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模擬戦1

医務室には、アンドレがいた。


「アンドレ......なぜここに?」

「あぁ、ライルか。すまねぇ、やっぱり緊張には勝てなかったわ」


久しぶりに見た、青ざめた顔だ。

しかしそれだけには終わらず、医務室のベッドで横になっている。

見るからに体調悪しって感じだ。


「どうしたんだよ」

「いやら今までとは比べ物にならないくらいの緊張が俺を襲ってきたんだよ」

「でも、あれだけ練習したじゃないか」

「あぁ、確かにそうだ。それには感謝している。だが、それと同時に申し訳ないとも思っている。なぜなら、現に緊張しているからだ。実力を付けたのが裏手に、あれだけやったのに失敗するのか?というプレッシャーとなってしまった」


そんな......むしろ逆効果だったってわけか。

一体、なんのための練習だったんだ。

アンドレ、お前は強くなったんだ。


「お前なら勝てる、絶対にだ!それに仲間もついてる。立て!まだ闘える!」

「はは......お前は元気づけるのが上手いなぁ。でもこれを見てくれ」


アンドレは、俺に両手を差し出しす。

その手は、とても震えていた。

失敗を恐れていた。

俺はアンドレの手を握り、安心させる。


「こんな手で剣を持ったところで、何も出来ないよ」

「そんなことはないっ!お前には俺が付いている、だから大丈夫だ!」

「ライル......」


アンドレは決してやる気がないわけではない。ただ、怯えていりだけだ。

そこは、俺が治してやらねばならない所なのだが、そう思って行なった行動は、逆効果となってしまった。

なら今は無理をさせず、安静にさせておくことが大事なのではないだろうか。


「分かった。俺が代わる」

「な、ダメだよそれは!出られない理由があるんだろ?」

「まぁそうだが、そんなの関係ない。俺がお前に闘えと言ったように、俺は俺に闘えと言う。緊張に勝つということを教えてやる」


俺は、アンドレの手をもう一度強く握りしめ、立ち上がる。


「だから、そこで見てろ。俺が代わりに優勝して来てやるからよ」


手を離し、グッと親指を立ててやった。

グッジョブだ。


「頼んだ」

「任せろ」

「ライル」


と、俺を呼ぶ声がする。

レイラか。どうやら目が覚めたようだな。

それでも少し調子が悪そうだ。


「レイラ、大丈夫なのか?」

「ん、平気。それよりも頑張って」

「おう、頑張ってくる」


俺は医務室を後にした。

果たして出場しない、出来ない俺が代わりに出ることは出来るのだろうか。

そんな心配をしながらも、ルアンナ先生の元へ。

しかし、ルアンナ先生は深刻な表情をしていた。


「ライル君、あなたに出場してもらいます」

「ええ、そうですか。分かりました、やります」

「あれ?」


ん?


「もっと驚くかと思ってたわ......」

「いやぁ、実は俺も出たいと思ってまして。アンドレの代わりなら、責任を持って俺が出るべきだと」


ルアンナ先生はため息をつく。しかし、どこか嬉しそうだ。


「くれぐれも気を付けて。そして、優勝してちょうだい」

「もちろんです」

「ライル......」


リリアとロナも、心配そうにして来た。

大丈夫だってのに、別に今から戦争に行くってわけでもないんだから。

まぁ、確かにアルスと一緒のチームってのは気に食わないが、仕方がない。

むしろ一位と二位で最強のチームが出来たじゃないか。


「絶対に勝って、優勝してみせる」


そう、レイラのおかげでこれに勝ったら優勝するまでの得点が取れた。

それに、ディアノラ学園のノクディも、前競技で既に出場している。

これはチャンスだ。

ここで一位を取って、見事優勝を果たすしかない!


