クッキー
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そうだ、お菓子を作ろう。
俺は異世界に来てからというもの、お菓子を食べたことがない。
美味しい料理なら食べたことあるのだが、どうやらこの世界にお菓子というものは無いらしい。
あるのは干した芋とか、まぁそこら辺だ。
そこで俺は、簡単に作れるお菓子を作ることにした。
作り方は記憶を頼りにして、魔王の力のおかげで、俺の記憶も詳細に遡れるようになっている。途中、ちょいちょい黒歴史が挟まってたのは無視して、お菓子のレシピを探し当てた。
小さい頃に、親と一緒に作ったことのあるものだ。
「クッキーを作る」
「なんですか?それ」
「美味しい食べ物だ」
四人は首を傾げている。
まぁそのうち分かる。
それにしても急な話だ。なぜまたお菓子なのかというと、イリスも仲間に加わったことで、より一層チームは強くなった。
と思われた。
だがイリスはお嬢様で、魔術を使って闘ったことなど一度もないのだ。
ただ、軽いテストをしたら、一応戦闘能力はあった。だが慣れるまで時間がかかる。
その間ロナとリリア、そしてレイラには、イリスに色々教えてやって欲しかった。
俺だけじゃ教えきれないところもあるしな。
何よりイリスは、少しだけ常識を知らなかった。
王はそういう教育も含めて、学園に通わせたのかもしれないな。
まぁとにかくチームワークだ。
チームのワークを高めるために、つまり仲良くなってもらうために、みんなでひとつのものを作ろうという考えだ。
なぜかイリスが来てからというもの、みんなピリピリしている。
ロナやレイラは他に楽しいことがあると、すぐに機嫌が治るのだが、リリアに関してはいつも怒っているように見える。
イリスと合わなかったのか?
「ということで、クッキーというものを作っていくのだが、まずは材料の買い出しに行こうと思う」
場所は、キッチンを寮で借りれるはずだ。
だから、必要なのは材料だけ。
買い出しには二つの班に分けようと思った。
「俺とロナ。リリアとレイラとイリスの班に分ける」
えー!と、不満そうな声が聞こえる。
「ライルとが良い」
「ライルさんと別々になってしまうのですか?」
「ロナだけずるい!」
ということで。
結局全員で行くことになりました。
まぁ、イリスと仲良くなってくれれば良いんだけどな。
「はい。では買い物に行くんですが」
俺達はまた外出許可を貰い、市場へ来ている。今回はイリスがいるので、少しだけ止められたが、なんとか押し通して許可を貰った。
「材料が......」
正直言って分からない。
薄力粉に似たようなものはこの前見つけたのだが、バターが無い。
まぁ、バターなんて作ればいいか。
しかしそうなると生クリームが必要だな。
そして生クリームを作るには牛乳が必要で......って、もっと事前に用意しておくべきだったな。
「コーリンのミルクと、ウィンターソルト。ウィートフラワーの粉、卵、ドロップシュガーくらいかな」
「そ、そんなに使うんですか?」
そんなに驚くか?
俺はこの世界にバターがないことに驚きなんだけどな。
まぁ、俺のいた世界だったらもっと手軽に作れたんだがな。
全員で買い物に行った。
途中、あれが欲しいこれが欲しいとロナとレイラがギャーギャー言う中、リリアとイリスは大人しくしていた。
しかしそれでも欲しそうにしていたので、少しくらい買ってやったが、その喜びようと言ったら、こちらが恥ずかしくなるほどだ。
そんなこんなで材料は揃えた。
「よし、それでは作るか」
「おー!」
まずはバターを作る。
そのために生クリームを作る。
生クリームは、ようは牛乳の分離したやつだ。
俺のいた世界では、市販のものは分離しないようにしてあるのだが、この世界のはもちろん分離する。
なんちゃら加工って名前だったんだが、そんなこと覚えているわけがない。
普通はしばらく放置して分離させるのだが、俺は魔王の力を持っている。
これくらい朝飯前よ。
「うおりゃっ」
「「「おー......」」」
魔術を使って、なんとか生クリームの抽出に成功。
そして、出来た生クリームを......
