最後の試験
試験の最後の内容は、俺も驚くようなものだった。
実戦形式で「講師の人と一対三で闘う」というものだ。
武器は、柔らかい素材出できているものを使い、魔術なら何でも使ってもいいとの事。
「どうにかして勝て」
とだけ言われ、俺達は順番を待たされている。
なにせ、講師に比べて試験者の人数の方が圧倒的に多い。いくら一対三とはいえ、時間がかかるのは当然だ。
つまり、待ち時間が発生する。
この間がすごく緊張する。
まるで、病院で注射を打つまでの順番待ちをする子供のような気分だ。
「うぅ、緊張するなぁ......」
隣の子。あまりの緊張のせいか声が漏れている。
順番からして俺はこの人と、あと後ろに来る人と組むことになるな。
ん?てか、この人一番最初に試験受けてた人じゃないか。
武器の所で時間がかかったのか、俺と同じくらいの順番になっていた。
「だ、大丈夫か?そんなに緊張しなくても、たぶん先生は本気でやりはしないさ」
あまりの心配しように、つい話しかけずにはいられなかった。
初対面なのに、嫌われたらどうしよう......
「あ、ありがとう......一緒に頑張ろうぜ......」
うわぁ......みるみる顔が青くなっていく......青ざめる過程を見れたのは、人生初めての経験だった。
こうなったら、何がなんでもこの人に勝たせたい。合格させてやりたい。
そう思ってる間に、俺の後ろの人が来た。
同じチームになる予定の人だ。
俺は笑顔で振り向いて、挨拶をする。
「やぁ、たぶん同じチームだね。よろしく!」
「あぁ?」
こ、怖えー!この人めっちゃ怖いよ!
なんかすっげー睨んでくるし、言葉遣いも怖いし、気軽に話し掛けるんじゃなかった。
「テメェらが俺様のチームだと?チッ、足引っ張んじゃねぇぞ」
なんでこんなにイライラしているのだろう。
もしかして、試験に自信が無いのだろうか。
もうできるだけこのヤクザとは関わりたくないんだけど、まぁ同じチームなので仕方が無い。一緒に頑張るか。
「次のチーム、前から三人。入れ」
「はい」
返事をしたのは俺だけ。
一人は気絶寸前、もう一人は不良。
どうしようもねぇなこれ。
心配がよぎる中、俺達は門をくぐって闘技場の中に入る。
闘技場の真ん中へ行くまでの通路には、長机が置いてあり、様々な種類の武器が置いてあった。
ここから選ぶらしいな。
俺は剣を手に取り、講師のいる、闘技場の中心へと向かった。
「え、あれ?盾持たないの?」
「ん?」
っと、後ろから話しかけてきたのは、ブルーフェイスか。
剣と盾を持っていた。
この世界では盾を持つのが主流なのか。
「盾、邪魔なんだよね」
あはは、と笑ってみせる。しかし、会話をしても緊張は一切ほぐれていないようで。
顔がまだ青いままだ。今にも吐きそうだな。
「モタモタしてんじゃねぇ、とっとと行くぞ」
今度はヤクザが、大剣を片手に先に行ってしまった。あんな大きい物を軽々と......力はあるようだな。
しかし、もう既に連携を取れてないのが目に浮かぶのですが。
「や、やっぱり槍にしよっかなぁ......近付かなくても当てられるし」
ブルーフェイスはまだ武器を決めていなかったようだ。というか、だったら槍より弓の方が良くね?と思う俺だが、「どうせ当たらないか」とも同時に思ってしまった。
「盾があった方が安心じゃないかな......?」
と助言したのだが、盾を持っていかない人に盾を持っていけど言われても、説得力がないのは分かっている。
「そ、そうだね。そうするよ」
なんとか決まったようだ。
得意な武器とか無いのかな?
「急げ、待ってるぞ」
「う、うん」
俺達も集合した。
やはり待っていたのは先に行ったヤクザと、この学園の先生だった。
「よぉ、遅かったじゃねぇか。さ、はじめようか」
先生は特に防具など付けておらず、武器もただの棒切れ一本だけだった。
男の人。ムキムキって程ではないが、そこそこ筋肉が引き締まっている。
そこから予想するに、近距離のアタッカーだな。
「さぁ、三対一でお前らの方が有利だな。どうやってこの状況で勝つ?」
「んなもん決まってんだろ。ぶちのめす!」
案の定、ヤクザが突っ込んだ。ありゃ死んだな。
闘いにおいて、冷静さを失うのは良くない。
この場合はヤクザの人だな。
それに比べて先生は、猛突進してくるヤクザに対して、棒立ち。構えすらもしない。
挑発か?それともそういう構えなのか?