『該当の生徒は、待機所でお待ち下さい』


俺は、待機所へと向かった。



待機所では、先にアルス達が待っていた。

アルス、トルド、ウィリー、この三人が俺の仲間達だ。


「ん、なぜお前がここに?あの腰抜けはどうした?」


アルス。知っての通り、勇者の孫だ。

その実力は、まさに最強。誰も彼もが知っている勇者の、直系子孫であるだけはあって、天才的な頭脳とずば抜けた運動神経、さらに桁外れな魔力量を持ち合わせている。

まさにチートだ。

未来の勇者候補らしい。


「アルスさん、腰抜けから不正野郎に代わったところで、別に何も影響はありませんよ」

「そうですよ。俺達がアルスさんをサポートしますので、パパッと終わらせちゃいましょう」


この二人はトルドとウィリー。簡単に言えばアルスの取り巻きだが、実力は侮れない。

トップでは無いものの、二人とも常に上位の成績を維持しており、アルスの足を引っ張らない程度には強い。

能力は、トルドは索敵魔術が得意でウィリーは防御だ。

そしてアルスが攻撃という、とてもバランスの取れたチームで、正直俺はいらない。

連携を期待するのは難しいだろうし、俺は遠くで見物でもしておこうかな。


「それもそうだな。あの腰抜けの代わりに来たところで、お前の力は必要ない。俺が全員片付けてやる。邪魔するなよ?」


相変わらず口の悪いこと。

とても勇者の孫とは思えないな。

ルアンナ先生によると、勇者の息子がかなりお転婆だったらしく、その性格を受け継いでしまったらしい。

しかしアルスの人望は厚く、その人物に憧れる者は数しれず。誕生日の日に貰ったプレンゼントの数は......って、今は関係なかったな。


「邪魔はしないさ。でも、勝つんだったら俺の力も必要かもしれないぞ?」

「必要ない。お前はそこら辺でうずくまってろ」


おー怖い怖い。こんなんだったら全然ノクディの方がマシだわ。

というか実際ノクディの方が女子ウケは良いらしいしな。

もしかしたら本当にノクディが勇者になってしまうかもな。


『それでは、準備を開始して下さい』


その合図と共に、皆は一斉に動き出した。

それぞれのチームが、ステージ内のどこかに潜むのだ。

ステージには、いくつもの場所があり、草原や岩場、森などがある。基本森だけどな。

そしてアルスは、そのうちの森を選択した。


「近くに敵はいないようだが、いるとしたらあの奥の崖ら辺だろう。高所は有利だからな」


始まる前から索敵を始めている。さすがだ。

だが、高所が有利なら俺達も高所を取るべきでは?


