模擬戦2
相手の攻撃を余裕でかわしていく。
一人につき二人を相手にしているので、攻撃か速いが、これくらいならまだ問題は無い。
俺を一位だと知らないのか、あまり強くない奴をよこしたのか?
さて、どうするかな......八人いるから、だいたい一人で二人は倒さなくちゃいけない。
味方は、アルス以外苦戦している。
助けに行くべきだろうが、あまりにあっさり倒しすぎると、目立ってしまう。
「ほらほらどうしたァ!」
「避けてばかりで手も足も出ねぇだろ!」
アルスが全員倒すならそれで良いのだがな。
おそらくキャーキャー言われるだけで終わるだろうし、もっと人気か上がるかもしれん。
でも俺が簡単に倒してしまうと、それだけで注目され、最悪の場合正体がバレる。
それは避けたいところだ。
だが、アルスも少しだけさっきよりも手を焼いているようだ。
「やっぱりさっきの奴らが雑魚過ぎただけか......お前らはなかなか手応えありそうだな」
「勇者の孫様に褒めていただけるとは、光栄です。ですが、私達が勝たせてもらいますよ!」
「さすがに俺達二人を相手にするには、辛いんじゃねぇか?」
競技の始まる前に、少しだけ選手を確認したんだが、アルスが闘っている二人は確か、学園一位同士だったな。
さすがは一位、アルスも少し押され気味だ。
さっきの、風圧だけで倒した事が嘘みたいだ。
「よそ見してていいのかよ。ライトニング・ソード!」
危ねっ!俺はギリギリで攻撃を弾いた。
これくらいの魔術なら、俺が魔術を使うまでもない。
しかし、このままこの状況を続けているわけにもいかない。
反撃する。
まずはコイツらの動きを止めよう。
「アイシンクル・バインド」
アシッドスネーク戦で、リリアが使っていた魔術だ。
威力をだいぶ弱めてあるから、普通にこの二人を凍らせるくらいで済むだろう。
だが、そんな俺の考えは甘かった。
パキィという音と共に、俺の足元から氷が張る。
しかしその範囲は広がって行き、俺が相手している二人だけでなく、他の敵も、味方まで巻き込んで凍らせてしまった。
「あれ?」
一瞬にして凍りついたステージ。
範囲は、およそ十五メートル。
この上ないほど手加減したつもりだったのだが......俺は、凍ってもないのに肝を冷やした。どうやら俺が手加減したことは、観客にはバレてないらしく、本気で魔術を放ったと思っているらしい。
でないと、「あいつ魔術下手くそ過ぎ」や、「アルス様まで凍らせるなんて......足を引っ張らないで欲しいわ」などというヤジは飛ばないだろう。
俺は耳がいいので、ほとんど聞こえている。
「すまない」
三人に謝りながら、剣で氷を砕いてやった。
アルスは自分で抜け出した。
「魔術の練習ぐらいちゃんとしておけ、下手くそが」
助けてもらったくせに、よくそんな口がきけるな。
まぁ俺が何もしなくても、きっとアルスなら一人でなんとか出来ただろう。
「ん、また来るぞ」
本当に有能だなこいつ。
こういう時の索敵って、まじで便利だと思う。
「どうやらラストの敵らしいな。ディアノラ学園のお出ましだ」
ゆっくりと姿を見せるのは、ディアノラ学園のチームだった。
その防具には一切の傷がついておらず、しかし戦って居ないわけではないことが分かる。
なぜなら、血がついていたからだ。
どれほどの滅多打ちにしたのかは、知りたくもない。
「あなたが勇者の孫さんですか、どうも初めまして。お会いできて光栄です」
よくノクディと一緒にいる人か?
見たことがあるな。側近みたいな感じだったが、闘えたのか。それともヒーラーか。
「はぁ......どいつもこいつも勇者の孫だ勇者の孫だって、うるせぇ野郎どもだ」
と言いつつも先程とは違い、しっかりと構えを取っているあたり、こいつらは強敵だと判断していることが分かる。
しかし、明確な強さは分からない。相当な手練だとは思うが、どんな技を使うかなど、お互いに何も知らないのだ。
アルスは本気モードに入る。
首に下げている「勇者が頭につけるやつ」を頭まで上げた。アルスの中のスイッチみたいなものだろう。
なんか......勇者っぽい。
「俺に続け」
は?なんだって?あまりにボソッといいもんだから、俺は少し遅れてしまった。
アルスは突っ込んだ。
しかしただ考え無しに突っ込んで行っただけではない。
「フラッシュ」
!?
