増子美冷
「私が、ボックスマン?」
増子は薄笑いを浮かべながら呆れたように言った。「誓って言う。違うわ」
「だとしても関与している。何らかの形で」
「何の根拠があってそんな事言ってんのよ」
彼女は強く僕を睨んで見せる。
「君ほどの人物がこの時期に至るまで『箱』の被害者になっていない。それが何よりの証拠なんじゃないか?」
「評価されているんだか……それとも皮肉?」
「両方だ」
しばらく間を置いて、増子は吹き出した。
「じゃあ、私がボックスマンだったとしてね。どうするわけ? 校長に突き出す? 警察? 物的証拠もなく。お粗末ね。以外と大した事ないのね、早稲田くん」
嫌味たっぷりにそう言うと、挑発した視線を外さないまま彼女はゆっくりと室内を歩いた。
「……それに、ボックスマンがどんな悪い事したっていうのよ。『箱の被害者』なんてあなたは言うけど、そもそもそいつらが何かやらかして、それが明るみになることで報いを受けたんでしょう。自業自得って言うんじゃないかしら、そういうの」
「過去数年に至るまでその人の秘密をほじくり出して粗探しだなんてフェアじゃないな。完璧な人間などいない。それに、その数年間の間悔やみ、反省した人間だっていたんじゃないのか。人は変わる。全員が全員悪人ではないし、その情報だってどこまで正しいのか。間違いや主観は全く無いと言えるのか」
「私に言われたって困るわ」
彼女は急に興味を無くしたように声のトーンを落とすと、図書室の出入り口へ向かった。「私はボックスマンじゃないもの」
出ていく彼女を、僕はただ見つめていた。……確かに、彼女がボックスマンであるという証拠は無い。それに、『私はボックスマンではない』という彼女の言葉も、観察の結果あながち嘘では無いと思える。
だが、彼女の言動には匂わせるものがある。『私は』。彼女はやはりボックスマンと通じている……。情報面のバックアップをしているのでは。
仮説がある程度立たなければ行動することもできないが、憶測を正しいと信じ込めば独り善がり。それはボックスマンの行動のように暴走する正義感を生んでしまう。
冷静に行動しなければならない……。僕は自分に言い聞かせるのであった。