「まぁ、誰しも高所は取りたがるだろう。見渡せるしな。そこをあえて下に潜むことによって、見付けにくくする」


なるほど、灯台下暗しということか。

案外、すぐ側にあるものは見えにくいものだ。

そしてこれはバトロワ。漁夫の利こそが最強の戦術である。そのためには、見つからないことが前提だ。


「ま、見つかったところで俺が負けるはず無いが......まぁどの道最初は様子見で良いだろう」


アルス、こいつ本気で勝ちに行く気だ。

ここまで真剣になられると、さすがに緊張してくる。


「なるべく潜んで、敵を不意打ちするのが得策だろう」


それには同感だ。

ただでさえチーム内に勇者の孫がいるのだ。

闘う前からヘイトは高いはず、それで派手に闘いでもしたら、真っ先に潰されるのは俺達だろう。


『それでは、開始して下さい!』


ボーン!とドラがなる。

凄い音が響き渡るのは、魔術のおかげだろう。


「索敵」

「了解」


と、トルドが索敵魔術を使った。


「エネミー・センス」


範囲の索敵魔術っぽいな。

普通、索敵魔術は敵のざっくりとした位置しか掴めないのだが。


「東......あちらの山上に三人。その山から、こちらに向かって降りてきているのが一人います」


へぇ、なかなか繊細だな。優秀な魔術だ。

そしてその、降りている一人ってのはおそらく索敵魔術を持ってる奴だな。

どのチームもやることは同じだ。


「よし、ならその一人とやらから片ずけるか。こちらへ向かってきているのは、気付かれていると思っていいかもしれん。むしろ気付かせて、引きつけるんだ」


そこを待ち伏せして叩く。

チームの索敵を失っては、こちらの位置も探れない。完全に有利な状況まで持って行ける。たとえそれが索敵魔術の使い手で無くても、一人削れるのは相当痛いはずだ。


「そいつ一人に気付かせるんだ。そいつがいた方向に向かって魔術を撃て」

「了解」


トルドは剣を構えた。細剣だ。

俺とアルスは片手剣、トルドは細剣、そしてウィリーは盾とメイスだ。

武器は、基本的に剣が多い。だが細剣、いわゆるレイピアと呼ばれるものは、少数派だ。

突きの連続攻撃には向いているが、片手剣の方が汎用性が高い。


「エクステンド・ブレード」


だが、トルドは細剣の使い方が少し特殊だった。

トルドは剣先を敵のいるという方向に向け、構える。

すると刀身が光りだした。

そして真っ直ぐ地面と並行に、敵の方角目掛けて刀身が伸びた。

そんな魔術があるのか。

確かにその魔術なら、大きな音も立たず、周りから目立つことが無い。

そして、


「敵が刀身を確認しました。こちらへ来ます」


誘い込みに成功した。正直言って馬鹿な敵だとも思う。

そりゃあ一人で三人を倒せれば最高かもしれないが、倒せなかった場合の確率とリスクが大きい。


「よし、来たら合図を出せ。それまで隠れておくんだ。合図と同時に身柄を拘束しろ」


的確な指示。

勇者というより策士だ。


「来ます......3、2、1」

「今だ!」


全員で一斉に飛びかかった。

すると計画通り、敵チームの一人の身柄を拘束。撃破することに成功した。


「クソ......」


念の為、雷属性の魔術で気絶させておいた。

よし、次に狙うならこいつのチームだろう。

今は三人しか居ないはずだから、人数て有利だし、あちらは索敵魔術を使える人を失っている。

圧倒的有利だ。


「一気に攻め込むぞ」

「いや、待ってくれ」


俺は、初めてアルスに意見した。

今までは俺も同じことを考えていたので賛成していたが、その指示は作戦とは言えない。


「敵は残り三人。なら、下手に魔力を使う必要は無いだろ?ここは体力を温存して、確実に倒せる作戦で行こう」

「俺に意見するのか?」

「まぁ聞けって。まず敵の注意を引く。その隙に残り三人を、同時に気絶させるんだ。その方が、派手な魔術を使っての戦闘も無く、静かに、確実に倒せる」


だが、アルスはとても不満そうな顔をしていた。イマイチ信用が出来ないのだろう。

しかし、ここで手を抜いて一気に攻めるなわてことをしても、他の敵に位置バレをしたり、魔力切れになったりしてしまう可能性がある。


「で、注意を引くってのは具体的にどうすんだ?それによっては考えなくもないが」

「俺が囮になる」

「......」


三人は、同意した。





「よし、この上だ」


俺達は、敵のすぐ近くまで来ていた。

敵のチームは、まだ一人失ったことに気付いていないみたいだ。


「本当に上手くいくんだろうな?」

「大丈夫だって、いざとなってもアルスがいれば安心だよ」

「......気持ちの悪いやつだ。行くぞ」


三人には、俺と別の方向から攻めてもらう。

俺は索敵をしている振りをして、敵の注意を引く。その間に三人に後ろから奇襲をしてもらうというものだ。

いたってシンプルだが、これが割と効いたりする。

よし、じゃあ俺も行くか。


「お?」

「へっへっへ、馬鹿な奴だ」

「やっちまおうぜ」


俺は、少しだけは走っただけなのだが、隠れていた敵三人は気づいたようだ。

上手く食いついてくれたな。


「ヤバっ、見つかった!?」


ちょっとわざとらしく焦ってみる。

そして、追いつきそうで追いつかないような速さで逃げる。


「おら、待て!」

「逃げんなァ!」


嬉しそうについてきちゃって、後ろから狙われてるとも知らずに。

バチバチっと雷属性魔術。

まるで、スタンガンのように気絶させることが出来た。


「ふぅ、どうだ?」

「ふん。悪くは無いが、つまらぬ作戦だな」


お?ツンデレちゃんか?

まぁ、一チームを倒せたことは大きい。

他のチームも、だいたい闘っている頃だろう。

何せ九チームあるのだからな。残っているのは、少なくても五チームくらいかな。

俺の透視魔術を使っても良いのだが、それはなんかズルい気がする。相手に合わせて闘ってこそ、真の勝ちと言えるだろう。


「一部隊倒したのは良いが、次はこんなに都合よく倒せるとは思えない。もうそろそろ俺達も上に上がって、闘っているチームを後から叩くのが良案だろう」


それが出来れば一番安全に勝てるのだが、おそらくそう上手くはいかない。

次は俺達が奇襲されるかもしれないし、ここは様子見で隠れておくのがいいと思うが......なんか、コソコソと隠れてばかりだな。

全然勇者の孫という感じがしない。

ここは一発派手に闘って......と、来たか。


「シック・シールド!」


周りに魔力切れの盾が張られた。

丸いドーム状になっていて、四方八方からの攻撃を防げる。

本格的な防御魔術だ。後から教えてもらお。

防御魔術を使ったと言うことは、敵の攻撃を受けたという事だ。

シールドの内側から見て、発見した。


「盾はいらん。俺が迎え撃つ」


と、アルスが言った。

自信過剰も良いが、もう少し仲間に感謝したらどうだ?


