決意
「ふぁあ」
朝の日差しとともに、俺は起きた。
この宿は日当たりが良く、窓から光で爽やかに目覚めることができる。
それに、昨日はぐっすりだったからな。
よく寝られて良かったぜ。
俺は、寝ていたのにも関わらずまだ人間の状態を保っていた。どうやら、自分の意思で変身を解かないといけないらしいな。
ムクっと上体を起こす。
辺りを見回し、ロナとリリアの姿を確認する。
うむ、真隣のベッドで寝ているな。まぁ俺はベッドの間の床で寝ていたんだが。
「ん......」
お?静かに起き上がったつもりだったが、起こしてしまったか。
「ライルさん、おはようございます......」
まだ目が半開きだ。リリアは眠たそうだな。
ロナに至っては、まったく起きる気配すら無い。
「あぁ、おはようリリア。まだ眠そうだな。そんな無理して起きなくてもいいぞ」
「いえ、今日は試験の練習がてら、モンスター退治をしようと......して......いたの......」
あーこりゃダメだ。もう魂が抜け始めているな。
そんなこんなのやり取りを繰り返して、俺はなんとか二人を起こした。
「おはようライル!」
「あぁ、おはよう」
「さっそくだけど、部屋出てくんない?」
おいおい、いきなりだな。俺なにか悪いことしたか?部屋を出されるようなことをした覚えはないが。
「着替えるからさ」
「あぁ」
そうでした。俺は魔術で服を着替えることも出来るから、すっかり忘れていた。なんか、魔術にばかり頼っていると、普通の人間としての生活を忘れていきそうだな。
そんな心配を少ししつつも、俺は部屋を出た。扉に背中でもたれかかり、中にいる二人と話す。
「そういえば、お前達はブロンズの階級だったよな?学園に通うやつは、だいたいどれくらいの階級なんだ?」
もしかしたら全員ゴールドとか、プラチナの可能性もありうる。だとしたら、そんな上級の学園に通っても、劣等感を抱くだけで終わってしまうかもしれない。それだけは嫌だからな。
しかし、リリアからは意外過ぎる答えが返ってきた。
「階級なんて無いですよ?」
「え?」
階級が無い?それは階級という制度がないという事か?いや、それは違う。ギルドに登録した際に、階級を教えてもらったからな。
「冒険者になる前に通うための学園です。ギルドの登録は必要ですが、依頼は受けられません。学園が禁止しています」
「ならお前達は......」
「内緒でやってます。お金が欲しいので」
つまり、ブロンズというのも嘘。ギルド登録はしているが、階級は無し。しかし依頼だけは受けていると。
無断バイトみたいなものか。
まぁそれも仕方あるまい。
何せ、ロナとリリアは親がいない。
少し、二人の話をしよう。と言っても、初めて会った日に聞いたことなので、ざっくりとしか聞いていないが。
ロナとリリアは幼馴染で、二人とも何一つ不自由は無い普通の家庭に産まれた。
しかしある時、魔王軍と名乗る軍勢に、住んでいた街が襲撃されてしまった。
炎の中で泣き叫ぶ中、二人は連れ去られる。
連れ去られた先には、他の子供たちもいた。
『言うことを聞けば、貴様らの子供は助けてやる。だが聞かぬと言うのなら、子供がどうなっても知らんぞ』
魔王軍は、子供たちの目の前で、親達に向かってそう言ったそうだ。
もちろん、親は泣きながら懇願する。「どうか子供たちだけは」「お願いします。助けてください」と。
だが、ロナとリリアの親は違った。ロナの父親は熟練の冒険者で、当時もまだ現役。そしてその弟子がリリアの父親だ。
そう、逆らってしまったのだ。自分たちの身を犠牲にしてまで、子供たちを逃がした。
「このまま俺達が言うことを聞いたところで、子供を解放はしてくれないだろ!なら、せめて子供たちだけでも......」
それが、ロナとリリアの聞いた、最後の言葉だった。
しかしそのおかげで、子供たちと数人の親は助かった。ロナとリリアの両親を犠牲にして。
そのことを、今でも二人は恨んでいる。魔王を、魔王軍を恨んでいる。
だからあの時、階級も無いのにディミトリー達について行ってまで、魔王に復讐しに来たのか。
残念ながら、その願いは叶わない。なぜなら俺が魔王を殺したからだ。そして、その魔王の力は今も俺が持っている。
