必殺魔術
ランベルトさんの所にお世話になってから、数日が過ぎた。
ランベルトさんは教えるのが上手くて、とても強い。
さすがは勇者の息子!と言いたいところだけれど、怒ると思うので言わない。
それにしても、ユニオンでの訓練期間は週に数回だと言われてたけれど、俺はほぼ毎日行っている。
まぁ、それだけ学べることも多いからな。
やはり、プロの闘い方を知ると、今までの俺が初心者だったとよく分かる。
振り返れば、力と魔術でゴリ押しの脳筋戦法だった。
「いやぁ、しかし。君はだいぶ強くなったよ」
「いえいえ、ランベルトさんのおかげです」
「だが、まだまだ学ぶことは多い。今日はそのうちの必殺魔術を教えてあげよう」
必殺......魔術?
必殺技ってことか。
「簡単に説明すると、これぞというときに使う技だ」
さっぱり分からん。
「要するに、ひとつの技として完成している魔術ということだ。例えば......」
ランベルトさんは木に向かって剣を構える。
少し屈んで、剣を両手で持っている。
「ラピッド・ストライク」
魔術を唱える。
すると剣が光りだし、高速で突きを放った。
何撃か分からないくらい高速に、まるでたくさん剣があるかのような速さだった。
そして放ち終わると、ズタズタになった木が折れた。
「これが必殺だ」
なるほど分からん。
今までの上手な教え方はいずこへ。
「まぁ、これは下級の中の下級だな。上級を見ればお前もしっくりくるだろう」
ランベルトさんはそう言うと、剣を、まるで納刀するかのような動きをした。
もちろん日本刀では無いし、ランベルトさんは邪魔だと言って鞘を捨てるので、腰には何もかかっていない。
だが、明らかにあれは居合。
その構えだった。
「三閃」
その瞬間、ランベルトさんの剣が消えた。
一瞬だけ見えなかった。
しかし木は横に真っ二つ。
「おお......」
さらに驚くべきは、木に付いた傷が三本あるということだ。
少しだけズレて後がついている。
「三閃。光の速さで三連斬りを繰り出す技だ」
なるほど、そういうことか。
魔術というのはただ単に、魔力を消費して発動する超能力のようなもの。
それに比べて技は、魔術と技術を混合させて、ひとつの型のようなもの。
まさに必殺技。
スキルみたいなものだ。
「なんとなく分かって来ました」
「そうか。なら、君も練習だ」
「はい!」
今のような技が使えたら、きっと有利になるだろう。
闘いは立ち回りや力、魔力量だけじゃ無い。
技術も必要となる。
それらをフルに生かせる者が闘いに勝つ。
「それじゃあまずは、あそこのモンスターで試そうか。私が先にやるから、とにかく見様見真似でやってくれ」
そう言うとランベルトさんは、大きな蜘蛛型のモンスターの目の前へ行く。
「まずは一閃。さっきの三連撃は見えていただろう?それの一撃版だ」
スッという音がした。
素人が見たら、何をしたのかさっぱり分からないくらいだ。
蜘蛛も、自分が斬られたということに気付かない様子。
「ふう、だがこの技の弱点は二つある。一つは、このように気付かないこと。モンスターなら、大抵は再生能力が高い奴が多いから、一閃だけじゃ治されてしまう。気づかないうちにね」
なるほど。傷口が細すぎて、すぐにくっついてしまうのか。そこで三閃にすることで、傷口を広げることが出来るというわけか。
「それともう一つは、射程距離。見ての通り、超至近距離じゃないきゃ当たらないし、この魔術は発動に構えを要する。気が付かれて距離を取られては、どうしようもない」
そういう点では、別に最強というわけでは無いのか。
強い故の簡単な弱点。
「次、ライル君」
俺も、巨大蜘蛛の前に立つ。
ゼロ距離。
剣を刀のように構える。
そして
「一閃」
ランベルトさんの授業で習った。
剣撃は力任せでは無く、あえて力を抜くことで、より正確に斬れる。
そして、力に頼れば無駄な動きが増える。
だから、俺は力を抜いた。
まるでモンスターの皮膚を撫でるかのように、そっと。しかし素早く。
すると、自分でも驚くほどの速度が出た。
「!?」
そして、気付けばモンスターは真っ二つに。
大きすぎて、奥まで刃が届かない。
射程距離的に真っ二つにすることは不可能だ。
だが......
