勇者の息子と勇者の孫
「今日の練習は終わりだ。もう帰ってくれ」
「......はい」
普通なら、ここで俺はノーと言うべきだろう。
だが、素直に言うことを聞いた。
ランベルトさんが、笑っていなかったからだ。
これ以上、話したくないのだろう。
だから俺は、これ以上のことを聞かなかった。
『勇者なんて向いていない』
そんなことを、勇者の孫であるアルスの、実の父親から聞くなんて思っていなかった。
なぜそんなことを言うのかは知らない。
だが、ランベルトさんとアルスの間には、明らかに何かがあることが分かる。
だから俺は、迷いつつもアルスにこのことを話した。
「そうか......まさかお前が親父と......」
ユニオンへの勧誘として、アルスの父親であるランベルトさんに俺が呼ばれたこと。
そして、ランベルトさんがアルスのことを勇者に向いていないと言ったこと。
その事を話し、事情を聞いた。
「なぁ、お前の親父さんだろ?」
「そんなこと、お前が首を突っ込む話ではない。俺はあんな奴とは決別したんだ」
あんな奴、決別。とても親に言うような言葉ではない。
だが、気持ちはわかる。
そんなふうに、自分のなろうとしているものに「向いていない」だなんで言われるのは、とても嫌なものだ。悲しくなる。
「そうか......悪かったな。思い出させてしまって」
「いや、いい。いつも覚えている。忘れられた日なんて、一日もない」
アルスに聞いても、話してはくれなかった。
たしかに、他人の俺が首を突っ込む話ではない。だが、俺に何か出来ることはあるはずだ。
アルスが、ランベルトさんがこんな思いでいていいはずがない。
「そういえば、ランベルトさんが『ルアンナか......』とか言ってたな」
ルアンナ先生なら何か知っているのかもしれない。
俺はルアンナ先生を訪ねることにした。
「ルアンナ先生。ランベルトさんについて聞きたいことが」
「何かしら?」
「アルスとランベルトさんって、親子なのに仲悪いのですか?」
その質問を聞いた途端、ルアンナ先生の顔が強ばった。
だんだん笑顔が消えて行き、真剣な表情へと移り変わる。
「あまり他人に言ってはならない話なんだけれど、アルス君ならと思って話すわ」
ルアンナ先生は、低いトーンで話し出す。
アルス君は、勇者の家系に産まれた、勇者の孫だった。勇者の孫ということは、父親は勇者の息子、ランベルト。
ランベルトは、勇者である父親の力を受け継ぎ、その力でモンスターを倒していった。
しかし、どう頑張っても父である勇者を超えることは出来なかった。
そして、息子が産まれ、その息子に継がせる事にした。
自分にはなれなかった勇者に、息子アルスならなれると。そう信じていた。
だが、世代を次ぐごとに勇者の力は弱まっていき、子供の頃のアルスは他の子供と比べ、なんの変哲もない子だった。
しかしそれでもアルスに努力をさせ、勇者にさせようとする。
そしてついに、アルスは普通の子供よりもずば抜けた能力を持った。
でもそれは勇者の力ではなく、ただのアルスの力だった。
努力したら誰でもなれる、特別ではない力。
勇者の才能が無いアルスは、やがてランベルトに見捨てられ、勇者候補から外される。
ここで完全に決別。
残ったアルスは、悔しさのあまりに必死で修行し、今のような勇者候補を名乗れるほどの実力を付けている。
「つまり、アルスの実力は勇者の力では無かったってことか......」
それはそれで凄いことである。
俺に次いで二位の実力者は、特別な力を持っていない、ただの努力家だった。
「勇者の息子ランベルトと決別しても、もう貼られたレッテルは剥がせない。勇者の孫としてのプレッシャーは、ずっとアルス君を苦しめていたの」
そうだったのか......アルスは、俺が思っていたよりもずっと頑張ってきたのだな。
俺は、話を聞いた直後、すぐにランベルトさんの方へ向かう。
「ちょっと!どこへ行くの?」
「決まってるでしょう?ランベルトさんに一発ぶち込みに行くんですよ」
アルスは今では同じ仲間だ。
そんな仲間を捨てた最低な奴は、例え父親であろうと許さない。
一発殴らなきゃ気が済まない。
「ランベルトさん!」
「なんだい?ライル君」
俺は強くなった。
ランベルトさんに教えて貰ってからというもの、ずっと強くなっている。
だから、ここで試す。
「俺と闘ってくれませんか?そして俺が勝ったら、アルスのことを教えて下さい」
「......どこで聞いたかはだいたい分かる。良いでしょう。ただし私に勝てたらだけどね」
勝って見せようではないか。
「それでは日時は......」
「君さえ良ければ今にでも」
なんだ?少しわくわくしていないか?