俺は咄嗟に目を腕で覆い隠した。
アルスの目くらまし魔術だ。
手のひらから強い光を放ち、相手の目を眩ませる。
使うんなら使うって言ってくれれば良いのに。
しかし、そのおかげで敵の三人は目を瞑っている。
「ノクディだけじゃないですよ?強いのは」
ドンッと、鈍い音がした。
その瞬間、俺の横を何かが通り過ぎた。
すごく重たい衝撃が走る。ぱっと振り返ると、木に叩きつけられているトルドの姿があった。
「な......!?」
一撃で......!?一体何が起こったんだ?
また前に向き直す。
するとアルスも少し食らっていた。
どうやら範囲攻撃型の魔術らしい。
アルスはなんとかして剣で防いだようだが、それにしてもフラッシュを食らっていないとは......なんて反射神経だ。
「これはほんの挨拶がわりです。私はファロン、以後お見知りおきを」
「自己紹介なんて、しんてんじゃ......」
アルスは走って近づく。
まずい、またさっきのが飛んでくる。
ファロンは手のひらを見せ、ゆっくりと押し出すようにする。
すると、また波動のようなものが飛んでくる。
目には見えないが、アルスはそれをギリギリでかわした。
地面に当たっただけでも、地面がへこむほどの威力。
まるで気功のようだ。
「ねぇ!!」
件を振り上げる。
しかし、一歩も動かずにかわされてしまう。
カスリすらもしない。
「......チッ」
「隙だらけですよ」
アルスが剣を振り上げた一瞬の隙に、ファロンの手はもうアルスの横腹に触れていた。
ゼロ距離だ。
見る限り、奴は無詠唱。
全く魔術名を言わないので、おそらくさっきの技は魔術では無い!
「終わりです」
「ふんっ!」
アルスとファロンを突き放したのは、俺だった。
猛ダッシュでファロンに突進し、上手く攻撃をずらした。
「お前、模擬戦じゃなかったら剣が腹に刺さってたところだぜ?お前の方が隙だらけだ」
「速いですね。しかし、それを言うならあなたも隙を作りましたね」
背後から、ファロンの味方が近ずいて来ていた。
しかしそんなこと想定内。
俺はよく周りが見えるんだよ。
「甘い!」
振り向きざまに剣の柄頭で腹を突く。
そこから連続して打撃を与え、素早く一人をダウンさせた。
それを見て、もう一人は下がって行った。
「ほほう......これでお互い三対三。有利不利も無くなりましたね」
たしかに三対三だ。だが、ウィリーはファロンの仲間と闘っている。ここでウィリーが勝ってくれれば、人数的に有利になるが......俺が手助けに行くか?
「アルス、やつの攻撃が分からない以上、下手に突撃しない方がいい」
「俺に指図するんじゃねぇ。それと、助けなんていらねぇ。足を引っ張んな」
このアルスの態度に、さすがに俺も腹が立った。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ。先に倒せる奴から倒して、人数的に有利にした方がいい。一旦下がろう」
そんな提案を、アルスが聞く耳を持つわけがなく「黙ってろ」と一言だけ言うと、また一人で突っ込んで行った。
「フォトン・スラッシュ!!」
あの魔術は知っている。
たしか、光の斬撃を飛ばすことが出来るのだ。
そして、例のごとくあの技が来る。
だが、アルスは素早くバックステップでかわす。
おそらくアルスは、一撃目をかわせば隙が生まれると予想したのだろう。
その隙に、こちらの攻撃を少しでも食らわせられればという思いだろうが、やはり詰めが甘かった。
ファロンは、片手を後ろに隠すようにしていたのだが、一撃目を外した途端に、前に出してきた。
そして......
