もう、大丈夫だから
「よぉ、一位さんよ。大会では凄かったなぁ......まさかククク、あんな派手に......ククッ」
笑っていて何を言いたいのかが分からない。
まぁ、あの転んだことをからかっているのだろう。
それからというもの、俺は毎日のようにイジメにあっていた。
水をかけられたり、魔術を当てられたり、やはりどの世界にもイジメというものは存在する。
ただ、異世界は魔術というものがある。
魔術でヒールを使えば、 多少傷つけてしまっても治せるし、遠距離からの攻撃が可能だ。
誰がやったかバレやしない。
トラップだって作れる。
俺の靴に例のソーン・バインドを仕掛けて、教室に入る瞬間に発動。
先生が来るまで、教室の扉の目の前 に立たせられたことがある。
そういう時ロナ、リリア、レイラの三人には、手を出さないようにと言ってある。
俺と話しているところでも見られたら、仲間だと判断され、イジメの対象となってしまう。
三人を巻き込むわけにはいかない。
しかし、毎晩寮まで内緒で来て、わざわざ話に来てくれる。なんて優しい奴らなんだ。
それに、ルームメイトのアンドレとバリガも、一度ガツンと言ってくれたこともあった。
しかし効果は出ず、二人の前での愚痴は無くなり、見えないところでの陰口となった。
真実を伝えたところで、無意味なのは安易に予想できる。
俺は、以前もこういう経験がある。
異世界に転生する前、何かをしたわけでもないのになぜかイジメを受け、それでも俺の味方でいてくれた幼なじみの......って、この話はやめよう。
とにかくこういうのは、時間が解決してくれる。
時間さえかければ、自然と消滅するものなのだ。
「おい、ちょっと来い」
急に知らない人がいた。
誰だ?
俺は、気になる本があったから教室で読んでいたところ、上級生と思われる男達に話しかけられた。
「俺の女に手ぇ出したってな」
は?
どうやら根拠が全くない噂まで広められているらしい。お前の女なんて知らないし、手なんて出すわけもない。
「えっと......何かの勘違いでは無いでしょうか」
「いいからこっちこい!」
俺は、練習場裏まで無理やり連れていかれた。
このままここで暴動を起こせば、クラスメイトに迷惑がかかる。
ただでさえ今俺は嫌われているのに、もっと嫌われることになるのは避けたい。
練習場の裏には、もっと多くの男どもがいた。
制服を着崩し、武器に変な模様をつけたりしてカスタマイズしている。
これは......この世界の不良、ヤンキーか。
バリガなんかよりよっぽど怖いな。
「おい、話は聞いてんだよ。テメェが昨日、俺の女と部屋から出てきたってな」
俺は髪の毛を掴まれ、腹を殴られる。
「ぐはッ」
「あぁん?おい」
「だから......違うって言ってるじゃないですか......そんなことやるわけがないです」
「うるせぇ!」
再び殴られる。
なんでこんなことされてるんだろ。
俺は、何か悪いことをしたのか?
「てめぇには初めっから腹たってたんだよ!この糞ガキが!」
殴られ、蹴られ、倒されて踏み潰さられる。
我慢だ我慢。
今下手に抵抗しても、こいつらは喜ぶだけ。
反応が無いのが、こいつらにとって一番つまらないことだ。
だから今は無抵抗。
やられるままにしていれば、そのうち飽きてやめるはず。
「はぁ、はぁ、チッ。もういい」
「行くぞお前ら」
すると男どもは、全員どこかへと歩いて行った。
俺は、ボロボロになった状態で倒れている。
とりあえず今回はなんとか耐えたな。
「ライル......」
「......!?」
レイラ......!?何故ここに?