俺と闘えるのが、よっぽど嬉しいらしい。
あまり舐めてると痛い目にあうぞ。
「では、やりましょう。今ここで」
「うむ。かかってこい!」
俺達は、お互いに剣を抜いた。
一人は期待を胸に、もう一人は仲間の怒りを胸に。
「はぁ!」
「ふん!」
同じ技で、全く同じようにぶつかり合った。
ランベルトさんの使いそう技を、あえて俺が選んだのだ。
今のところ互角、はやり強いな。
「一撃目から分かるよ。君は私には勝てない」
「たしかに経験では勝てません。しかし、能力値で言えば......」
ルアンナ先生に聞いていた。
『勇者を超えることは出来なかった』と。
ならば、勇者に敗れた魔王でも、勇者の息子ならば勝てるはず。
問題は力では無く、俺の技量。
上手く使いこなせ!
「うおお!」
「まだまだ動きに無駄が見える。そんな感情を込めた攻撃では、私には勝てない!」
何度やっても弾かれてしまう。
まだまだランベルトさんのは余裕がみえる。
だが、俺だってまだほんの少ししか実力を出していない。
「死ぬかもしれませんので、覚悟して下さい」
「かかって来なさい」
俺の知っている限りで、ランベルトさんに通用しそうな魔術は、全て使う。
しかしどれも防がれたり、避けられたりしてしまう。
なぜだ!まるで動きを読まれているかのようだ。
あんなに練習したのに......突如俺は動きを止めた。
それに合わせてランベルトさんも止まってくれる。
「どうした?もう諦めたのか?」
そうか、あんなに練習すれば動きくらい読める。
ランベルトさんは知っているんだ。俺のクセや、動き方、考え方を。
それを瞬時に実践へと活かせるのが、さすがは勇者の息子だ。
だが、それさえ分かってしまえば簡単。
対ランベルトさん用の攻撃。
「単純な魔力で押し切る!ショット!!」
連続で魔術光弾を撃ち込む。
ランベルトさんは全てかわしてみせる。
だがそれは読めていた!
「!?」
ランベルトさんの驚いた顔が、俺の目の前にある。
そこまで距離を詰められたということだ。
そして、この距離でかわせるものならかわしてみろ。
「アイシンクル・バインド!!!」
「なに!?」
一瞬にしてランベルトさんの手足が凍る。
これでもう身動きは取れない。
「ボルト・アロー!!!」
ランベルトさんの周りに無数の矢が現れる。
ランベルトさんに見せたのは、ほとんどが自己強化の魔術。
単純に魔力でゴリ押せば、俺の動きも読めまい。
「この魔力量......異常だな」
「褒めていただき光栄です。では......俺の勝ちです」
ショット。
無数の矢は、全方向か、ランベルトさんに向かって発射される。
そして、電気を帯びた矢はランベルトさんでは無く、その凍った身体に命中する。
氷は分厚く、ランベルトさん本体には届かない。
しかし、雷は走る。
氷を貫通して、電撃だけがランベルトさんを攻撃した。
「ぐっ!」
「属性無効の強化魔術とか使われてたら嫌なんで、トドメです」
俺は、殴りかかる。
こんな動けない状態では、ただのパンチでも避けられないはずだ。
魔力を込めたパンチ。
それを振りかぶって......その瞬間に氷が割れた。
「甘い!」
「フラッシュ」
ビカッ!っと、俺の手のひらから光を放った。
ランベルトさんは俺のバインドを破り、先に攻撃しようとしていたが、それこそが甘い。
そんなこと読めていた。
だからこちらも、目くらましのフラッシュを準備していたのだ。
「な、なに!?」
見えていないのなら、良いだろう。
俺はこっそりと腕だけ変身を解除した。
解除した腕は、翼になる。
やはり変身した状態では、力が半分程しか出せないな。
「ソニック・ブレード」
恒例の魔術だ。
使いやすく、そして威力も高い。
「今度こそ俺の勝ちです!!」
そして俺は、翼で斬りつけた。