「ぐっはァ」
見事に命中。
まさか両手から出せるとはな。
「お仲間さんの言うことは聞いた方が良いですよ」
「ぐッ」
強すぎる......また立ち上がろうとするアルスに、手のひらを向ける。
俺は一瞬だけ翼を出し、アルスを掴んで避けさせた。
あっぶねぇ。
「ソニック・ブレード!」
普通は翼で使う、高速で斬る魔術なのだが、今は剣で使い、地面をえぐった。
土埃を上げ、目を眩ませる。
フラッシュなら目を瞑れば防げるが、土なら確実に隠せる。
今はそれだけで良かった。
周りに土埃を上げることによって、俺の姿も、翼も隠せる。
素早くウィリーも回収して、岩陰まで後退した。
「ぐっ......」
アルスはまだ痛そうだ。
もろ腹に食らってたからな。
「はぁ......色々言いたいことはあるが......今はそんなことより倒すことが優先だ。やつの攻撃の弱点が分かった」
「弱点......?」
アルスは少しだけこちらを向いて、またそっぽを向いてしまった。
教えてくんないのかよ。
「俺が気付いたことを、奴に気づかれる前にケリをつける。チャンスは一回だ」
俺と、ウィリーは頷く。
もうこれを逃したら後がないと思ったからだ。
「まず、ウィリーはやつらの足止めをしてくれ。一瞬でも動きが止まれば、それでいい」
「分かりました。先程闘っている最中、敵全員の足にソーン・バインドを付けておきました」
ソーン・バインド。
拘束魔術か。
「発動させれば、くっつけた種から茨が生え出し、一瞬で地面へと突き刺さります。簡単に解かれてしまいますが、少しなら止められるかと」
「分かった。それでいこう」
するとアルスは俺を見る。
「貴様は左から攻めろ。廻りこむようにだ。敵の裏を取れ」
俺に直接指示を出したのは初めてだな。
アルスのことは嫌いだし、こいつも俺のことを嫌っているが、今は仕方がない。
こんなことで目の前にある優勝を失いたくはない。
「分かった。お前らを信じよう」
「なら行くぞ!」
俺達は同時に飛び出す。
俺は廻り込んで裏取り。
二人は正面から攻撃をする。
「エクステンド・ブレード!!」
アルスの剣の刀身が伸びる。
これは、トルドの魔術だ。
しかしどこを狙っているのか、ファロンの真横を通り過ぎていった。
「ん、何をしてるんです?」
「ソーン・バインド!!」
ウィリーの魔術が発動した。たしかに、敵の足元から茨が生えている。
これで少しでも動きを止められれば......その時、俺は何が起こったのか分からなかった。
急に天地がひっくり返ったのだ。
「え?」
ゆっくりと動く世界の中で、俺は自分の足に何かがついていることに気がつく。
茨だ。
ソーン・バインド。ウィリーの魔術。
それによって敵どころか、裏取りのために廻りこんでいた俺も足止めをしている。
勢いついて転んでしまったのだ。
ここで、俺の頭に不安がよぎる。
なぜ俺にもソーン・バインドがついていたんだ?
まさか。
俺は転んで動けなくなってしまった。
観客席から笑いが聞こえる。
まさか。
焦りながらも足元から茨をむしり取ろうとするが、トゲが刺さって痛い。
これじゃ裏を取ることが出来ない。
そう思ってから気が付いた。
まさか、まさか、まさか。
ハメられた。
「フォトン・スラッシュ!!!」
アルスの剣は、刀身を伸ばしたまま光りを放つ。
魔術の合わせ技だ。
アルスは剣を横に大振りした。すると、伸びている刀身は、敵三人の元へ。
「な、なにィ!?」
そのまま三人を吹っ飛ばした。
ファロンの技の弱点は距離。
つまり、遠距離からの攻撃なら、ファロンの攻撃を食らうことが無い。
しかし、ただの遠距離魔術だとおそらくかき消されてしまう。
だから、不意をついて剣で遠距離攻撃をしたのだ。
その一撃により、俺達は見事に優勝を果たした。
歓声と共に聞こえる、俺への罵倒、愚痴、蔑み。
「何やってたの?あいつ」
「あっはっは!最後転んでたよね。ダッサ」「せっかくアルスさん達が頑張ってたっていうのに......何ドジってんだよ」
「なんか一人で勝手に逃げて行って、そんで転ぶとか超最悪だね」
口々に聞こえる声。
俺への非難。
なぜだ......なぜこうなった。
ただ、目立たないようにしていただけなのに。
ハメられた。
リリア達の元へ帰ると、三人は褒めたたえてくれた。
「やりましたね!ライルさんっ!」
「凄いよライル!強っ」
「ライル、頑張った」
「みんなありがとう。俺も勝てて嬉しいよ」
席に戻っても、まだ悪口は続いている。
俺に聞こえていると分かっていながら、目の前でコソコソと愚痴をたたく。
きっと、俺へのヘイトは溜まっていたのだろう。
アルスを通り越して一位だったこととか、アルス関係のことが多いだろう。
まぁ、こういうことには慣れている。
そのうち熱は冷め、少し仲間外れにはされるだろうが、また普通に戻るだろう。
「ライルさん......」
「大丈夫だ。今は優勝できたことが嬉しいよ」
しかしここから、俺へのイジメが始まることとなった。