物陰からレイラがこちらへ歩いて来た。
ヤバいな、さっきの見られたか。
「見てたのか」
「うん......ごめん」
俺は、ため息をつく。
出来れば、誰にも見られたくはなかった。
ダサいとかそういうことではなく、単に心配をかけたくないのだ。
レイラにも手は出すなと言ってある。だから見ていただけで、奴らがいなくなるまで隠れていたのだ。
「ライル......大丈夫じゃない」
「いいや、俺は大丈夫だ。これくらい痛くもないさ。それよりもさっさと俺から離れた方がいい。こんなところ見られたら、お前もいじめの対象に」
「ううん。ライルと一緒なら良い。お話出来ないくらいなら、ライルと一緒にいる」
レイラは優しいやつだな。
俺は、思わず頬が緩んでしまった。
幸せな仲間を持ったものだ。
「でも、やっぱりここでは話せないな。買い出しにでも行くか?学園の外に出れば、いじめに会うこともないしな。俺達は優勝したんだし、先生も許可してくれるだろう」
それからレイラと一緒に、先生に外出許可を貰い、買い物に行った。
ロナとリリアの好きそうな物を買ってくることにした。
その間はレイラも楽しそうで、それを見た俺もなんだか楽しくなった。
そうだ、辛い時こそ仲間を頼る。
そうすることで、元気が出ることもある。
俺が転生する前も、親に相談したり、頼れる友達に話を聞いてもらってりしていたな。
「レイラ」
「ん」
「ありがとな」
「......ん」
レイラの顔が、少しだけ赤かった気がした。
照れてる顔も可愛い。
そして、俺達はしばらく学園外を楽しんだ後、ロナとリリアにお土産を渡しに、部屋へ行った。
何が好きなのかあまり良く分からないので、とりあえず美味そうなフルーツっぽいものを買ってきてやった。
「ロナ、リリア、美味しそうなものを買ってきたんだが、一緒に食べ......ない......か?」
部屋には誰もいなかった。
「あれ?」
「私がライルのところに行く前までは、部屋にいたのに......」
通ってくる道の途中にはいなかったけどな......そこで、俺は今な予感がした。
そんなこと、考えたくもないような可能性。
「ロナ、リリア?」
しばらく学園内を探し回ったが、二人はどこにもいなかった。
一体どこへ行ったというのだろう。
すると、食堂を探している時に、何か視線を感じた。
ふと振り返ると、知らない男が俺のことを見て、ニヤついていた。
「なんだ、何か用か?」
「いや別に〜、なんか探してるなぁと思ってね」
!?
その薄ら笑い、まさか......こいつら何か知ってるな?
俺は、男どもの方へ近づいた。
「ロナとリリアの居場所を知ってるのか?」
怒りがこみ上げてくる。
今にもこいつらを殴ってしまいそうだ。
「さぁね。まぁ......優勝したお前のお仲間さんと一緒に歩いてるところは見たよ。ずいぶんと嫌がってた気がするなぁ。早く見に行ってあげたら?」
男は、半笑いでそう言った。
優勝した俺の仲間......アルスか。
俺は、握りこぶしを隠して、なんとか平常を保つ。
「お、おしえてくれて感謝する」
「え?聞こえないなぁ。もっとちゃんとありがとうって言えないのー?」
キッと睨んでやった。
飛びっきりの殺意を込めて。
魔王パワーのほんの一部だけを解放し、威圧する。
するとそれだけで「ヒッ」と声を漏らしてビビった。
今すぐにでもその顔面に一発食らわせたい気分だが......それはアルスのために取っておく。
「アルスか......たしかトルドと、ウィリーも一緒の部屋だったな」
俺は、隠しきれない怒りをあらわにして、廊下を進む。
階段を登り、アルス達の部屋へ。
ドアは......空いていた。
「よう、遅かったじゃないか」
「......どういうことだ」
中にはアルスの姿は無い。
いるのはトルドとウィリーだけだ。
「アイツらにお前を、俺達の部屋に招待するよう伝えたんだが......これがまぁ来ない来ない」
「ロナとリリアはどこだ」
俺は、つまらない話をしに来たわけでは無い。
トルドとウィリーは、二人の居場所を聞かれても、余裕の表情だ。
「まぁまぁそう怒るなって、お前がクラスでいじめられているから、こうして内緒で優勝祝いのパーティーへ呼んだわけじゃないか」
「もう一度聞く、ロナとリリアはどこだ」
「......」
二人は黙った。
そして、ニヤリと笑う。それだけで、俺の落ち着いていた怒りを再び込み上げさせるには充分だった。
「そう急かすなよ、お楽しみは最後まで取っておかなくちゃな」
ウィリーは立ち上がると、隣の部屋へと続く扉に手をかけた。
続いてトルドも立ち上がる。
「一名様、ごあんなーい」
扉を開いて、中を俺に見せる。
するとそこには
ベッドの上で、身体を縛られているロナとリリアの姿があった。
口もタオルを噛まされ、喋れなくしている。
二人は俺を見た途端に助けを求める声を上げる。
しかしなんと言っているのか分からない。
だが、伝わってくる。
「助けて」と。
俺は、それを見た瞬間。
固まってしまった。
「ロナ......リリア......」
「くふっふっふ」
「面白い顔をするじゃないか」
俺は、部屋に踏み込んだ。
それと同時に、床に魔法陣が浮かび上がる。
これは......トラップか!
