ボックスマンの断罪 (3)
彼が他の『箱』受取人と違ったのは、その箱、及び紙を持ち帰らなかった事だった。朝教室にやってきた彼は机の上に置かれた『箱』を一瞥すると、鞄も置かずにそれを開き、紙の文章を読んだ。そして僕の方も見ず、そのまま帰っていってしまった。
残されたクラスメイト達は帰る尾下銀を見送った後、何人かが彼の席にやってきて紙を読んだ。なんせ自分の所に箱は来ておらず、他の『箱』受取人は持ち帰ってしまう。これから『箱』が自分の元へ来るかもしれないし、そう思ったなら先に中身を見ておきたいだろう。なぜ尾下銀がそれを持ち帰らなかったのか、その理由も気になるに違いない。
僕は彼がその『箱』を置いていったのは、僕に見せるためだったのではないか、と思う。自意識過剰かもしれないが、彼は自らの過去を語りたがらなかったし、僕も聞かなかった。僕も話さなかったし、彼も聞かなかった。この半年で、僕としては珍しくいわゆる世間話をするような友人が出来た。それが尾下銀だ。嫌でも入ってくる噂話ーー彼には後ろめたい過去があるようだった。僕は知らなくてもいいと思っていた。彼が知ってほしくないのであればーーだが、彼はあえて、『箱』を残して帰った。僕は立ち上がると、真っ直ぐに彼の席へ向かった。クラスメイト達は自発的に行動する僕が珍しいのか、視線をこっちにやる。僕は、紙を手に取った。
尾下銀
君は中学時代暴力で大勢の人を傷付けた
その内の一人松原真は君から受けた傷により今も半身不随で苦しんでいる
君を告発する
暴力を振るう人間は学校に相応しくない
速やかに学校から去ること
僕は『箱』に紙を戻すと、教室を出た。
そしてその足で、ゴミ焼却炉に向かう。錆びた蓋を開け、近くに置いてあるマッチで中に火を点けると、紙を破り、箱を解体して、そのちぎったものを炎の中に放った。
望んでいたはずの、静かな学校を見上げる。こうあるべきだと思ったし、こうなればいいと思っていた。
ゴミを燃やし尽くすと、学校内に戻った。
静かすぎて、耳鳴りがうるさかった。