もちろん肉体は傷付けないように気をつけはしたが、わりと力を入れたので、多少は傷が残るかもしれない。
まぁ、それくらいやらないと倒せないからな。
ドゴォン!と音を立てて、ランベルトさんは地面へ叩きつけられる。
大きなクレーターが出来てしまった。
「......ライル君、強く......なったね」
すぐに起き上がって来るところに、また驚かされる。
「ランベルトさん、俺の勝ちです」
「あぁ。約束通り、君に話をしよう、久々に楽しませて貰ったことだしね」
そこから、ランベルトさんは過去のことを話してくれた。
「アルスは生まれつきそんなに強くなくてね、勇者にはとてもじゃないけどなれるような能力を持ち合わせていなかった。それは、勇者の息子である俺が一番よく知っていた。だから、アルスには向いていないと、俺がアルスを勇者候補から下ろしたのだ」
それはルアンナ先生から聞いたことと同じだった。だが、ランベルトさんは悲しそうに話している。
「なぜ......?降ろしたんですか?」
「可愛そうだったからだ。どうしても出来ないことを期待されて、知りもしない祖父と比べられて、そうやってストレスの中で生きていて欲しくなかった......だから、少しでも勇者の孫だとバレないようにと、俺が離れたのだ。せめて普通の男として過ごして欲しいと......」
そうだったのか......ランベルトさんは見捨てたわけでは無かった。
ただ可愛そうだったから、自分のせいで変な期待をされて、辛い思いをさせたくなかったから。
「でも、残念ながらその思いに反した」
「!?」
森の影から、人が歩いてくる。
そう、アルスだ。
「アルスは俺が説得して連れてきた。父親の本音を聞かせるために。俺がアルスのことを聞いた時、ランベルトさんは悲しそうな表情をしていました。そんな表情、本当に捨てたのなら出来ません」
「ライル君......」
でも、その思いは届かなかった。
逆効果、とまではいかなかったが、ランベルトさんが離れた効果は全くと言っていいほど受けなかった。
「親父がいなくなったのに、俺への期待は高まるばかり。いつ強くなるのか、いつ勇者になるのかと、町中の人から言われ、期待され、俺はもうなるしか無かった」
強くなるしかなかった。
勇者候補から降ろしていたつもりが、全く出来ていなかった。
「だから俺は勇者を目指した。目指して、特訓して、努力して、ここまで強くなった。そしていつしか目指すようになっていたんだ。顔も知らない祖父のことを」
「アルス......お前......」
ランベルトさんの目には涙が浮かんでいた。
美しい、透き通った涙だ。
「だからよ、もう決別は終わりだ。離れる理由は無くなった。帰って来てくれよ、クソ親父」
「あぁ、すぐにでも戻るさ。馬鹿息子」
二人は泣いて抱き合った。
声は出さない、男の涙だ。
俺も少し、もらい泣きしてしまいそうだ。
「すまないな......アルス、私はお前を......」
「いいんだ。お互い様。それよりも俺にも教えてくれよ。昔みたいに」
「あぁ......ありがとう」
良かったな。
これにて一件落着。
本当はランベルトさんは悪い人じゃなくて、良い父親だった。
「ありがとう、ライル君。私は君にどれだけ感謝してもしきれない!」
「いえいえ、こちらこそ闘いを教えて下さり、ありがとうございます」
本当にありがとう。
その言葉を聞けただけでも、俺は嬉しかった。
そして俺は、学園へと帰る。
親子水入らずの所を邪魔するわけにはいかない。
「勇者候補か......魔王でも勇者になれるのかな」
勇者は二人でもなれるのか。
という考えをしてしまった。我ながら変な発想だと思ってしまう。
だが、もし本当になれるのであれば。
いつかアルスと、俺の仲間達とともに、旅でもしてみるのは面白そうだと思う。