トラップ型の魔術は発動し、俺の全身を硬直させた。
俺は床に膝をつき、動けなくなってしまう。
「くっ......ロック・バインドか......」
「その通〜り。お前はそこでゆっくりと見物しておくんだな」
超強力な魔術だ。
罠を設置しても、踏み込むことが少ない代わりに、その効果は絶大。
俺でさえも、動けないほどにしっかりと拘束されている。
おそらく、数人で作ったトラップだろう。
すると、トルドがいきなり服を脱ぎ始めた。
それに合わせてウィリーも服を脱ぐ。
二人は、すぐに下着姿へとなった。
「お、お前ら......」
「さぁて、お楽しみの時間だ」
「服を脱ぎ脱ぎしましょうね〜」
二人は、ロナとリリアの服を、拘束の上から剥いでいく。
すぐに、二人の肌が顕になった。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」
やめろ。
ロナとリリアは、涙目になって、嫌だ嫌だと首を横に振る。
しかし止まるわけもなく、どんどん剥がされていく。
「へっへ、大人しくしろよ〜」
やめろ。
いくら暴れようとも、拘束されている二人は、逃れることが出来ない。
されるがままだ。
「さぁて......それじゃあ、いっただっきまーす!」
「やめろォ!!」
バキンッと、拘束の壊れると音。
ロック・バインドは、まるでガラスのように簡単に割れた。
俺の、力によって。
「テメェら絶対に!ぶっ殺す!!!」
俺は、半分意識が飛んでいたのかもしれない。
怒りに身を任せ、自らも制御出来ない力を表に出す。
魔術ではなく、ただの力として。
魔王のパワーを。
俺は、二人に拳を振り被ろうとしたその時。
後ろから誰かに掴まれた。
「やめろ。今のお前が手を出せば、二人を殺しかねんぞ」
「ア......アルス......」
アルス。お前が犯人なんだろ。お前が二人に命令して......
「言っておくが、俺はこんなことやっていない。むしろ俺は止めに来たんだ。あの二人を放ってはおけない」
俺は、その瞬間理解した。
アルスの目は怒っていた。
その目に映る二人を、絶対に許しはしないと。
あぁそうだったのか。
アルスは、本当は悪い奴では無かったんだな。
「あ、アルスさん!見て下さいこれ!今から奴の大事なものを壊すところなんです!」
「おい......トルド......?」
「へ?」
トルドの体から、何かが床に落ちた。
腕だ。肩から下が無い。
壁は赤く染まり、腕が無くなった肩からも、遅れて血が噴き出す。
「ぐ、あああぁぁああああ!!!」
「ト、トルドぉ!」
「じっとしていろよ。そうすれば死なずに済む」
アルスはいつの間にか、剣を抜いていた。
素早い斬撃、理性が半分吹っ飛んでいる俺は、その剣筋が見えなかった。
「次はお前だ」
「ぎやああぁあああ!」
アルスはウィリーを押し倒し、太ももに剣を突き刺した。
「ああぁぁああああ!!」
「ぐあぁあああああ!!」
二人の悲鳴と、血飛沫の音により、俺は目が覚めた。
興奮は収まり、怒りも徐々に安らいでいく。
落ち着いてきた目でアルスを見ると、血塗られた剣でロナとリリアの拘束を解いてやっていた。
自由となった二人は、真っ先に俺の元へと走り、飛び込んで来た。
「ライルさんっ!!」
二人とも目から涙目が溢れていて、俺の服を濡らす。
「怖かったです......怖かったです......」
「ライル......ライル......」
俺は、優しく二人を包み込んだ。
「もう大丈夫だ......もう、大丈夫だから......」
それからしばらく、二人は泣いていた。
俺も安心とつられ涙によって、少し泣いてしまった。
アルスはトルドとウィリーを連れて、いつの間にかどこかへ行ってしまっていた。
だからもう少しだけ、二人を抱いて、ゆっくりと部屋へと帰って行った。




