冒険者達が、岩などで水路を断つ。
「そぉりゃ!!」
ブラータスは一切邪魔をしてこなかった。
遠距離攻撃を持っていないのだろうか。
作戦は順調に進む。
次は高所、遠距離からの攻撃。
魔術を込めた弓を撃つ。
が、ブラータスは回避はもちろんのこと、防御もしなければ反撃すらしてこない。
蛇も甲羅に巻きついていて、顔すら出さない。
だが、効いている様子はない。
「俺やアルスの攻撃でもビクともしないな」
まるで効いていない。
ブラータスは、少しも歩みを止めることなく近ずいて来る。
「やっぱデカい」
「おい、集中しろ」
だってデカいんだもん。
こいつの中身を取り出せば、中に家を建てられそうなくらい大きい。
「それにしても攻撃してこないな」
結構近付いてきたし、魔力も尽きてきた人が多いので、一旦止めた。
するとその時、
「オオオオオオ!!」
ブラータスが叫んだ。
それと同時に蛇が顔を出す。
「なんだ!?」
ブラータスの叫びの反響が聞こえなくなると、ブラータスの口が大きく開かれた。
そう、アジュードラと同じく、魔力光線だ。
しかしアジュードラほどの魔力量は感じない。
だがそれでも危険なのには違いない。
「ロナ、防御!!」
「任せてよ、プロテクト・シールド!!」
前方に魔力の壁を張る。
ロナもリリアも前より強くなっている。
これくらいだとギリギリか。
「リリア!」
「はいっ!フォーム・アップ!」
リリアに、ロナを強化させた。これで耐えられるはず。
だが、蛇が不振な動きをした。
頭を高く上げ、口を開く。
まさか......
「威力が低いのは分割しているからだ!もう一発撃ってくるぞ!!」
魔力光線が放たれる。
動けるのは?
俺だけか!
「間に合え!」
蛇はあらゆる方向を向いていて、照準が分からない。だが、俺の速度なら届く!
「シールド!」
バチィ!!っと音が鳴る。
ギリギリ間に合った。
俺のシールドによって、光線は流されている。だが、少しでもずらせば弾き飛ばされてしまいそうだ。
「ぐっ!」
なんとか止め切った。
奴め、俺達の魔力が尽きるのを待っていたな。
なかなか手強いな。
「アルス!今のうちだ!」
「分かっている!」
光線を撃ち終えたクールタイム。
近づくなら今しかない。
アルスは高速で接近し、懐へと侵入する。
そしてブラータスのいる水に、剣を突き刺した。
「な!?」
しかし、アルスはすぐに戻ってくる。
「どうしたアルス?」
「思ってたよりもずっと深い、これじゃあ全部抜くまでに日が暮れちまう」
それに、どうやら水も操りだしたようだしな。
水が渦を巻いて、空高く上がっていく。
その渦から何が飛び出てきた。
そして何かは、俺達に向かってくる。数発しか無かったので、かわすのは容易だったが、俺達はその何が付けた跡を見て驚く。
「こいつ、水か!?」
「なんて水圧だ......!」
こんなの、鎧でも穴が空いてしまうぞ。
高圧洗浄機なんて生易しいものでは無い、まるで銃。銃弾だった。
「なら、水は抜かずに倒すしかない」
「でもどうやたって?」
「他の冒険者は竜巻から飛んでくる水針を防ぐのに必死だ。俺とレイラで蛇を引きつけるから、お前が斬るんだ。アルス」
アルスの有無を聞いている暇は無い。
俺は返事を聞く前に走り出した。
「レイラ!」
「ん!」
レイラと二人で走る。ブラータスの巨体を、二手に分かれて廻り込む。訓練した動きだ。
ブラータス本体は動きが鈍い。
直線に歩くので精一杯だ。だから引きつけるのは上の蛇。
「こっちだ!」
蛇はシャー!っと威嚇している。しばらく俺達を目で追っかけていたが、遂に動き出した。
ヒュッという風を切る音。
それが、左耳で聞こえた。
「え」
俺は唖然として突っ立っていた。
「ライル!」
今、見えなかった。
蛇が少しだけ動いたのは見えた。だがその次の瞬間には、もう俺の左耳肩をかすっていた。
驚きのあまり動けなかったが、運のいいことにかすっただけで済んだようだ。
長い長い体が、一瞬にして元の位置まで引っ込まる。
そして再び、蛇の顔がこちらを睨んできた。
もう一発は来ないのか?さっきはかすっただけだったのに。
いや、かすっただけでも充分なのだろう。
俺は、左肩の傷を見る。
服は余裕で貫通。
傷は、緑色に変色していた。
「毒か」
どうやら弱らせて、後で食おうってことのようだ。
だがその考えは甘かったな。
「インビジブル」
俺は姿を透明にさせて、逃げる。
しかし、蛇はまだ俺を追って見ている。
そうか、蛇にはピット機関があるんだった。
あまり視力の良くない蛇は、このピット機関を使って、温度で獲物を見分ける。
俺が姿をくらまそうが、蛇にはお見通しというわけだ。
「さて、どうしたものかな......」
一旦退けば、イリスに解毒してもらえる。イリスは優秀なスーパーヒーラーだ。
リリアは攻撃や防御、強化に特化させすぎてしまった。イリスには安全なところでサポートしてもらいたい。
だが、そのためには俺が逃げ切らなければならない。
早くしないと毒がまわってくる。
わりと厳しい状況だった。