俺が秘密を明かさないのも、そのためだ。
しかしこうして、二人は互いに助け合いながら生きてこられている。
だがそれも大変だろう。だから、俺が助ける。俺が二人を養ってやる。そう心に決めたのだ。
俺はグッと拳を握りしめ、再び決意する。
部屋の扉を勢いよく開け、中の二人に叫ぶ。
「これからは代わりに俺がやる。だから、お前らは学園を大いに楽しめ!」
「え、でも見つかったら......」
「大丈夫!お前達もやってたんだろ?なら俺にも出来るさ。なぁに、これから一緒に暮らすんだ。一文無しじゃ暮らしていけないぜ?」
パァっと、二人の表情に笑顔が生まれる。
俺が少しでも、二人の負担を減らして楽にさせてやらなくちゃな。
「あ、ありがとうございます!」
任せておけ。何せ、憎き魔王の力を持っているんだ。その力を振るい、存分に稼がせて貰おうじゃないか。
「ですが......あの」
「ん?」
リリアの笑顔は苦笑いへ、ロナは冷たい眼差しに変わる。
「まだ着替え中だから出てって」
あ。
「はい......すみませんでした......」
俺は何度も頭を下げながら、もう一度部屋を出ていった。こういうことは、これから気をつけよう。
しばらくして、二人はやっと着替え終わる。
「よし、準備完了!」
「あれ、防具も着たのか?だから俺が代わりにやるってのに」
「いいの、さっきも言ったでしょ?私達はテストの練習しに行くんだから」
そういえばそんなこと言ってたな。テストはやはり実技があるのか。まぁ、どんなテストであろうと、実践から学んだものが通用しないようなものでは無いだろう。
ぶっつけ本番よりはマシだ。
ということで、俺達はギルドへと向かう。
「そう言えば、依頼を受けることを学園が禁止していると言いましたが、正確には、学園が許可している範囲なら大丈夫です」
そうなのか。学園が許可しているって、例えばめちゃくちゃ簡単な依頼とかかな。
「ですので、凄い人だと、学園に通っているのにも関わらず、もうプロ級の人もいます」
プロ級......なら、その人の実力に合った依頼だと判断されれば受けてもいいとか、そんなところか。
「そいつは凄いな。一度会ってみたいものだ」
「いやぁ、あれはマジでヤバいよ」
「ヤバい?」
ロナは、まるで体験したかのように語る。
「あれはね、一種の変人ってやつさ。学園の手続きをしてるときに見たんだけど、その人だけオーラが違ったよ。間違いなくあの人、強いよ」
へぇ、見たのか。変人......まぁ馬鹿と天才は紙一重って言うしな。どうかその人と同じクラスとかにはならないで欲しい。
「あ、そうだ。一個確認しておきたいことがあったんだ」
俺は、ギルドの掲示板の前に立つ。依頼を確認しながら、二人に質問する。
「お前らの今の所持金っていくらだ?」
「えっ」
「いやぁ......ちょっと......」
なんだ?そんな言いずらいことなのか。
「い、一文無しです......」
「へ?」
「い、一枚もありませんっ!」
どっひゃー、まじかよ。そんなんでこれから暮らせるのか?大丈夫なのか?
「学園に通う分を払ったら、ちょうど全て無くなっちゃいました......」
あぁなんだ、そういうことか。てっきり学園にすら通えなくなるかと思ったぜ。
きっと、そうまでして学園に通いたい理由があるんだな。
「で、でもこれから稼いでいくので、問題ありませんっ!」
「うんうん!リリアと私は最強だからね!」
最強か......いい響きだな。だが、問題無いかどうかは、コイツらが言うことじゃない。俺が問題なくさせてやらなくちゃだめだ。
「違うだろ?俺も手伝うんだがら三人で最強だ」
「ライルさん......」
頭を撫でてやりたい気分だが、俺も二人とだいたい同じ背丈なので無理がある。恥ずかしいし。
「よし!じゃあ今日も頑張って稼ぐか!」
「はい!」
「うん!」
「おーおー、朝から元気がいいねぇ」
なんだこのおっさん!?
俺は驚愕してしまった。
「お嬢ちゃん達、俺達と一緒に遊ばない?」
ブックマーク登録、ありがとうございます!
少しでも読んでくださるだけで、励みになります。
お気づきでしょうが、旅編から魔術学園編に変わりますので、これからも読んでくださると嬉しいです!




