王
いつものように、天気のいい日。
俺は珍しく、アルスと一緒に魔術の練習をしていた。
あれから、俺の誤解は解け、もうすっかりいじめられることは無くなった。
あの二人は退学処分。二度と学園に顔を出せなくされたらしい。
そして俺の、アルスへの誤解も解けた。
「そうだったのか、今まで、いろいろすまなかったな」
「いや、俺こそ悪かったな」
聞けば、あの時俺の足にソーン・バインドを仕掛けたのは、アルスの支持では無いらしい。
アルスは口こそ悪いが、別段俺を凄く嫌っているわけではなく、ただの嫉妬によって、だいぶキツイ言い方になってしまっていただけらしい。
「お前は正真正銘、俺よりも実力は上だと認めているし、俺の目標でもある。そして何より、お前は良い奴だ」
「正面から言われるとなかなか照れるなぁ......」
それに、アルスは勇者の孫で、結構苦労しているらしいのだ。
勇者の孫は、生まれつき勇者の才能を持ち、未来の勇者候補とされる。
つまり、それほど世間に期待されるわけだ。
当然ミスなど許されない。
そのプレッシャーといい、周りからの期待といい、相当なストレスの中で育って来たのだろう。
「でもまぁ、お前とこうして話せて良かったよ。これからもよろしくな」
「あぁ、よろしくな。ライル」
俺達は、仲良く練習をする。
するとクラスの人達が、なにやらザワザワとし始めた。
「あれが......?」
「すっげぇ、初めて見た......」
なにやら珍しい物でもいたのか?
生徒達が騒がしくなる理由は、一つほ馬車が来ていたからだ。
普通に見るよりも大きな馬車。とても豪華な装飾が施しれている。
そこから降りてきた人を見て、生徒達は驚いていたのだ。
「おい嘘だろ......」
アルスまで、驚きを隠せない。
そんなにすごい人なのか?
「アルスの知り合いか?」
「何を馬鹿な、あのお方こそ、この王都を納める主。王様だぞ」
お、王。あれが王様か。
初めて見るのは俺だけではないようだな。
「あんな馬車、王様ぐらいしか乗れる権利はない。しかし、なぜこんな所に......?」
王様は、使い達が敷いたカーペットの上を歩いて、ゆっくりとこちらへ向かってくる。
その後ろからは、見覚えのある顔の人がついてきている。
マジかよ......
「ノクディ・オロン......」
王様は、俺の目の前でピタリと止まった。
結構背が高い。
「君がライル君かね?」
「そ、そうですが......」
「初めまして、私は王ブラム。よろしく」
「よ、よろしく......お願いします」
すると今度は王様の後ろにいたノクディが顔を出す。
「やぁ、ライル君。まずは優勝おめでとう」
「あ、ありがとう」
なんなんだ?一体何が目的だ?
何故いきなりこんな所に、王様と来たのか。
わけがわからなくて、混乱しそうだ。
「レースに出ていたのを知らないかい?」
「レース?あぁ、レイラのことか」
俺は、近くにいたレイラを呼んできた。
ロナとリリアの後ろに隠れるようにしていたが、お呼びなので連れてくる。
少し嫌そうにしていたが、諦めてノクディの元へ。
人見知りなのか。
「ふーん、レイラ......ね」
ノクディは、少しレイラを見つめた後、納得したような顔をした。
レイラは、怒りと恐怖が入り交じったような表情をしている。
何か......何かノクディに思うことがあるのか?
「それじゃあ行こうか」
「え?」
行こうって、どこに?
「王は、君を招待すると言っている。レースでの優勝記念だ」
そう言って、ノクディはレイラを指さした。
俺じゃなく、アルスでもなく、レイラを。
「なぜレイラを?」
「もちろん、レースという種目において、素晴らしい成績を収めたからだよ」
う、う〜ん......よく分からないし納得し難いが、まぁお呼ばれしているのなら行かない理由は無い。せっかく王様直々に迎えに来ているわけだし、ここで断ったら無駄足にさせてしまう。
「なら構わない。レイラ、行ってらっしゃい」
レイラは俺の方を見る。その目はどこか悲しげで、何かを訴えるように見えた。
「行こうか」
王様がレイラを連れていこうとしたその時、俺は咄嗟に
「ちょっと待ってくれ」
と言ってしまった。
連れていこうとする王様を止めたのだ。
「何用だ」
王様に直接招待を受けるなんて普通ならとても名誉なことで、喜ばしいのだが、レイラはどこか嫌そうだ。とても緊張している。
「あの、お言葉ですがレイラを返してくれませんか?」
「ほう......この私に意見するか」
王様は、こちらに向き直る。たしかに王様には失礼だったかもしれない。
だが、嫌そうにしているレイラをほぼ無理やり連れていくような行為、見過ごすわけにはいかない。
「王様、ここは僕に任せて下さい」
「頼むぞ」
ノクディがこちらへ来た。
「どうしてなんだい?」
「レイラが嫌がっている。それに、優勝したのはレイラじゃなく、俺達だ。クラス全員で優勝したんだ。レイラだけ呼ばれるのは不平等だと思わないか?」
そう、普通なら最後に勝ったアルスを招待するはず。
勇者の孫で、未来の勇者候補であるアルスと話さずに、ただ一位を取っただけのレイラを呼ぶなんておかしい。
「君は面白いことを言うね。けれど、それは無理な話だ。僕らにはこれが必要なんだ」
これ。
レイラのことを「これ」呼ばわりか。
「レイラは返してもらう。いくら王様と言えど、国民に顔を出さないような人を信用出来ない!」
そう言って俺は、レイラを王様から奪い返した。
レイラ自身も嫌がっていたので、簡単に引き離せる。
「君、よくそんなこと言えるね。そいつの正体も知らないくせに!」
「どういうことだ」
「詳しくは本人から聞くといい。だが、とにかくそいつは国に必要なんだ。お前の物ではない」
国に必要?レイラが?一体どういうことなんだ。ノクディは何を言っている?
「明日、僕と勝負しろ。もし僕が負ければ、好きにするがいい。ただし僕が勝った場合は......そいつを渡してもらうぞ」
提案してきた。
ここでレイラを受け渡すより、少しでも可能性のある勝負に乗った方がいい。
その提案には乗った。
「いいだろう。でも、レイラは絶対に渡さない」
「それはどうかな」
ノクディは薄ら笑いを浮かべる。
そして、王様と一緒に去って行った。
「ライル......」
「レイラ、聞かせてくれ。お前の過去を」
本当の正体を。