「お前らは下がってろ。そもそも作戦なんていらなかった。俺が全員ぶっ倒す!」


今更になって勇者の孫ということを思い出したのか、アルスは急に荒っぽくなった。

奇襲を受けたのが、腹たったのだろうか。


「お、勇者の孫じゃねぇか」

「いくらお前でも、四人を相手にさすがにキツイんじゃないのか?」

「構わん。来いよ雑魚ども」


アルスは剣を抜いた。

その金色の刀身がキラキラと光を放つ。

高そう。


「チッ、舐めんなよッ!!」


四人は一度にかかってくる。

だがアルスは構えようとしない。直立だ。

そして、剣を横に一線振り払った。

ただそれだけで、ただそれだけなのに。


「ぐわぁあ!!」


四人は吹っ飛ばされた。

金属音は無い。

まだ剣は体に触れてもいなかったのに、風圧だけで吹き飛ばされる。

さらに、鎧のお腹あたりに切り傷がついていた。


「な、何が起こったんだ......!?」


凄い。その一言に尽きる。

魔術名も叫んでなかった。ということは、まさか!?


「これは魔術でも何でもない。ただの技だ」


驚いた。

そんなことが出来るのか。

触れてもないのにこの威力なら、もし刃が当たった時には、もう鎧など関係無しに切ってしまうだろう。


「貴様ら、死にたくなかったら降参しろ。貴様らのような雑魚が、この大会に出るべきではなかったな」


そう言って、剣を振り下ろした。

するとそれだけで、地面がパックリと割れる。軽く振っただけでも、およそ五メートルほど亀裂が入っていた。

きっと、観客席で見ている人達も驚いていることだろう。

この、圧倒的な実力に。


「こ、降参なんてしてたまるか!」

「くらいやがれ!フレイム・バレット!!」


炎の魔力弾を撃ってきた。

だが、アルスはそれを軽く剣で弾き飛ばす。まるで虫でも払うかのように。

ただそれだけで、いくつかの魔術は消し飛ばされた。


「ふん」


ブワッと、風が来た。

アルスが、一瞬で転んでいる敵の目の前まで移動したのだ。

あまりの速さに、敵も驚いている。

その怯えようは、もはや敵では無く、ただの可哀想な人だった。


「この圧倒的力量差を見ても分からないのか?凡人」


この光景は遠い観客席から見ると、勇者のように見えるのだろうか。

ここからじゃ、ただ敵にトラウマを植え付けているだけにしか見えないが、このアルスのファンからすればそれは、味方を守った英雄のように見えるのだろうか。


「こ、降参する......」


その言葉を聞くと、アルスは剣を鞘に収めた。


「行くぞ。今ので確信した」


確信。

アルスは、まるで悪党のような笑みを浮かべてそう言った。


「俺の敵はいない」


無敵。

まさにその意味だ。

この競技の初めは、アルスも警戒して作戦を立てていたが、今のチームに勝ったのは、正真正銘のアルスのみの力だ。

しかも無傷、一瞬で終わった。

ならは、この大会はアルス一人でも充分に勝てるという事だ。

先程のチームが、偶然弱かったとしても、他のチームが異常に強いということは無いだろう。

一番警戒していたディアノラ学園も、ノクディがいないのであれば他の学園と同等。

「俺達に負けはない」そう思ったのだ。

けれど、そんなに甘いものではなかった。


「ア、アルスさん!」


ウィリーが、何かを発見したようだ。

俺も見に行く。


「!?」


そこには、四人の気絶した人が倒れていた。


「こ、こっちにも......!」


少し離れたところにも、四人。

相打ちは考えられない。

つまり、二チームを連続で倒したということだ。


「アルスさん......近くにいます」

「何?」

「隠密を使われていて、気付きませんでした......それと......」


俺は唾を飲み込む。

何か見られているきがしていたのだが、どうやらそれは当たりだったらしい。

というか、こんなに沢山の目にみられていれば、そりゃ誰でも気づくだろう。


「八人、二チームいます」

「そんでもって、俺達は一チームだ。手を組んだんだよ」


同盟か。

お互い、最後になるまで手を組もうって話をしたのだろう。

この模擬戦は、何をしてもあり。

本当の闘いなら、四対八はズルだとか言っていることは出来ない。

かと言って魔王の力はさすがにズルいと思うけどな。

つまり、なんでもありというルールを利用したわけだ。

俺達は文句を言えない。


「アルス、やるしかないようだ」

「分かってる。貴様に言われる筋合いはない」

「さぁ、どうする?勇者の孫さんよぉ」


俺達は剣を抜いて、戦闘態勢に入った。

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