依頼
「モンスターってのは、個体によって弱点がある。ゴブリンの場合は人間と同じく首で、スライムは核だ」
へぇ、そうなのか。と、なぜか学園に入る前から勉強している俺だが。
その程度なら誰でも知っている知識らしい。
「弱点を的確に狙えば、素早く仕留めることが出来る」
「まぁでも、ライルさんならスライムぐらい、弱点を狙わなくてもワンパンでしょう」
え、そんなに弱いのか。もう少し強いと思ってたが......スライムってやっぱりどの世界でも雑魚モンスターなんだな。
「お、噂をすればいたわ」
レティシアが指をさす方を見ると、水色のぷよぷよとした物体があった。スライムだ。
すげぇ、これがスライムか。一気にRPGっぽくなってきて、少しワクワクするな。
俺はスライムに近づく。しかし、スライムは動かない。
「よく見ると、顔がないな」
目がなければ、耳もなく、もちろん鼻もない。口......というか、食事をする機関すら見当たらない。
「スライムは、獲物に体を覆い被せるようにして食事をするんですよ。体内から特殊な液体を出して、それで溶かしてから吸収するんです」
思ってたよりも残酷だな。その溶かす威力はどれほどなのか知らないが、少なくとも人間に害を及ぼす程度ではあるな。
今回の依頼は、森の近くの畑の作物が、荒らされていて、大量のスライムが原因だそうだ。そのスライムを退治するのが、依頼内容。
近くを見渡せば、どこもかしこもスライムだらけ。さっきまで一匹も見つからなかったのに、ここには本当に大量のスライムがいるな。
「なんでこんなに増えたんだ?」
「おそらく、豊富な食料と、天敵がいなくなってきたことが原因でしょう」
「天敵がいなくなってきた?」
「ご存知でしょう?魔王がいなくなったって。そのせいで、強いモンスター達が山の上へ向かってるんです」
あぁ、その原因は俺だからよく知っている。
だからこそこの力のことは誰にも話したくないのだ。
「モンスターは、より天敵のいない頂上を目指します。今までは魔王がいたのですぐに排除されてしまいましたが、魔王という食物連鎖の頂点がいなくなったとなれば、他のモンスター達がその位置を欲しがっても仕方ありません」
なるほどなぁ。最強が消えたことによって、他のモンスター達が最強となるわけか。
「でもそれなら、スライムやゴブリンにも影響があるんじゃないのか?今はむしろモンスターによる被害が増えている気がするが」
「はい。山を目指すのは上位モンスターだけで、スライムやゴブリンなどの下位モンスターは、天敵がいなくなったのをいいことに、荒れだします」
うっわ、最悪じゃないか。魔王がいなくなって喜んだのはモンスター達だけか。
だから人間は、魔王の封印が解けたと知った時、すぐに駆けつけて来たのか。
魔王が死んだってことにはさすがに気づいているようだが、まさか俺がその力を引き継いでいるとは思わないだろう。
「ま、理由は何にせよ困っている人がいるんだ。そういう人達を助けるのも冒険者だろ?」
「そうだな。じゃあまずはスライム退治、頑張るぞ!」
「「おー!」」
スライムは、本当にあっさりと倒せてしまう。
「せいっ」
「ほっ」
剣を突き刺し、体の真ん中にある核を狙う。
まぁ俺は剣がないから、いつも通りアローシリーズの魔術で倒している。
「やはりスライムは簡単ね」
「油断は禁物ですよ、レティシア。いくら下位モンスターだからって」
「大丈夫だって、こんなの余裕よ」
レティシアはいいペースでスライムを倒していく。しかしスライムも、ただ殺られているわけではない。
これだけ倒していても一向に減らないスライム達は、その数の多さを利用して襲いかかる。
「キャッ」
「レティシア!」
素早い動きが得意なレティシアだったが、数の多いスライム達に足を取られ、動きが鈍くなってしまっている。
その隙にスライム達が、レティシアに覆いかぶさった。その数約十匹。一匹のサイズは、少し大きい枕程しかないが、それが十匹にもなるとさすがに人を越える。
そんなスライム達は、レティシアの体のあちこちにくっつき、鎧や服などを溶かしていく。
「クソ、離れやがれぇ!」
ディミトリーは、片手直剣を振り払い、レティシアに付いているスライム達を退けた。
しかし、離しただけでは終わらず、魔術で追撃をする。
「バーニング!」
簡単な詠唱の、低級魔術だったが、スライムを焼き払うには十分だった。
見事、レティシアを助けることに成功したディミトリーだったが、レティシアの鎧はボロボロ。中の服も、ほんの少しだけだが溶けてしまった。惜しい。
「大丈夫かレティシア」
「え、ええ......でも防具が」
「まずいですね、防具は後で買いに行きましょう。ですがそれは、このスライム達を倒し切ってからです」
気づけば、俺達は囲まれていた。四人で背中合わせになる。周りにはスライムだらけで、逃げ場もない。俺の魔術なら、一瞬で片ずけることも出来るが、それだとディミトリー達を巻き込んでしまう。
まずいぞ、このままスライム達が一斉に飛び込んで来たら、さすがの俺達も抵抗出来ないかもしれない。
「あーもう、いっそ空でも飛べれば......」
空か、今は人間の姿だが、俺だって鳥に戻れば空くらい......そうか!
「全員捕まってろ!」
俺は三人をだき抱えると、背中に力を込めた。すると、俺の背中からバサッと翼が生えた。
「えぇ!?何それ!」
「つ、翼が......!?」
これで飛べるはずだ。
俺は力いっぱい翼を動かし、体を宙へ浮かせる。
「と、飛んでる......」
さすがに三人は重いな。俺も長くはもたない。今のうちに下にいるスライムを消し去る。
「あ、アロー・レイン!」
なんとか魔術を発動し、矢の雨を降らせる。降り注いだ矢は、見事にスライムの核を貫通してゆき、一気に排除することに成功。
もうスライムの姿は見当たらない。
「ふぅ」
俺はゆっくりと地面に降り立ち、三人を解放する。
「はぁ、一時はどうなることかと」
「しっかしビックリしたなぁ。まさかその姿でも飛べるとはな」
「俺だって必死だったさ、まさかスライムにこれだけ手こずらされるとは」
一匹一匹の力は弱い。しかし、その数が一定数を越えると、それは数の暴力だ。
「ま、これにて一件落着だな」
「報酬受け取ったら、早速買いに行きましょ。今度はもっと動きやすい防具にするわ」
防具か......俺も武器くらい欲しいな。
「なぁ、俺もついて行って良いか?武器が見たくて」
「是非!良い店紹介しますよ」
それは有難い。果たして俺に武器が扱えるのか。剣とか、あまり重くないと良いけど。
俺達は、スライムから取れるエキスなどを採取して、一度ギルドに帰還した。