どちらにせよ、このままだとヤクザは死ぬ。
「おりゃァ!!」
大剣を振り下ろす。
単純な動きだ。
もちろん、かわされる。しかし、ただかわすという行動にも、ギリギリでかわすか、余裕でかわすかの種類がある。
前者は無駄のない動きで、後者は安全策だ。
この場合の先生は、前者だった。
やはり、相当な実力者。素人三人を相手にしたところで、なんの苦も無いのだろう。
だが、
「ふんぬっ!」
その動きが仇となった。
もし、三人が全員素人じゃなければ?経験者や実力者が一人でもいれば、それは余裕では無くなる。
そしてこのヤクザこそが、実力者であった。
初撃をあっさりとかわされてしまったものの、地面ギリギリで寸止めし、すぐさま先生のいる方向へ薙ぎ払った。
「うぉっと、危ね〜」
先生から、思わず安堵の息が漏れる。
なかなかやるじゃないか!あのヤクザ。
「チッ、外したか」
まぁ、さすがにその程度でやれるような相手じゃ無いよな。
しかし、思ってたよりも強そうじゃないか。
ヤクザ君。
二激目も外した後、素早く防御姿勢に入ったところも抜け目ない。
俺は、守ることをよく忘れちゃうからな。
「ふむ、悪い動きじゃないな。だが、少し突撃し過ぎだと思うね。もう少し味方と連携を取ってみては?せっかくの三対一なんだし」
三対一。さっきから何度も出ている単語だ。
これは、恐らくヒント。
先生は、合格するために必要なものを教えてくれているのだ。
この有利な状況をどう生かすのか。そこが鍵だろう。
「ちょっと」
俺はヤンキーの肩をぽんぽんと叩いて呼んだ。
「あぁ?」
「どうやらこの試験は、チームで勝たなくちゃいけないみたいだ。一人ではなく、皆で。だから」
俺は、ヤンキーとブルーフェイスと手を繋いだ。これは仲間の印。
今だけでもいいから、どうか協力して欲しい。
「俺達は、思いは同じだろ?だったら協力しよう」
ヤンキーは舌打ちをしながらも、賛同してくれた。ブルーフェイスは、相変わらずガタガタと震えながらも、協力してくれるそうだ。
「よし。先生はまだ俺達のことを見くびっている。次で一気に決めたい」
「俺に命令するな。だが、確かにその意見には賛成だ。まだ俺もお前らも手の内を見せちゃいねぇ」
そう。それは先生も同じだが、お互いにまだ魔術を使っていないのだ。
だから、どれほどの魔術を使えるのか。
それがまだ判明していない。
「俺ぁ、近距離魔術しか使えねぇ。だが、一撃の威力は保証するぜ」
「分かった。なら、君にトドメの一撃を入れてもらうよ」
なんだこの人、めっちゃ考えてるよ。
脳筋かと思ってたけれど、判断力と言い、動きと言い、冷静ならこんなにも頼りになるのか。
是非ともお友達になっておきたいな。
「して、君はどんな魔術が使える?」
ブルーフェイスに聞いてみた。
俺はまだこの人の魔術を『ショット』しか見ていない。それも低威力の。
「お、俺は強化魔術かな......自分だけじゃなくて、味方の筋力とかを強化出来る......」
「よし、なら俺が先生の動きを止める。その間に強化して、一撃を入れてくれ」
一気に決める。
先生の魔術も、全く見ていないけれど、恐らく近距離魔術の使い手だろう。
なら、少しづつ距離をおいていけばなんとかなるはずだ。
「話し合いは終わったか?なら、こちらから行くぞっ!」
何!?先生の方から突っ込んできた。
狙いはブルーフェイス。聞いてないぞそんなの。
すかさず俺が間に入り、先生を食い止める。
先生の武器である棒を、剣で弾き飛ばした。
「ほう、やるね」
そこにすかさずもう一撃......は、防がれてしまった。
ここで一旦距離を取る。
「良い動きだ。見た目の割にはスピードもパワーも結構あるな」
「そりゃどうも」
少しづつ近づいて行く。
一歩づつ、剣を前に構えながら歩いていく。
そして、先生との距離が五メートルほどとなった瞬間。
「「ブレイド・スティング!!」」
俺と先生は、同時に魔術を使った。
それも、偶然同じ魔術。
お互いに驚きはしたが、それよりも威力の勝負が始まった。
刀身が光を放ち、通常時よりも細くなる。
それは針のような形となり、少しだけ伸びる。
ガキィンという金属同士の当たる音。
火花が飛び散る。
俺は、この距離なら突きで押し通せるとの考えで、虚をついたつもりだったが、まさか先生も同じ事を考えていたとは。
しかし、負けるわけにはいかない。
「うぉおおお!!」
乱れ突き。
それはどんどん加速していく。
俺も先生も、一歩も譲らない。
と、その時。
俺の手から、剣がすっぽ抜けた。
いつも使っている剣よりも軽かったからだ。
手が慣れておらず、滑らせてしまった。
その隙を、先生は見逃さない。
「もらった!」
そう思ったのは先生だけでは無かった。
俺は単なる足止め。
先生の動きを止めれば良いだけだ。
そうすれば、先生の後ろから......
「俺が行くぜ」
もりもり強化されているのが、見た目で分かるほどだ。
その両手で持った大きな剣を振りかぶり、かつて俺がヤンキーと呼んでいた少年が立っている。
「グランド・メテオォオオオ!!」
決まったな。
「たんまぁあああああ!!」
と思われたが、先生は大きな声で叫んだ。
その声を聞いた途端、両手剣はピタッと寸止めされた。
にも関わらず、風圧で地面が抉られてしまうほどの威力。
これはさすがに......
「......俺の負けだ」
先生は、両手をあげて膝を着いた。
こうして、俺達は勝ったのだ。
「合格だ」