「あ、ペットボトル無いんだった」
「?」
仕方ない、久しぶりに俺の創造で作るか。
また魔王の力に頼ってしまった。
なぜクッキーを作るだけで魔王の力を使わないといけないのだろうか。
「よし、こんなふうに細長い箱に入れる」
見た目は完全にペットボトルだが。
箱と言っておく。
そしてその中に、先程作った生クリームを入れ、ひたすら振る。
「うぉぉおおおおお!!」
「おー!楽しそー!私もやる!」
ロナがやりたいというので、渡してやった。
子供みたいだな。
「おりゃあああああああ」
リリアも、ソワソワしている。というか、みんなやりたそうだ。
お前ら子供かよ。
「じゃあ、順番で回してな。結構振った方がいいから、たくさん振れるだろ」
皆楽しそうだ。ただペットボトルを振るだけで、この楽しみよう。
俺は、一体いつからこの心を無くしてしまったのだろうか。
と、俺が自分の人生を振り返ろうとした時。
「あれ?なんか音がしなくなってきました」
「あぁ、それはバターになったってことだ。もう少し振ってくれ」
そしてまたしばらく振っていると。
「わっ!また音がした!」
パシャっと、液体の音がする。
固形物と水分が、分離を始めた音だ。
「あぁ、最後にもう少しだけ振ってくれ」
すると、固形物と水分に分解された。
その水分のみを、コップに移す。
「なんですか?この白いの。また牛乳に戻ったんですか?」
「飲んでいい?」
「あぁ、いいぞ」
残った固形物をペットボトルから取り出し、お皿に入れて塩と混ぜ合わせて、完成だ。
「テッテレー、バター!」
「「「おー!!」」」
パチパチパチと拍手。
ロナがさっきの残った水分を飲見終えた。
「それ食べていい?」
「いいけないだろ。これを使うんだ」
後は簡単。
出来たバターをボウルに入れ、って、ボウルも無いからそれっぽいお皿でいいや。
砂糖を加え、よく混ぜ合わせる。
これもやりたそうにしていたので、やらせてやった。
そしたら、溶き卵を数回にわけながら、加えてよく混ぜる。
これに薄力粉の代わりで、ウィートフラワーの粉を振るい入れ、また混ぜる。
ひとつになるように少しねったら、冷蔵庫に入れるのだが、この世界では冷凍魔術を使う。微調整は難しいが、冷蔵庫よりも早く冷凍出来る。
そして、好きな形にして焼いたら完成だ。
この好きな形にする時、皆とても楽しそうにしている。
気づけば、イリスも溶け込めているではないか。楽しそうに、リリアとも話している。
もうそれだけで、俺の作戦は成功だ。
最後にオーブンで焼くのだが、これも魔術を使う。
それが本当に難しくて、火力の調整が分からない。
そして完成した。
ものすごく何となくになってしまったが、見た目はさほど悪くない。
「いい匂い......」
「お腹空いてきたー!」
「携帯食ですか?」
「あー、いや。まぁたしかにそう見えるよな......」
クッキーの起源は、たしか携帯食だったらしい。
そう思えても無理もない。
まぁ、完成したわけだし早速食していくか。
「それでは、いただきます」
皆一斉にクッキーを口に入れる。
ん!?これは......案外美味しいぞ。
思ってたよりも上手くいったようだ。
みんなもとても美味しそうに食べてくれている。
「んー!美味しいー!」
「すごいサクサクしてますね」
「こんなの初めて食べました......ライルさんは料理人なんですか!?」
「......美味しい」
そうかそうか。喜んでくれて何よりだ。
大量に作ったつもりだったが、すぐに無くなってしまった。
食べるの早いな。
後で、ルアンナ先生達にもあげる分を別で取っておいて正解だったな。
いつの間にか、調理室の周りにも人集りが出来ていた。
いい匂いに釣られたのか?
「あー、一人ひとつな」
待ってましたと言わんばかりに、大勢が入ってきた。
ほどなくして、俺のクッキーは学園中に広まり、ブームとなった。
俺が一人で作るのは大変なので、学食の料理人さん達にもレシピを教えた。
こんなに人気が出るなら、今度アイスとか作ってみようかな。
もちろん、次は内緒で。
「ライルさん、ありがとうございました」
「イリス......?」
「私が、皆さんと溶け込めるようにして下さったんてんすよね。わざわざ気を使って......」
なんだ気付いていたのか。
あまり侮れないな。
「いいってそんなの。皆仲良くできた方が楽しいだろ?俺だってそうさ」
するとイリスはまた、あの可愛い笑顔で
「ありがとうございます」
と言った。
全く、こんな子と結婚してくれだって?
それも悪くないなと、少し心が動いた一日だった。
「ライルさん、また作って下さいね」