「驚いた......まさか剣撃を飛ばすとは......」
ランベルトさんも驚いている。
しかしすぐに、その表情は喜びに変わった。
「さすがだよライル君!一瞬でら取得するだけでなく、さらに弱点を克服するなんて!」
「あ、ありがとうございます......自分でも驚きです......」
「これならすぐにでも三連。いや、四連五連と、何連撃でも出来るんじゃないか?」
そんなに出来るのかは分からないが、とりあえず三連は出来るだろう。
自分でも分かる。この技は得意だ。
「なら、もう一つ教えておこう。これは、武器を使う冒険者にとって必須だが、使える者は少ない魔術だ」
珍しいな、ランベルトさんが攻撃以外の魔術を教えてくれるなんて。
「まぁ、君の場合は見せた方がいいな」
ランベルトさんは自分の持っていた剣を遠くへと放り投げた。
地面に刺さる。
「例えばこんな感じで吹っ飛ばされるとする。そしたら、取りに行けないだろ?」
「ええ、まぁ。普通は逃げつつ取りに行きます」
「そうだろう、そうだろう。しかし、この魔術はその悩みを解決してくれる」
まるで通販番組みたいになってきたな。
とか思いつつ、ランベルトさんを見ると、手を剣の方向に差し出す。
「リターンウェポン」
すると剣が浮き上がり、ランベルトさんの方へと飛んで来た。
そしてランベルトさんは柄を持つ。あっという間に持ち主の元へと戻ってきたのだ。
す、すげぇ!かっけぇ!!
「この魔術は略してリターンと呼べる。持ち主のかざした手に、飛んで戻ってくる魔術だ」
凄い。これは出来たら相当かっこいいぞ!
楽になるし、かっこいいし、これは良い!
絶対に出来るようにしてやる。
「リターンウェポン!!」
俺も剣を遠くへ放り投げ、手をかざして唱える。
「見たところ、その剣と君の相性は抜群、ほぼ一体と言っても良いほどの結び付きだ。出来るようになるのは容易だろう」
はっ!力を込めて祈った。
すると、剣は勢いよく地面から抜け、こちらへと飛んでくる。
そして俺の横をすり抜けて、木に刺さってしまった。
「......」
「......」
「強く念じすぎ」
念じすぎだった。
しかしその後は難なく成功。
見事に習得出来たようだった。
「いやぁ、やっぱ凄いね ライル君は。これ本当は魔法なんだけど、余裕で取得しちゃうもんね」
え?
「魔術ってのは......」
「嘘だよ。だって魔術って言うと簡単そうでしょ?だからそう言ったんだ」
マジかよ......まぁこんな凄い魔術なんてあるわけないか。というか、魔法ってこんな簡単に出来るようになるものなんだな。
変身魔法もそうだったけど。
「それにしても本当に凄いよライル君。さすがは勇者になるだけのことはあるね」
え?
勇者になる?
「勇者......?」
「あ」
ランベルトさんの「しまった」という表情。
俺が勇者になるって言ったよな?
勇者候補ってことか?
「どういうことですか?」
「いや、実は君を勇者候補に推薦しようと思ってね」
そんな馬鹿な。
俺が、勇者だなんて。
いや、違う。そこじゃない。
「......アルスは?」
「ん?」
「アルスは?アルスはどうなんですか?」
「.......」
ランベルトさんの顔から、微笑みが消えた。
まるでされたくもない過去の話をされているような、そんな嫌そうな顔。
「あんな馬鹿息子のことなど知らん」
馬鹿息子。
アルスのことを馬鹿息子と言った。
勇者の孫でり、実の息子をだ。
「なぜそんなことを!」
アルスの実力は本物。
少し正確は悪いが、勇者の力としては申し分ないはずだ。
それなのに、勇者の家系であるアルスを放っておいて、魔王の力を持つモンスターである俺が勇者候補だなんて。
そんなの許されるはずがない。
それでも、ランベルトさんは言った。
とても冷たい言葉で、そう言った。
「あいつには勇者なんて向いていない」




